トラピスト1システムと太陽系の比較(NASAのウェブサイトより借用)
トラピスト1の惑星軌道は拡大して表示されていて、実際はhの軌道が水星とほぼ同じ
2015年7月25日のブログに地球によく似た惑星ケプラー452bが発見されたことを書いた。この惑星ははくちょう座の方向約1400光年離れた所にあり、半径は地球の約1.6倍、組成はまだわかっていないが岩石惑星の可能性が高く、地球にとっての太陽にあたるケプラー452のまわりを385日かけて公転している。この発見では太陽と似た恒星であるケプラー452からの距離が液体の水が惑星表面に存在しうるハビタブルゾーンであることが明らかになり、生命の存在が期待されている。
また2016年9月2日のブログにはイギリスのクイーン・メアリー大学などからなる国際チームPale Red Dotが、太陽系から4.2光年しか離れていない最も近い距離にある恒星プロキシマ・ケンタウリに生命が存在出来る可能性のある惑星プロキシマbが存在することを発表したことを書いた。観測データによりプロキシマbの質量は地球の1.3倍、公転周期は11.2日で、表面に液体の水が存在出来る領域にあることが明らかになった。
2017年2月23日、今度はヨーロッパとアメリカを中心とする研究者が、チリにあるヨーロッパ南天天文台やモロッコ、南アフリカなどのいくつかの望遠鏡と、NASAが2003年に打上げたSpitzer赤外線宇宙望遠鏡を使用して、地球から39光年離れたみずがめ座の方向にあるトラピスト1に7つの惑星を確認したことを発表した。この研究グループは2016年5月にトラピスト1の3つの惑星を発見していたが、Spitzer宇宙望遠鏡で詳細に観測の結果、他の惑星の存在も確認した。
トラピスト1は質量が太陽の8%程度、明るさは1000分の1程度の赤色矮星と呼ばれる小さな恒星で、表面温度は2560度と太陽の5780度に比較して低いが、太陽系でいえば水星軌道の距離に7つの惑星が詰め込まれていて、公転周期は数日から十数日と極めて短い。7つの惑星は地球と同じ岩石惑星で、大きさは地球の0.75倍から1.13倍である。更に惑星e、f、gは液体の水が惑星表面に存在しうるハビタブルゾーンにあり、他の惑星もそれらの大気によっては生命が存在する可能性がある。太陽系外惑星はこれまでにも3500個以上見つかっているが、赤色矮星は宇宙にもっともたくさん存在している恒星であり、今回のトラピスト1惑星系の発見により地球型惑星が宇宙にたくさん存在する可能性を示唆している。トラピスト1惑星系は太陽系からの距離がプロキシマbよりは遠いが他の太陽系外惑星より近いため、今後これらの惑星の大気などを調べることで生命が存在するか、過去に存在した痕跡を検出出来る可能性がある。
惑星が液体の水を保持し続けるためには大気を保持し続けなければならない。大気中の分子は温度が高いと激しく運動し、惑星の重力をふりきって宇宙空間に散逸する。そのため惑星が水を保持し続けるためにはその重力がある程度以上でなければならない。数億年の単位で大気を保持するためには火星よりも大きい必要がある、と言われている。この点でトラピスト1の惑星は地球の10分の1程度しかない火星よりずっと大きく、水を保持し続ける条件を満たしている。
ハビタブルゾーンにある惑星に生命が存在するためには液体の水があることが第一条件だが、それだけでは十分ではない。地球上の生物を構成する元素としては水素、酸素、炭素、窒素、カルシウム、硫黄、ナトリウム、カリウム、塩素、リンなどがあるが、これらの元素は地球のもととなった微惑星を構成する岩石に含まれている。地球では約40億年前に火山の噴火とそれに伴う雨により海がつくられたが、原始の海は酸性で陸地に降った雨がナトリウム、カルシウム、マグネシウムなどを溶かして海を中和していったと考えられている。この過程で生物構成元素のほとんどは海に存在することとなったが、リンは花崗岩に多く含まれるものの海洋地殻を形成する玄武岩にはあまり含まれていない。そのため原始の海にはリンはほとんど存在していなかったようだ。DNA、RNAや生命活動に必須なアデノシン・三リン酸(ATP)などに不可欠な元素であるリンは地球では陸地に降った雨に溶けて海に供給されたが、すべてが水でおおわれている惑星ではリンの供給が容易ではなく、地球型生命の存在は厳しいと思われる。
