導入部は、主人公<秋月孝介>が勤務している旅行代理店・大角観光にて、リストラ担当者として首を切った先輩一家が、前途を悲観して飛び込み自殺をしたところから始まります。
自殺した一家の娘と<秋月>の娘とが中学校の友人同士であり、父親の非業な仕事に対し、娘も飛び降り自殺をしてしまい、<秋月>は離婚、会社も退職することになります。
かたや、日韓条約を締結するために、韓国大統領が来日するために警察は水も漏らさない体制で警備に当たる中、現職総理大臣<佐山>の孫娘が誘拐される事件が発生しますが、韓国大統領の警備に人手を割いている関係上、捜査班としては数少ない人員で対処せざるを得ません。
導入部の<秋月>の過去が、どう物語りに絡んでくるのかが見えてこないまま、誘拐犯としての緻密な計画が進み、「なるほど」と納得する場面から、一気にクライマックスのどんでん返しへと展開してゆきます。
<佐山>の「金で何でも買える」という心情の変化、<秋月>を手助けする<関口順子>や、ノンキャリア刑事<星野>の脇役が光り、どんでん返し(書けませんが)の結末とともに、人間的な味わいが残る作品でした。
一条天皇中宮・藤原彰子に女房として仕えていた<紫式部>の原作だと言われています『源氏物語』は、通常54帖の構成です。
登場人物は500名を超し、70年余りのできごとが書かれた長編で、800種の和歌を織り交ぜた典型的な王朝物語りで、日本文学史上最高傑作と評されています。
その『源氏物語』の各帖を原典として、9人の作家たちがそれぞれの解釈や思い入れで書き直したアンソロジーとして組まれています。
谷崎潤一郎や円地文子、瀬戸内寂聴たちが現代語訳を出していますが、桐野夏生(1951年生まれ)を除くと、みな1958(昭和33)年以降に生まれた人たちばかりの構成です。
どの作家たちも読み慣れていますので、書かれている文章は「やはりねぇ」と感じさせ、各自の個性が良く出た文体と解釈が楽しめました。
9編中8編までが光源氏(17歳~48歳)が主人公ですが、最後の『浮船』だけが薫(27歳)を主に据えた物語りでした。
これまたいい作品に出会えました。
6話の短篇からなる一冊ですが、一篇一篇の話しがつながってゆく連作集です。
主人公の<江波淳史>は、警視庁捜査一課に所属していた刑事ですが、上司の<加倉井>管理官の捜査方針に従って容疑者を取り調べ中に、青酸カリで自殺されてしまいます。
上司の責任を取る形で、花形刑事から、山里にある青梅警察署水根駐在所の所長として左遷されて赴任してきます。
奥多摩の駐在所として、登山に絡む事件や、ひっそりと暮らす住民を巻きこむ事件に対して、元刑事の経験を生かした捜査方針で事件を解決してゆく姿が描かれています。
あいかわらず<加倉井>が顔を出してきますが、部下の<南村>がいい脇役として、また実家に戻ってきた<内田遼子>との出会いもあり、今後シリーズ化になることを期待したい一冊でした。
明日15日は、瀬戸内寂聴さんのお誕生日(1922年・大正11年生まれ)で、91歳になられます。
老いてますます盛んという言葉がありますが、「あおぞら説法」も大人気で、ご活躍されています。
そう言えば最近、お聖さんこと田辺聖子や佐藤愛子等の女流作家たちともご無沙汰のような気がしており、何気なく手にしたのが、『老兵の消燈ラッパ』です。
佐藤愛子は(1923年・大正12年生まれ)で、現在89歳になられています。
1969(昭和44)年に『戦いすんで日が暮れて』で直木賞を受賞していますが、なんだか対応する意味ありげなタイトルとして、気になりました。
帯にあります86歳は、単行本が刊行された年(2010年)に当たります。
大正生まれの戦前派として、単刀直入に切り込むエッセイー集ですが、現在の世相を見事に反映しての文章はユーモアがあり、それぞれに考えさせられる内容でした。
文中の言葉として、<あれがいけない、これがいいなどと力んでもしょうがない。人は好むと好まざるとにかかわらず時代の流れの中で生きる。人が時代を作る。そしてその時代に流される。生きるとはそういうものであろう。>が、心に残りました。
東京都内で現金輸送車が襲われ、警備のガードマンたちが射殺される強盗事件が連続して起こります。犯人は、中国人、イラン人、コロンビア人等のメンバーが絡んでいるようで、排他的な国籍同士なのに裏社会で何かが進行している様相をみせ、物語りは始まります。
危機感を覚えた警視総監は、直属の特別広域捜査班『隼』のキャップである<鰐沢賢>に捜査を依頼、事件の解決を指示します。
『隼』は、超法規の覆面捜査活動を行うメンバーで、<鰐沢>をはじめ、<梶浦雄司>、<森脇麻衣>の3名に加え、白井組若頭<笠原友行>、ヤメ検で弁護士事務所を開いている<畑秀樹>、語学を得意とする<峰岸淳一>の6名で捜査を進めていきます。
歌舞伎町を舞台に、中国系マフイアと日本の暴力団との抗争かと思われた図式が、二転三転していきますが、容赦なく相手を撃ち殺す<鰐沢>の行動は、小説の中だけの行動だと分かりながら、小気味よく読み切れました。
裏で糸を引く神戸の暴力団<山根組>の登場には、地元神戸の垂水(たるみ)の地名が出てきたりと余録もあり、楽しめたハード・サスペンスでした。
これはぜひ皆さんに読んでいただきたいなと思う一冊ほど、どう紹介しようかと悩んでしまいます。
主人公は、大恋愛の末に山形県に嫁いだものの、後妻を用意してから離縁され、残してきた3歳の子供を用水路で溺れて亡くしている、<杉浦草(そう)>76歳です。
65歳の時に、両親が残した家を「小蔵屋」という民家風の喫茶と小物を扱うお店に改装して、今に至っています。
