今年の読書(29)『本所おけら長屋(十四)』畠山健二(PHP文芸文庫)
5月
9日
というわけで、いきなり(十四)からの登場となっています。本シリーズは、2013年7月の一巻目刊行以来、大人気の『本所おけら長屋』シリーズ。江戸落語や下町漫才の台本で鍛え抜かれた技をひっさげ、文庫書下ろし時代小説として発刊されています。
隅田川と堅側に挟まれた一角にある「おけら長屋」を舞台として、個性豊かな住人たちが、日常生活に起こる出来事を、米屋の「万造」と酒屋の「松吉」を中心として、下町人情を絡めて、描いた四編が収録されています。
松吉の義姉、「お律」が「おけら長屋」にやってきます。二十両を奪われたという若者「新吉」を助けた「お律」は、田畑を打った虎の子の大金二十両を貸してしまう『まつあね』。
酒好き者同士の徳島藩の「若芽錦之介」と津軽藩「甲斐守高宗」との交流を描いた『かたまゆ』。
家を飛び出して2年ぶりに身重となって「おけら長屋」の裏手にある「金閣長屋」に戻ってきた「お菜美」の古都の顛末が描かれる『きれかけ』。
長屋の住民が娘のように思っている「お糸」の出産を巡る大騒動が描かれる『おみくじ』など、読み終わるとほのぼのとした人情話として、短いタイトルの意味がよくわかる短編集でした。