今年の読書(73)『もう、聞こえない』誉田哲也(幻冬舎文庫)
11月
15日
なんとも不思議な構成の『もう、聞こえない』でした。全体的には、殺人事件を中心とする〈警察小説〉なのですが、背景となる二人の女性の〈シスターフッド小説〉や、〈言霊〉としての幽霊が事件解決に導く〈ゴースト小説〉の要素もあり、展開が読めない物語でした。
部屋に押し入った男を正当防衛で殺害、傷害致死容疑で逮捕された週刊誌の記者「中西雪実」でしたが、罪を認め高井戸署の事情聴取に応じるも、こわもての刑事の前では、動機や被害者との関係については多くを語りません。警視庁捜査一課の「武脇刑事」が担当となりますが、突然「声が、聞こえるんです」と言い始めます。一向にわからぬ被害男性の身元でした。
そこに浮上したのが、14年前の「足立美波」の未解決殺人事件でした。ふたつの事件を繫げるのは、「中西雪実」に取りつく〈言霊〉としてこの世に残る幽霊の「足立美波」の未解決事件を追い求めて記者になった幼馴染の「寺田真由」でした。
14年前の殺人事件を追い求める「真由」は「美波」を殺した男に殺害され、自分のあとが待ちして配属された「中西雪実」と協力して、「美波」の無念を晴らそうとします。
骨太の純粋の警察小説ではありませんが、それなりに楽しめた一冊でした。