副題に<紅雲町珈琲屋こよみ>とありますが、76歳の年齢においては、季節の移り変わりも「老い」という重要な意味を持つのだと感じました。また、「紅雲」は、「幸運」の語呂合わせでしょうか。
山里の簡素な紅雲町で起こる日常的な出来事を、持ち前の好奇心で解決してゆく様子が描かれています。坦々とした文章の中に、76歳という人生経験を積んだ女性の強さがにじみ出ており、著者の構成力に圧倒されました。
文庫の解説者<大矢博子>は、「おばあちゃん探偵」という表現を使われていましたが、わたしは<品のいいおばあちゃんの品のいいおせっかい顛末記>と表現したく、ミステリーの分野に含めるのには抵抗を感じます。
幼馴染の<由紀乃>との交流もほのぼのとし、76歳ならではの設定がよく生かされた連作短短篇集で、これは無条件にニ冊目を読まなければいけません。
恋人<真理子>が、家まで送り届けることなく帰宅した<南條達也>は、その後車にはねられて植物人間となった彼女の事件を調べるうちに、関係したと思われ暴力団の組員を殺してしまいます。
なぜか事件はあやふやな捜査の内にお宮入りとなり、<南條>は真相を探るべく自ら警察官となり、派出所勤務を続けています。
そんな中若い女性が刃物で殺され、また連続して二人目の犠牲者が出てしまいます。
過去のコンビニ強盗事件にて、思いを寄せていた先輩刑事<芳賀>が犯人に殺された過去を持つ<早乙女霧子>は、連続殺人事件を担当することになりますが、今回の事件の捜査責任者は<財前>であり、コンビニ強盗事件の担当者でもありました。
お宮入りの組員殺害事件を一人追う定年間際の<多治見>は、科学捜査研究所に勤める娘の協力で、組員殺害事件の犯人として<南條>にたどり着くのですが・・・。
読み手側は、連続殺人事件の犯人を知りながら、この<南條>を中心とする警察機構の複雑さと、刑事魂をもった<多治見>をはじめ、<財前>・<綿貫>・<早乙女>といった人間関係の面白さに引き込まれてしまいます。
組員の殺人事件と、若い女性の連続刺殺事件は一見関係ないように話は進んでいきますが、最後に二つの事件が複雑に絡み合う構成はさすがだと感じました。
前作に読みました 『その妻』(中公文庫) の前に刊行されています『冷やかな肌』です。
前作は、明野照葉の最新作ということで優先して読みましたが、この作品も<明野ワールド>が広がり、女性主人公の「女」のしたたかさが描かれています。
総合商社「ダイショー」に勤める<相沢夏季>と年下の<小谷野良佳>と二人は、急成長している飲食店「シノワズリ」に、共同事業の展開を視野に入れての調査目的で出向させられます。
出向先では38歳ながらにして、経営母体である「王琳」の取締役であり、フランス人の夫があり、野菜を仕入れる農家と交渉しながら、3店舗の「シノワズリ」の人員配置までこなす<渡辺真理>の力量に圧倒されてしまいます。
その反面、感情を乱すことなく冷静に物事の判断をこなしてゆく<渡辺>の姿に、何か特別な思惑が隠されていることに気付き始め、<良佳>と二人で<夏季>は「王琳」や<渡辺>の周辺調査に乗り出してゆきます。
<「女」の執念・怨念・すさまじさ>という言葉がぴったりとくる<明野ワールド>ですが、<したたかさ>も加わり、いつもながら楽しめる一冊でした。
「尖閣問題」や東シナ海の公海上でおきた<おおなみ>に対する「レーザー照射」事件など、中国の動向が気になるところです。
中国の反日政策に対して、面白いタイトルだとおもい読んでみました。
著者は、中国ウオッチャーと言われるだけあって、現在の中国の分析、特に<習近平>を中心に据え、細かい軍内部の人事関係を網羅しており、面白く読めました。
欧米諸国が中国への投資を引き上げ、「チャイナ・プラス・ワン」のもと他の東南アジア諸国に活路も見出す中、日本だけがいまだ中国に固執する企業が多いのに警告をならしています。
安倍総理のASEAN諸国への積極的な訪問も、中国に対し懸念を抱く各国からの歓迎され、日本の立場の変換期が来たと著者は説きます。
社会における所得配分の不平等さをはかる「ジニ係数」も、中国は騒乱多発の警戒数(0.4)を超えて(0.63)と算出されています。
中国国内の暴動はこれからも予見でき、「反日感情」をあおることで共産党幹部の汚職問題等から国民の目をそらそうとする政策が垣間見れ、チベット・モンゴルの民族問題も含み国内情勢が不安定な中、今後の動向が気になる中国です。
著者は、2006年『闇鏡』にて、第18回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビューした作家で、この『幻想郵便局』も、分類的にはファンタジーノベルで、癒し系の物語りです。
就職先が決まらない<安倍アズサ>は、狗山のてっぺんにある登天郵便局にアルバイトとして務めることになりますが、不思議な人々や現象と遭遇してゆきます。
登天郵便局は、黄泉と現世をつなぐ希少な場所にあり、黄泉の出先機関としての役目を背負っています。
本来は<狗山比売>の社があった場所なのですが、追い出された<狗山比売>が封印をとかれ、再び戻ってひと悶着が起こります。
地獄にも極楽にも行けない<真理子>に取りつかれる<アズサ>ですが、<真理子>が殺された事件を解決したりと、「探し物をみつける」という特技が生かされ、ほのぼのとした登場人物たちともども楽しめた一冊でした。
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