風が北から南に廻り込んだ。 南風が吹き込む浜には波が入り込んだ。 しかし、この方向からの風ならば、北に位置する田名岬を比較的楽に通過することができるだろう。 このまま南風を切り裂きながら、田名の集落に戻り、その後具志川島へ向かうプランもあった。 それも、かなりの波の中を進まなくてはいけない。結局僕らは、難所の田名岬へ向かうことにした。 なかなか見ることのできない風景を見るために。
難所である田名岬の手前に到着。 途中の田名の集落では、地元の人に「岬は潮流も速いし、波も高い。危ないから近づくな。」と何度も言われた。 僕たちを心配してくれてのことだ。旅の人に敬意を払ったり、アドバイスしたり、もてなしたりする気持ちは、自然なことだと思う。 「一杯おごるから、お前の住んでいる所の事を聞かせろよ。」・・・と言う事も、昔は良くあったに違いない。観光化された地域は、遊園地(遊園地も好きですが^^!)と同じだ。 寂しいことに、「観光客=お金を落とす人」としか考えない。 そういう地域では「どうすればもっと観光客がお金を使うか」と知恵を巡らし、イベントやアトラクションを次々と立ち上げる。 それはそれで楽しい。 だけれども、カヤックはそういう乗り物ではない。 潮流や天候に逆らうことはできないが、エンジン船の入れないリーフを進み、人のいない浜に上陸できる、極めて自由な魔法の乗り物だ。今日も、満潮になりきらない海のリーフの隙間を縫って、気持ちの良さそうな浜に到着できた。 勇者たちは向かい風の中を、ここまで北上した。 まずは乾杯!久しぶりに酒を飲んだ忠さんが、「自由じゃなければ、死んだ方がマシだ!」と声を荒げた。 なんだか、忠さんが高貴に見えた。 僕も酔っていたのだろう。
島から島へ渡る。 途中でやめたくなっても、行くしかない。 苦しくても行くしかない。 僕は、カヤックで色々なことを学んだ。 ただがむしゃらに進むのではない。 事前に調べることも必要だ。 天候は? 潮汐・潮流は? どんなにがんばっても、自然には勝てない。 僕らは、何か大きな存在の手のひらで、遊んでいるにすぎない。 そういう事も、学んだことの一つだろう。伊是名島を出発し、伊平屋島へ。 観光化される以前の、慶良間列島を感じる。 この海はタイムトンネルなのか? 今日はさらに伊平屋島の北を目指す。
寒い夜だった。 ハンモックにマットを入れた。 それでも寒くて、持ってきたフリースやブレスサーモを着込んだ。 困ったことに、地肌に着ているのはメッシュ・シャツなので、何を着ても暖かくならない。 着替えれば良いのだが、眠いのでやりたくない。 朝4時を過ぎた頃から、満月が沖の小島を照らし始めた。その光が一筋になって、僕のハンモックへ向かってくる。 なんという景色なのだろう。 一眼レフを持ってこなかった事を呪った。 防水コンパクトカメラで、何度も何度も撮影をトライした。 肉眼で見た感動の100分の1でも表現できることを祈って。
やっと海南の煙突が見えてきた。 往復9時間の航海。 たっぷりと遊んだ。 寝不足の身体に心地よい疲労がたまる。 グランドキャビンで大阪に帰着後、軽く宴会。 帰宅したときには、耐え難い睡魔が押し寄せ、爆睡することができた。 身体のリズムが戻ってくる。
沼島に上陸。 邪魔にならなそうな場所を探して係留だ。 漁協の方に一言声を掛けようと立ち寄ったのだけれど、そこは無人。 ちょっと気にはなるけれど、さっさと食事をしてしまおう! 木村屋さんを早くに開けてもらい、ハモ天ぷらをいただいたのだ。