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Forest Aesthetics 森林美学 キノコの宇宙

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               ...                                           © Daisuke Kawai




偶然のぞき込んだ
折れた朽木の内部
タヌキノチャブクロ(狸の茶袋)なる
まんまるのキノコがたくさん生えていた

ずいぶんおかしな名前の菌類である
まあるいかたちを
<ぽんぽこたぬき>になぞらえたものか

そう思っていたら
ホコリタケの別名である
キツネノチャブクロ(狐の茶袋)
なるものに対する名称らしい

即席ラーメンではあるまいし
たぬきでもきつねでも
どちらでもいいような気もするが
いずれも胞子を煙粉状に噴出させる
ホコリタケの仲間だ

成熟してぱんぱんにふくれた袋に
雨滴などがあたると
その刺戟で胞子が噴き上がる
そのさまが呪術的な印象を与えたのだろう
人を化かすものの代名詞である
狐狸のイメージへとつながったのだろう

しかし朽木の薄闇に浮かび上がっていたそれは
きつねでもたぬきでもなく,惑星だった

あんぐりと口をあけた
ほの暗い洞の中へ差し込んだやわらかな斜光
かそけきひかりに照らされたそれは
まさしく宇宙的な存在だった

呪術的な狐狸というのもなかなか面白い見方であるが
森の底の小さな宇宙に浮かぶ惑星というのも味がある

観る者の想像力次第で
自在にその印象を変化させる
自然界の造形物が秘めている
その喚起力には常に驚かされる

森散策の愉楽は
ときにこうして
宗教的でもある




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Forest Aesthetics 森林美学 秘密

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               ...                                           © Daisuke Kawai




きのこの秘密を知りたいと思うのなら
その傘の裏側をのぞきこんでみたまえ







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Forest Aesthetics 森林美学 小人の群れ

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               ...                                           © Daisuke Kawai



苔の褥から伸び上がった胞子体が
木洩陽に透き通った姿で
そよそよと森をぬける風に揺れている

それは三角帽子の小人たちが無数に集まり
ざわざわとなにごとか話し合っているような
そんなことを想わせる眺めだった





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Forest Aesthetics 森林美学 苔の褥

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               ...                                           © Daisuke Kawai



苔が覆っている
樹木の根を
岩石の壁を
黒土の表を
みっしりと覆い尽くしている

それは原初的な
きわめて原初的な繁茂の姿だ








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Forest Aesthetics 森林美学 水が流れている

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               ...                                           © Daisuke Kawai



水が流れている
しかし岩上にむした緑苔が剥がれることはない

この風景が意味することはなにか
わたしたちはそこからなにを読み取るべきか

ありふれたものから,気高いものを
かたちをなさないものから,美しいものを

森羅万象を認知し,意識し,展開させること
それが森を観るということの愉しみ,その真髄

乾ききった死の世界を豊饒の大地に変えたのは水の動き
その水に呼応し,世界を紡いでいった小さなものたちの在り方

冬の滝の岩壁にはりついた苔の群れのひとつひとつが
雲霧のごとき飛沫をとらえ,無数の冷たいオブジェを生みだす

やがてそれらが季節と共に流れの一端に加わり,
海へ向かって一体化し,
ふたたび雨霧として舞い戻るドラマには
科学と芸術の幸福な両立がある

諸行無常
できあがったものが硬化してしまわないよう
自然は常に永遠の活動を働かせている

森の底を水が流れているように
人のなかにも水が流れている






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Forest Aesthetics 森林美学 青い花

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               ...                                           © Daisuke Kawai



そうそれは森のどこにでもある
いたってふつうの青い花であり
野生の紫陽花というだけのもの

しかしどうしてかその花が袖を引く
くいくいと袖を引く
立ち去ろうとしても,できない
見過ごすことができない

凝視することによって顕現してくる青は
それまでの青とはどこか異なって見える

聖なるもの
それはこうして不意に顕れるものなのか





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Forest Aesthetics 森林美学 花の霊性

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ねえ,これってエクトプラズム?
そんなことをいった少女がいた

非科学的なことをいうな
そんな非難の声が聴こえてきた

ごもっとも

ただそれがもし,眼には見えぬ聖なるものへの
畏敬から出た素の言葉であったとしたならば?






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Forest Aesthetics 森林美学 篝火

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               ...                                           © Daisuke Kawai




森の底に差し込んだ幽かな木洩陽を受け
奇天烈なデザインを誇っている花の筒が
篝火のようにぽっと浮かび上がっている

銀のストライプは,きっと昆虫を
誘致するための仕掛けなのだろう

案外と昆虫にも美がわかるのかもしれぬ
輝く縦筋が,密や花粉といった
即物的な欲求を刺戟するだけのものと
いったいどうしていいきれる 

なにもこの妖しい美しさに絡めとられるのは
昆虫だけではあるまい,と強く思うのである







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Forest Aesthetics 森林美学 見る,見られる

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               ...                                           © Daisuke Kawai


森の底にたたずんでいた蘭
はなやかな色あいなれど
どこか妖しい

凝視していると
向こうもこちらを見返していることに気づく

こちらが見ているだけではない
あちらもこちらを見ているのだ






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Forest Aesthetics 森林美学 しるし

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               ...                                           © Daisuke Kawai



森の底をつたう小さな流れにたゆたう白いふくろ
鳥の排泄物
尿酸の固まり
ここに生きものひそんでいるしるしだ

巣孔の中から,親鳥がくわえて運び出したもの
視線を足下から頭上へ移す
ホラ樹の幹にあいた巣孔

巣下への糞の散乱は
そこに脆弱な生のあることを指し示す
だからふだんはもっと遠くに捨てにいくはずなのだろうが
眼下は水洗だったせいだろうか
親はひょいと孔から顔を出すと,そのまま放り出していた

生きもののいるしるし
鳥の糞だといってしまえばただそれだけのことだが
こんなものでもじっと観ていると
いろいろな想念が湧いてくる

生きもののいるしるし
それじたいがアートなのだ





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