大気中の酸素は高等生物が有機物からエネルギーを効率的に得るためには必須だが、原始生物にとっては必ずしも必要条件ではない。地球で初めて光合成を行い酸素を生み出したのは単細胞のシアノバクテリアだがその後の進化により植物が光合成を行って大気中の酸素が増加し、約6億年前にほぼ現在の酸素濃度に達したと考えられている。光合成がそれほど盛んでなかった原生代初期(約25億年)以前の地球では生物は酸素を必要としない嫌気性生物がすべてだった。だから太陽系外惑星に生命が存在するのに酸素は必要条件ではない。
C62
右からC11、C62、Santa Fe、Union Pacific
2010年9月29日のブログにくまごろうの模型遍歴を投稿したが、わが模型人生は小学生の頃の鉄道模型が原点である。子供時代には鉄道模型はお金がかかりすぎ大したことも出来なかったが、社会人になって経済的自由度が増すと高嶺の花だった機関車も手に入れられるようになった。写真の蒸気機関車は1970年頃に多分神田須田町にあったカワイモデルで購入したC62だ。HOゲージと呼ばれ軌間が16.5ミリで日本の在来型鉄道の場合縮尺が80分の1で、直流で運転する。ちなみにこの蒸気機関車はうしろの炭水車部分を含め、全長は270ミリある。
くまごろうは1973年7月まで2年間カリフォルニアのバークレイに住んでいたが、家の近くに金物屋兼模型屋があり、展示されていた機関車や車両を眺めて楽しんでいた。そこで手にした鉄道模型雑誌には同じレイアウトに2列車同時運転が可能になるゾーンコントロール方式など、当時としては斬新なアイディアがたくさん掲載されており、それに必要な部品とともに、少し無理してSanta Feのディーゼル機関車やUnion Pacificの蒸気機関車を購入した。しかし帰国後の日本の住宅事情はこれらを運行するレイアウトの設置を許さず、宝の持ち腐れ状態となってしまった。その後模型の関心はラジコンのバギーやヘリコプターに移り、これらの車両は箱入り状態が続いた。
再びアメリカに引っ越した時にこれらの模型も荷物に入れたが梱包が悪くC62は一部が破損した。その後も随分長いこと箱の中にしまってあったが、最近ふとしたきっかけで引っぱりだして修理した。塗装などもう少し補修しなければならないところはあるが、堂々としていて見栄えが良い。これらの車両を再び運転する予定はないが、機会があれば是非走らせてみたい。
昨日はSuper Sunday、松山英樹がプレイオフ4ホール目でバーディーを決めてPGAで優勝したのを確認してからわがやではSuper Bowl Partyが始まった。宴もたけなわの午後5時過ぎに外を見ると少し雪が積っている。確かに天気予報では雪が降るかもしれないとのことだったが、まさか本当に降るとは。
今朝起きると外は銀世界、15センチ位積っている。記憶が正しければ2014年2月以来の積雪だ。朝食をとっていると大きな音がして、デッキにかなり大きな木の枝が落ちてきた。今は雪がやんでいるが気温は2℃程度、予報では今夜また雪が降るとか。停電にならないことを祈っている。
Osprey V-22 (US Navyより借用)
Vertol CH-46 Sea Knight (Wikimedia Commonsより借用)
最近沖縄でアメリカ海兵隊の輸送機オスプレイが空中給油訓練中の事故で機体の一部を破損し、浅瀬に不時着大破した事故が地元で政治問題となっている。くまごろうは2013年3月8日のブログルにオスプレイについて投稿したが、改めてオスプレイについて考察する。
