今年の読書(48)『人格者』佐藤青南(中公文庫)
8月
9日
都内で殺人放火事件が発生します。被害者は著名な楽団のコンマスをも務める男性ヴァイオリニスト<久米充>でした。
捜査一課の「音喜多弦」は、音楽隊志望の声楽科出身の玉堤署の変わり者刑事「鳴海桜子」と、再びペアを組んで捜査を開始します。
怨恨が犯行動機と睨んだ捜査本部ですが、関係者は皆、<久米充>への敬愛追慕を語るのみでした。誰からも愛された音楽家としても人間的にも〈人格者〉としての姿しか見えない彼の行動を確認していく過程で、楽団という音楽業界の裏側の世界を面白く取り込んでいます。
楽団員のオーディションにまつわる話題から、事件の糸口を見つけようと奮闘する二人でしたが、思わぬ人物が自首してきたことで、(推理小説ファンは誰も考えない展開ですが)事件は一気に解決なのかなと思える中、その裏側で〈人格者〉とは思われぬ要因が潜んでいました。