そこに在する「自然保護史財団 Stiftung Naturschutzgeschichte」が、しばらく前に
「自然・環境保護の歴史シリーズ」
“Geschichte des Natur- und Umweltschutzes”を公刊している。
その第2巻にフリーデマン・シュモル(Schmoll, Friedemann)が
『自然についての記憶――ドイツ帝国における自然保護の歴史
Erinnerung an die Natur. Die Geschichte des Naturschutzes im deutschen Kaiserreich』
を記した。
著者は、テュービンゲン大学ルートヴィヒ・ウーラント実証的文化学研究所
(Ludwig-Uhland-Institut für Empirische Kulturwissenschaft an der Universität TÜBINGEN)
の研究員、本論考は教授資格取得論文
(独逸は、教授資格試験がありこれを取得すると、何処の大学にも着任できる)。
前置きはさておき、「帝政期(1871-1918)ドイツにおける自然保護の近代」と題する論考、
自然保護運動の思想と実践を論証したもの。
著者によれば、1970年代以前のドイツの自然保護運動、
1970年代以前のドイツの自然保護運動は、
ナチズムの思想・体制の間に密接な関係があったにもかかわらず、
そうした事実について触れずに自然保護の歴史を政治的な局面から全く切り離すものであった。
しかし環境保護運動の高まりとともに、70年代末以降、環境史が新たに提起されると、
自然保護運動は環境保護運動の前史として位置づけられ、
そしてそれ以前の自然保護の歴史叙述自体も、再検討されるようになった、とある。
又、著者は自然保護運動の近代的な性格に着目している。
自然保護を、物質的にも非物質的にも人間と自然との関係を規制する近代社会の特有の文化的実践と捉えることで、
自然保護運動に孕まれた二面性――自然の収奪と崇拝の二極化を明らかにしようとする。
そのような性格をもつ自然保護運動の社会的な位置づけを適切に行うには、先行研究のように思想史的・心性史的な分析にとどまらずに、公的あるいは民間の諸制度の形成、そしてそのプログラムの実践を含めて、包括的に考察する必要性を主張されている。
論考の第1部「世界の新たな創造―工業化時代における自然と景観」、
ドイツにおける工業化が自然にあたえた影響につ いて。
第2部「自然の維持と文化的な記憶」では、自然保護の行政機関による制度化と、
民間、とくに市民層による様々な協会による自然保護運動を取り上げ、
その実践を正当化する自然保護活動家たちの思想が分析されている。
第3部「人間と動物」では、人間と動物の関係を理論的に考察した後、
とくにドイツで幅広く支持者を得た鳥類保護の運動を通じて、
その実践と思想が論じられている。最後に第4部「郷土と景観」では、
自然保護の協会活動の上部組織であった
「郷土保護同盟 Bund Heimatschutz」
の活動家が自然保護活動をどのように認識していたのかが論じられている(内容の仔細は略)。