オスプレイV-22は50年以上前の1964年から運用されているアメリカのバートルCH-46中型輸送ヘリコプターの後継機として開発され、2005年から運用されている。オスプレイは推進器であるプロペラを離着陸時の上向きから巡航時の前向きに変更するティルトローター方式という高度な技術を採用しているため、1989年の初飛行以来、運用開始までに4回の重大事故を起こしているが、原因究明の上改良が加えられ、2005年末に運用が開始された。その後も何回か事故が発生しているが、その都度原因が究明され対策が施されている。少し古いデータではあるが防衛省発表の2003年10月より2012年4月までのデータによれば、オスプレイの事故率は103,520時間の飛行に対し2件で100,000時間あたり1.93であり、1960年代から配備されている輸送用ヘリコプターCH-46の事故率1.11には劣るものの、アメリカ海兵隊所属の全航空機の事故率2.45より低い。オスプレイによる死亡事故は運用開始前の1992年の事故で7名、2000年アリゾナでの事故で19名、2000年ノースカロライナでの事故で4名の30名に達したが、運用後は2010年アフガニスタンでの事故で4名、2012年モロッコでの事故で2名、2015年ハワイでの事故で2名の8名にとどまっている。
運用後のオスプレイ事故で指摘された問題点のひとつはホバリング時の地上の粉塵巻上げによる視界不良とエンジンへの粉塵侵入であるが、これらは従来のヘリコプターでも発生する垂直離着陸航空機の宿命でもある。この問題についてパイロットの証言では引退するバートルCH-46と比較してオスプレイの方がオートパイロット機能などにより着陸は容易とのことであり、またオスプレイのエンジンは粉塵防護のためのエアフィルターが強化され、問題が発生しにくくなっている。また運用上はハワイでの事故後、砂地離着陸時のホバリングをそれまでの60秒以内から30秒以内に短縮しエンジンへの悪影響を減少させている。因みに砂地離着陸でのホバリングは通常10秒以内である。
オスプレイは従来の輸送用ヘリコプターCH-46の約4倍である600Kmの行動半径を持ち、最大速力は約2倍の520Km/hr、輸送人員数や搭載可能貨物重量も2倍以上であり、緊急時の輸送や救助には大きな力を発揮するので、離島が多く、自然災害も多発する日本では有効な選択肢の一つである。自衛隊もオスプレイの運用上の利点を勘案し、平成30年までの中期防衛計画で17機のオスプレイ導入を決定している。マスメディアはオスプレイは危険だ、と国民をあおるような報道をするより、データに基づいてオスプレイの機能や実績を冷静に分析しその上で問題があれば提起すべきであろう。
昨夜から雪が降り、午後11時頃は約5センチの積雪となったが、夜中に雨に変り、朝起きたら半分ほど融けていた。雪がうれしいのは子供達だけで、くまごろうの年齢では雪かきや車の運転が心配になる。またこのあたりでは大雪になると停電の恐れもあり、過去には1週間も電気なしの寒い生活を強要されることもあった。
今朝、角のある雄鹿が3頭わがやを訪問した。雪で食べ物が見つからないという状態ではなかったが、たまたま雪の朝に来ただけのことなのであろう。1頭がやや小さく、他の2頭はほぼ同じ大きさの成長した鹿と思われた。わがやを餌場と心得るのは、以前母鹿に連れてこられた小鹿が成長したのだろうか。
2016年最後のGHIN
2015年最後のGHIN
今年もUSGAによるゴルフスコアのポスティングは11月15日をもって終了し、来年2月末まではこの地域でラウンドしたスコアは登録されない。その理由はこの地域では雨などによりコースコンディションが悪化するためだ。USGAハンディキャップインデックス(GHIN)は過去20回のラウンドのうち、プレイしたコースの難易度に応じて調整した良いスコア10回分の平均値であるが、今年は18.9で終了した。昨年は16.9だったから、2ストローク悪くなったことになる。ちなみに上に示した今年最後のレポートでは、良かった10ラウンドの平均は93.2でパープレイの72を引くと21.2になるが、GHINが18.9であるのはプレイしたコースが平均より難しかったためだ。
