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Forest Aesthetics 森林美学 水の花

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               ...                                           © Daisuke Kawai


苔の花(胞子体!)の先端についた
ひとひらの雪片がとけて水滴となり
まあるく咲いた,水の花のように見えた
はかなげで
でも,きりきりとみなぎっていて
そうっと覗き込んでみると
そこには残雪の白い森が閉じ込められていて
さらにもうひとしずくがぶらさがっていた




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Forest Aesthetics 森林美学 カケスの春

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               ...                                           © Daisuke Kawai



端正でシックな色あいが
とても和的な印象なので
この鳥の美しさを表現する時には
よく「和菓子のような羽毛」といってみるのです

カラスの仲間であるので,賢そうな顔つきをしています
わたしの通う森で,この鳥を目にする機会が増えるのは春と秋
もしかするとひっそりと,どこかで子育てしているかもしれません

秋になると,小さなグループをつくっているのを見かけます
雪が降る頃には暖地へ移って姿を消し
雪どけの頃になると再び戻ってくるのです

ひらひら、ふわふわ漂うように飛ぶ姿が
よく目立つこともさることながら
この鳥の存在を知らしめるのは,なんといってもそのダミ声
野猿が喚いているようなその声は
容姿とはうらはらにいささか下品な印象も
しかもどうしてか,仲間と集まって大騒ぎするのが大好きな様子
コミュニケーション能力にも長けているのでしょう

ブナの冬芽がふくらみはじめた森に
この鳥の濁った鳴声が響き渡ると
ああ,ここにももうじき緑の波が
怒涛のように押し寄せてくるのだと思い
うきうきした気分になれるのです





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Forest Aesthetics 森林美学 生まれたての葉

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               ...                                           © Daisuke Kawai



いろいろな季節に
いろいろな魅力があるのだけれど
自分がいちばん好きな季節は
森がまだあわい緑の空気をただよわせている頃
透き通る緑葉が栗色の芽鱗を押し破り
産毛を輝かせ
生き生きと伸びようとしている頃







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Forest Aesthetics 森林美学 斃れた木

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               ...                                           © Daisuke Kawai



地に這うもの
伏してなお圧倒的な存在感を放つ
斃(たお)れた樹
ここまでの雰囲気を放つものには
深い森の中でもそうそう出逢えない
苔むし,蒼ざめた,聖なる倒木
目にするたび
巨いなる兵の神
オオイナルツワモノノカミ
という言葉を想う





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Forest Aesthetics 森林美学 樹貌

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               ...                                           © Daisuke Kawai



人は巨きな樹に憧れる
樹高が何メートルであるとか
幹回りが何メートルであるとか
どれがいちばんで
どれがどれを上まわったとか
数字や順番が大好きなようである
しかしそういうことばかりに囚われてしまうと
樹の貌(かお)を見逃してしまう
それは決してひとつではない
ためつすがめつ眺めてみればみるほどに
実にいろいろな貌が見えてくる
それは時として見る者をおびやかし
そしておののかす
畏れ,という感情もまた尊いものである





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Forest Aesthetics 森林美学 盆栽岩

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               ...                                          © Daisuke Kawai



かつて川が谷から削り落とした岩塊
そこに巨樹が居並び,大きな盆栽を拵えている
ハルニレ、ミズナラ、ブナ、ケヤキ、イタヤカエデ、ホオノキ
堅い岩の上に,ふつう樹は生えないし,育つこともない
初めに生えたのは苔だ
そのマットが,いつしかこれの樹々を育てたのだ
繊細にして,大胆
自然というものは,時にものすごい作品をつくる
朝陽が,この芸術をいっそうドラマチックに演出していた







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Forest Aesthetics 森林美学 ヤマセの森のブナ

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               ...                                          © Daisuke Kawai



