くまごろうのサイエンス教室『水』
10月
11日
一般的に固体が融解する温度と液体が蒸発する温度は物質の分子量が大きいほど高くなるが、分子量18の水は固体から液体に変る融点が他の分子に比較して格段に高い。常圧での融点は分子量16のメタンが-182.5℃、分子量17のアンモニアが-77.7℃、分子量32のメタノールが-97℃であるのに対し水は0℃である。また液体から気体に変る沸点はメタンが-161.6℃、アンモニアが-33.3℃、メタノールが64.7℃であるのに対し水は100℃である。
水分子は1つの酸素原子に2つの水素原子が結合しているが、水素原子はお互いが約104度の角度で酸素原子と結合しているため、水分子には電気的にプラスの部分とマイナスの部分があり、これは極性と呼ばれる。そして水分子のプラスの部分が隣の水分子のマイナス部分と電気的に引きつけあうが、これは水素結合と呼ばれ、水が色々な特異な性質を示す原因となっている。固体の水、すなわち氷ではひとつの水分子は4つの水分子と水素結合して正四面体を形成しているため、この水素結合をある程度までゆるめないと液体の水に融解しない。また液体の水の状態では水分子は周辺の水分子と水素結合・分離を繰り返しており、他の分子よりかなり高い温度にならないと水素結合を振りきって水面から蒸発出来ない。水の蒸発熱が他の物質より大きいのも隣接する水分子との水素結合を絶つ必要があるからだ。また固体の水では正四面体構造の中に空間があるため液体の水より密度が低く、その結果氷は水に浮き、また氷が融けると体積が膨張するような異常な性質を発揮する。
4℃以下の温度では、水の分子は温度が下がると正四面体が増えて0℃ですべてが正四面体構造となる。0℃の氷の密度は0.918 g/cu. cmであるのに対し、水の密度は0.999 g/cu. cmであるが、密度は温度とともに増大し、4℃で最大の1.000 g/cu. cmとなる。更に温度が上昇すると水の体積が膨張し密度は温度とともに減少していく。冬季に淡水湖が凍結する際冷気に接している湖面は凍結するが、4℃の水は密度が大きいので冷却の過程で湖底に沈下し、湖底に近付くほど水温が高く、氷結した湖面と湖底の間の水温は0℃から4℃の間となって、魚は凍って死ぬことがない。この現象は逆列成層と呼ばれる。余談だが表面が凍結した湖では酸素が湖面から供給されないため酸素濃度が低下するが、このような湖に生息する魚は酸素を使わずに糖をエネルギーに変換する特殊な酵素を持っていることが最近の研究で明らかになった。
最近トラピスト1やプロキシマ・ケンタウリの惑星など太陽系外惑星が多く発見され、それらの中で色々な条件が液体の水の存在を可能にする領域をハビタブルゾーンと呼び、科学者たちは生命がいるかもしれないと期待している。液体の水があるとなぜ生命が存在しうるのだろうか。それは液体の水が溶解するとイオンになる電解質と呼ばれる分子や、極性のあるアンモニアやエタノールなど、色々な物質をよく溶かすからだ。地球上の生命はそのエネルギー源や酸素などを体内に取り込むと体内を循環する水に溶解して運搬し、水溶液の中で起きる化学反応によってエネルギーに変換し、生成した老廃物を水とともに排出することによって生存する。すなわち水は生命活動に必要な物質を輸送する媒体として重要な役割を果たしているのだ。土星の衛星タイタンには地表に液体のメタンによる湖があることがわかっているが、メタンには水素結合がないために液体の水のような媒体としての機能はない。
水に溶けない物質として油脂がある。常温で液体のものを油、固体のものを脂と呼ぶが、水と油を混ぜても分離する。両者を激しく震とうすると水または油が微粒子化しもう一方の液体中に浮いている状態となるがこれを乳化と言う。身近な例ではサラダドレッシングは酢と油が乳化したものだ。乳化は油が水に溶解したのではないため、放置すると再び水と油は分離する。
界面活性剤と呼ばれる物質は分子の一端に水と結合しやすい親水基を、他端に油との親和性の強い疎水基を持っている。親水基は電離してイオンとなるものや、水素結合で水和するヒドロキシル基(-OH)、アミノ基(-NH2)、カルボキシル基(-COOH)などがある。疎水基は鎖状の炭化水素であるアルキル基や環状のベンゼン環などがその例である。水と油に界面活性剤を加えると、疎水基が油滴を取り囲み、反対側の親水基が外側に並んで水分子と結合することにより水と油が均一に乳化し、放置しても水と油が分離しない。牛乳は含まれているたんぱく質が界面活性剤として働き、脂肪分が水に乳化している状態である。せっけん、中性洗剤などは身近な界面活性剤であり、これらは体や衣類に付着した油脂を疎水基が取り囲んで微小な粒子として水に分散させることにより、汚れを落とすことが出来る。
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