『トラや』南木佳士(文春文庫)
9月
12日
主人公は「わたし」や「僕」といった主語を使うことなく、切々とした文章で心の動きを表現するという文体が印象的でした。
病院の近くの社宅に住んでいた時に、野良猫が5匹の子猫と共に庭に訪問、その後母猫は消え、残された2匹を<トラ>と<シロ>として、息子たちが小学校3年生と1年生のときに飼いはじめ、<シロ>は途中でいなくなってしまいます。
「うつ病」のため診察業務は午前中だけ、昼からは自ら精神科の受診を続けていく生活のなかで、主人公はいつまで病院勤務ができるかわからず、社宅を出て一戸建を建設、<トラ>のために猫の玄関まで作りつけました。
父親や親せきが亡くなるなか、著者自身も「老い」というものを肌で感じながら、<トラ>と共の15年間の生活が、愛情をこめて見事に描かれていました。