息を呑むように美しい樹がある

陽のひかり
雨のしずく

美しい沈黙
たおやかな微笑

喜劇もあったろう
悲劇もあったろう
目をそむけたくなるような惨劇だってあったろう

しかしここでは
そのどれもがごくさりげないできごとにすぎない

このすらりとした樹の幹には
そんなものがしっかりと織り込まれている

海霧の森,ヤマセの森は,
かそけきものの宿る場所

わたしはまだこの樹を讃えきる
ほんとうの言葉をもたない

ただ立ち尽くし,見上げ,ひたすら見つめるだけだ
それでもここで
耳を澄ませることをまなび
凝視するということをまなんだ

みずからの来し方行く末を
この樹の麓にじっと坐って
ゆっくりと反芻することをまなんだ






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ANIMISMと冥途

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内田百閒『冥途・旅順入城式』岩... 内田百閒『冥途・旅順入城式』岩波文庫(1990)





ANIMISM(アニミズム)とは,
森羅万象にさまざまな霊的存在
すなわち神霊,精霊,妖精,妖怪などが宿るとする観念である。

どこにでもありそうなありふれた風景の中に
ふと「異界」を感じることがある。

怪異現象うんぬんといった,
いかにもおどろおどろしげなことではない。

なじみぶかい,いつもの場所や時間や事物。
なんということのない風景や時間のなかに
異なる世界への入口が,ぽっかり口をあけている。

観るものすべてが妙に不気味なものになり
異様な存在感を帯びはじめる。

鮮明には認識できない。
つかまえられるようでいて,決してつかみきれない。
ひしひしと,えもいわれぬ気配のみが,ただ迫ってくる。

子供の頃,しばしばそういう体験した。
風景の中に,強くそれを感じることがあった。

美しい風景を撮ろうとしているのに
どうしても違和感が浮上してくる。
いったいこれはどういうことなのだろうかと思い続けてきた。

ところがある日突然,ありきたりな風景以外
フィルムにはなにも映らなくなった。


*****

内田百閒の『冥途』を若い頃から愛読してきた。
幽霊や怪物や超常現象といったたぐいのものとは
もっと別な範疇にある「怖さ」というもの。
自分がしばしば感じている
あの奇妙な違和感に通じるものがあるような気がしていた。

折にふれて読み返す,この小説とも随筆とも寓話ともつかぬ
どうにも不思議な珠玉の文藝作品。
その岩波文庫版の解説を,かの種村季弘が書いている。
表紙カバーの見返しには
そのエッセンスがこんなふうに記されている。


  いまかいまかと怯えながら,
  来るべきものがいつまでも現われないために,
  気配のみが極度に濃密に尖鋭化してゆく


シリーズ ANIMISM を通して私は
自然界の諸々の事象と向き合う際にしばしば感じ,捉えてきた
かそけき気配のようなものを
自身のANIMISM的感覚の表現としてまとめてみようと思った。

若い頃ほど顕著ではないにせよ,森の中に身を置いていると,
初老の域に達したいまでも,時としてその気配に
ぞくりとした思いを味わうことがある。

自然をサイエンティフィックに
そしてアーティスティクに「観る」「解する」というところからは
明らかに逸脱した感覚であり,それを表現しようとすると
どうしても「あいまいなもの」にならざるをえない。

しかしこうしたこともまた
まごうことなき豊穣なる自然の片鱗なのであり,
森や原野や海辺を逍遥する愉しみのひとつなのであると
理屈でなく身心でもって感じるのである。







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ANIMISM  冥途の蝶

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ANIMISM  冥途の蝶




盛夏の森の隅の暗がりで
ひっそり咲いていた鵯花
そこへやってきた浅葱斑という大きな蝶

どこか陰鬱な感じのする花のまわりを
とまっては飛び,飛んではまたとまる

緩慢なのか,すばしこいのか
よくわからない不思議なうごき
なにかの魂がするりと脱けだしてきて
気ままに遊んでいるような

ひらひら,ひらひらと落ち着かない
けれど次第に眠気をいざなうような舞い

凝視していたら,そのままどこか別の世界へ
導かれていくような気がしていた

なあんだ,異界への入り口は
こんなところにもあったのか

不意に,蝶はまた花に身をあずけた
おおきなしずくのようだった

かそけきものを,凝視せよ



冥途の蝶
© Daisuke Kawai



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ANIMISM   凍原

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ANIMISM   凍原



茫漠たる虚無と
底知れぬ幻滅をかかえながら
世の果てへの旅が
まだまだ続くのだろうか



凍原
© Daisuke Kawai



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