今年のシーズンを振り返ると、ドライバーショットは昨年同様比較的安定しているが、コンディションの良い夏でもやっと200ヤード程度の飛距離で、パー4では2打目がミドルアイアンでは届かない距離が残ってレギュレーションオン(英語ではgreen in regulation)が出来ず、なかなかパーが取れない。またドライバーの失敗やバンカーから1度で出せないなどにより、ハーフで1回トリプルボギーを叩くことがありスコアがまとまらない。バンカー対策としてはアメリカのシニアの間で流行っている65度のxE1サンドウェッジを夏に入手して対応したが、逆にこのクラブでグリーン周りのラフからピンそばに寄せようとして失敗することがよくあり、寄せについてはこのクラブを封印し、従来の58度ウェッジを使うようにしている。
一緒にラウンドするシニアの中でも昔はシングルプレーヤーだった80才を越えた人たちは、ティーショットが180ヤードに届かなくてもパー4では3打でグリーンをとらえ、ショットの失敗が少なくパットもうまいのでボギーペースでラウンドし、上ってみれば90前後でまとめている。くまごろうも2打目でグリーンを狙わずミドルアイアンを使えば同じようにプレイ出来るかもしれないが、グリーンに届かなくても20ヤード手前位ならピンそばに寄せてパーが取れるかもしれないとの誘惑に負け、なかなか刻むという戦略を取ることが出来ない。
もうひとつのスコア改善のポイントはパットだ。土曜定例ゴルフで一緒にラウンドするシングルプレーヤーはとにかく最初のパットがうまく、ほとんどの場合ピンのすぐそばまで寄せる。パットは天性の才能なので練習で改善出来る余地は大きくないが、来年のシーズンまでの間にパットの練習に励むつもりだ。
今朝は錦糸町近くの親水公園から京葉道路に出て、両国橋近くから隅田川東岸のトレイルを清洲橋を過ぎた先の工事中で通行止めの地点まで往復した。距離は約7キロだ。このトレイルは景色も良く走りやすいが、ところどころに東西に走る堀割があり、その度に隅田川の東に行って堀割の橋を渡らなければならない。また京葉道路には沢山信号があり、信号待ちをしなければならない。コースには芭蕉庵や記念館などの史蹟がある。
今日は早起きして皇居一周ラン。2年半前にくらべて2分以上遅い31分+。
プロキシマbからプロキシマ・ケンタウリを見た想像図(WikiMedia Commonsより借用)
2015年7月25日のブログに地球によく似た惑星Kepler 452bが発見されたことを書いた。この惑星ははくちょう座の方向約1400光年離れた所にあり、半径は地球の約1.6倍、組成はまだわかっていないが岩石惑星の可能性が高く、地球にとっての太陽にあたるKepler 452の周りを385日かけて公転している。この発見では、太陽と似た恒星であるKepler 452からの距離が液体の水が惑星表面に存在しうるハビタブルゾーンにあたり、水や生命の存在が期待されるという。
2016年8月25日、イギリスのクイーン・メアリー大学などからなる国際チームPale Red Dotは太陽系から4.22光年しか離れていない最も近い距離にある恒星プロキシマ・ケンタウリに生命が存在出来る可能性のある惑星プロキシマbが存在することを確認した、とイギリスの科学雑誌『Nature』に発表した。このチームは南米チリにあるヨーロッパ南天天文台の高精度視線速度系外惑星探査装置を使用してプロキシマ・ケンタウリの揺らぎを観測し、その揺らぎを起こさせる惑星プロキシマbの存在を確認したのだ。観測データによりプロキシマbの質量は地球の1.3倍、公転周期は11.2日で、表面に液体の水が存在出来る領域にあることが明らかになった。
太陽に最も近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリはケンタウルス座にある三重連星のひとつだが、三重連星の中では最も小さく太陽の12%程度の質量しかない。また発する光は弱いが、プロキシマbはプロキシマ・ケンタウリから750万キロメートル離れた軌道を周回しており、これは太陽と地球の距離の5%しかないため、地球が太陽から受ける量の約65%に相当する熱を受けていると推測されている。もしもプロキシマbに大気があれば、表面温度はマイナス30℃からプラス30℃の範囲であると予測され、地表に液体としての水があって、生命が存在する可能性があるが、紫外線やX線が強烈な厳しい環境のようだ。またプロキシマbは最も近い地球のいとこと言っても、ボイジャー1号と同じ秒速17キロメートルのロケットで旅しても7万7千年もかかってしまうので、人類が訪問することは叶わない。
