今年の読書(25)『所轄魂』笹本稜平(徳間文庫)
5月
5日
警視庁捜査一課といえば、ノンキャリアの警察官の誰もが憧れる地位です。しかし、<葛木邦彦>は日々殺人事件を追いかけたあげく妻の死に目にあえなかった悔恨から、そのステータスを捨て異動を申し出て、現場の最前線である所轄の捜査係長になりました。
一方、誠実な父の背中を見て育った息子<俊史>はキャリア警視に。職場での立場が逆転した葛木父子の連携を軸に、個性あふれる刑事たちの奮闘を描き人気を博す「所轄魂」シリーズ。本書は2作目にあたります。
空き家で老夫婦の白骨死体が発見されたのを発端に、高齢者失踪事件が相次ぎ明らかに。他殺の線で捜査を進める<葛木>たちですが、本庁による不自然なまでの消極姿勢に事件つぶしの疑惑が浮かび上がります。
地をはうような捜査を重ね、犯罪や権力と相対する現場の刑事たち。彼らが積み重ねてきた時間をさかのぼって味わいたい、読後感清涼な警察小説です。