ボーイング787のシアトルでの初飛行(ANAより借用)
ボーイング787(ANAより借用)
シアトルとその周辺では、最近でこそMicrosoft、Starbucks Coffee、Amazon.comなど日本でも有名な企業があるが、くまごろうが移住した1970年代の大企業と言えば世界最大の材木商であるWeyerhaeuserとBoeingくらいであり、ボーイングの景気は即シアトルの経済に直結しているため、同社の動向はマスコミのみならず一般市民にとっても大きな関心事であった。そのボーイングが次世代の旅客機として787を発表したのは2003年であり、2004年4月に全日空が50機を発注してローンチカストマーになったことで開発が始まった。計画では2008年に1号機が引渡されることになっていたが、設計変更、軽量化、強度不足、ストライキなど幾多の問題が発生し、実際には2011年11月に世界で始めて全日空国内線に就航した。2013年1月にリチウムイオン電池が発火するという事故が日本航空機と全日空機で発生したためすべての787の運航が一時停止されたが、バッテリーの過熱防止対策、充電器の改良、万一過熱しても発火に至らない格納容器の導入などの発火防止策がアメリカ連邦航空局により同年4月に承認されて運航が再開された。2016年3月現在の受注機数は1,139、運行機数は393であり、開発パートナーである全日空は46機、日本航空は23機を運航している。
787はDream Linerと呼ばれ、これまでの旅客機とは大幅に異なる設計となっている。その中でも機体を釣竿やゴルフクラブのシャフトなどに利用されている炭素繊維強化樹脂(CFRP; Carbon Fiber Reinforced Plastics)としたことは画期的である。従来から尾翼の一部などにCFRPを採用した旅客機はあるが、機首から尾翼付近まで胴体をすべてCFRPとしたのは787が初めてであり、その他にも主翼の一部、尾翼や垂直尾翼の一部にもCFRPを採用し、重量ベースでは機体の約50%がCFRPとなっている。CFRPは直径数ミクロンの炭素繊維を重ねてエポキシ樹脂を含浸させることにより成形するが、胴体部分は6つのセクションに分割して一体成形の後、直径9メートル、長さ30メートルのオートクレーブと呼ばれる窯で加熱・加圧することにより製作される。CFRPはこれまでの旅客機の主要材料であるアルミニウムと比較して軽量、高耐久性、腐食しにくさなどの特徴がある。また従来のアルミニウム製とは異なりリベットなどの止め金具が大幅に削減され、機体重量削減の一助となっている。CFRPに使用される炭素繊維は東レ製で、同社はシアトル郊外の工場で生産している。
CFRP製機体の採用により機内環境が改善され、快適な空の旅の一助となっている。即ち従来の旅客機では腐食防止のために機内湿度は数パーセント程度と低く保たれていたが、787では空調システムに加湿機能を加え10数パーセントにしたので、喉の痛みが減るなどより快適な環境が整えられた。また、軽量化の利点により機内の気圧をこれまでの標高8000フィート(2400メートル)基準である0.75気圧から標高6000フィート(1800メートル)相当の0.8気圧としたことも耳の不快感を削減し快適性の向上に貢献している。機内の照明はLEDで色が可変であり、また窓は大きさが従来の旅客機の1.3倍となり、シェードは電気式で5段階の明るさに調整出来る。
旧式の飛行機ではパイロットの操縦操作はほとんどが金属製のロープやロッドによる機械的リンクを介して油圧式アクチュエーターに伝わり、昇降舵、方向舵などを制御していたが、技術進歩により最近の飛行機では機械的リンクを電気信号に置き換えるフライバイワイヤが一般的になっている。フライバイワイヤとなってから機体にかかる加速度や動きをセンサーで検知してコンピュータで処理することにより、格段にスムーズな飛行が可能になった。しかし電気信号を伝える銅線は重く、保守点検が必要であり、また電磁干渉による誤作動の恐れもある。将来の飛行機では銅線の代りに光ファイバーを使用するフライバイライトとなることが予見されているが、それは光ファイバー自身が銅線よりも軽量である上、複数の電線の信号が1本の光ファイバーに多重化して高速大容量の伝送が可能であり、銅線では必要な電磁シールドを省略出来るので大幅な軽量化を図ることが出来、更に消費電力が低減し、防火性にも優れているなどの特徴による。787では基本的にはフライバイワイヤが採用されているが、機体の加速度や姿勢のセンサーに関してはフライバイライトが採用されており、重量の軽減とメンテナンスの簡素化に貢献している。高精度なセンサーとそれらから得られるデータのコンピュータ処理能力の高さから、787はFAA(Federal Aviation Administration、連邦航空局)により視界がゼロでもパイロットの操作なしでの着陸が承認されている。
従来の旅客機は飛行に必要な推力はエンジンを使用し、他のシステムの動力源として電気、油圧、それにエンジンで発生させた高温高圧の空圧を使用していたが、787ではエネルギーの効率的利用のため、空圧を使わずに機内のエアコンディショニングや翼の凍結防止システムは電力を使用している。電力源はエンジンに装着されている発電機4基だが、バックアップとして尾部にある補助エンジンに装着されている発電機2基、更にはこれらのすべてが使用出来なくなった際のRam Air Turbineと呼ばれる風力発電機1基が搭載されており、非常時でも重要なシステムに継続的に電力が供給される。
787のエンジンはロールス・ロイス社製Trent 1000またはゼネラル・エレクトリック社製GEnxターボファンエンジンが用意されているが、ファンによるバイパス流と燃焼ガス排気ジェットの流量比(バイパス比)が10.0~11.0と従来のターボファンエンジンの8.5~8.7に比較して高く、その結果燃料効率が向上し、騒音も低減している。
787の設計コンセプトは高燃費性能、高速化、長航続距離であり、CFRPの採用による軽量化やエンジン性能向上により他の同型機種と比較して燃料効率は約20%高く、ワイドボディ機では最高のマッハ0.85での巡航が可能である。航続距離はモデルによるが14,200~15,750キロメートルで、この性能を生かして大型機を投入するほどのペイロードが見込めない地方空港に中型機として運行することが可能になり、航空会社の経営効率改善に貢献している。これまではハブ空港まで大型機、ハブ空港からは中・小型機で目的地に旅客や貨物を輸送することが一般的であったが、787は乗換えなして目的地まで運行することを可能にした。これまでに全日空はムンバイ、バンクーバー、シンガポール、ホノルル、シアトル便などに、また日本航空はニューヨーク、ボストン、ダラス・フォートワース、パリ、フランクフルト、ヘルシンキ、モスクワ、ハノイ便などに787を投入しているのは、このような787の性能を活用しているからである。
787のもうひとつの特徴は全日空が開発段階から携わったことにより、機体の約35%が三菱重工、川崎重工、富士重工、東レなど、エンジンの約15%が三菱重工、川崎重工、石川島播磨重工など、また機内設備などについてはパナソニック、ジャムコ、GSユアサ、タイヤはブリジストンなど日本企業により製作されており、787は準国産機とも言える点である。特に世界で初めて一体成形によるCFRP製主翼の生産を担当している三菱重工は新しい旅客機がCFRP製主翼を採用することを予見し、将来のビジネスチャンスをうかがっている。
多くの特徴を持った787は大量輸送に適さない目的地にも効率の高さにより運行が可能となり、世界の航空会社が新たな路線に787を投入している。快適な機内環境と目的地へのダイレクトフライトは空の旅を一層楽しいものにしてくれるだろう。
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