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ポリファーマシーとアンダーユーズ.[地域医療の見え方.2016.Oct.18;2(75) ]

スレッド
[薬は多いけれど、肝心なものが投与されていない]
ポリファーマシーというといわゆる潜在的な不適切処方PIMsが注目される。薬剤数が増えれば、不適切な仕方で用いられている薬剤も増えるというのは、経験的にもわかりやすいだろう。ところが、ポリファーマシー状態は潜在的に“使用すべき”薬剤の増加と関連することも報告されている。つまりポリファーマシー状態はアンダーユーズと相関するという一見すると奇妙な現象が見られる。

Kuijpers MA.et.al. Relationship between polypharmacy and underprescribing. Br J Clin Pharmacol. 2008 Jan;65(1):130-3. PMID: 17578478

上記は150例の高齢者(平均79.6歳)を対象にした研究である。5剤以上と定義されたポリファーマシー状態は61%であった。Underprescription(アンダーユーズ)は31%にあたる47例と報告されており、決して少なくない。また驚くべきことにポリファーマシー状態症例の42.9%がアンダーユーズであった。これは、薬は沢山処方されているが、肝心な薬剤は出ていない、という状態を示していることに他ならない。一方、4剤以下(非ポリファーマシー状態)の症例ではアンダーユーズは13.5%にとどまっており、この結果から、ポリファーマシー状態は4剤以下の状態と比べてアンダーユーズが有意に多いことが示されている。(オッズ比 4.8[95%信頼区間2.0~11.2]

※薬剤数とアンダーユーズが相関
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2291281/figure/fig01/
※本研究における主なアンダーユーズは心不全に対するACE阻害薬や心筋梗塞に対するβ遮断薬等
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2291281/table/tbl1/

よくよく考えれば日常業務においても、本来使用すべきと思われる薬剤が全く投与されていないことは少なくない。ポリファーマシーというと、なんとなく不適切処方に目がいきがちだが、使用を考慮すべき薬剤投与がなされていないこともまた不適切処方である。例えば、Start criteria等で投与が推奨されている心不全患者に対するACE阻害薬やβ遮断薬は、現実的には投与されていないケースが多々あると言えよう。以下の研究は2003年に報告されたものであるが、心不全患者に対して、ACE阻害薬やβ遮断薬の使用はまだまだ限定的であると結論している。

Komajda M,et,al. The EuroHeart Failure Survey programme--a survey on the quality of care among patients with heart failure in Europe. Part 2: treatment. Eur Heart J. 2003 Mar;24(5):464-74. PMID: 12633547

このほか、ポリファーマシー状態とアンダーユーズが相関するとした研究論文は複数報告されている。潜在的に使用すべき薬剤が投与されていないことが不適切なのは理解しやすいが、ポリファーマシー状態と相関するというのは、なかなか興味深いところである。薬は投与すればよい、というものではないことを端的に示しているように思われる。

Galvin R.et.al. Prevalence of potentially inappropriate prescribing and prescribing omissions in older Irish adults: findings from The Irish LongituDinal Study on Ageing study (TILDA). Eur J Clin Pharmacol. 2014 May;70(5):599-606.

上記研究は、65歳以上の高齢者3,507人を対象にSTOPP/START criteriaを用いて、potential prescribing omissions:潜在的な欠落処方(アンダーユーズ)とpotentially inappropriate prescriptions:潜在的な不適切処方をスクリーニングしたコホート研究。ポリファーマシー状態とPPO、PIPの関連を検討している。

PIPの存在割合は14.6%にあたる504例。最も多かったのは高血圧に対するNSAIDs使用5.8 %および心血管疾患の既往なしにアスピリンの投与; 3.2 %であった。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3978378/table/Tab2/

PPOの存在割合は30 %にあたる1,035例。最も多かったのは収縮期血圧160mmHgを超える状態での降圧薬なし。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3978378/table/Tab3/

PIP、PPOはポリファーマシー状態と関連した。年齢、性別で調整後、ポリファーマシー状態でPIP :オッズ比2.62, 95 % CI 2.05-3.33、PP:オッズ比 1.46, 95 % CI 1.23-1.75 であった。

Blanco-Reina E.et.al. Optimizing elderly pharmacotherapy: polypharmacy vs. undertreatment. Are these two concepts related? Eur J Clin Pharmacol. 2015 Feb;71(2):199-207. PMID: 25380629

上記研究は、スペインにおける65歳以上の高齢者407例を対象とした横断研究。5剤以上と定義したポリファーマシー状態の存在割合は45%であった。ポリファーマシーのリスクファクターは、併存疾患(OR 1.98, 95 % CI 1.63-2.44), 日常生活動作の制限(ADL; OR 3.0, 95 % CI 1.51-6.11),Start criteria該当のPPOは170人(41.8%)303 薬剤であった。 Charlson Comorbidity Indexの増加は1.6倍PPOを増やす。(OR 1.60, 95 % CI 1.35-1.91). ポリファーマシー状態も同時にPPOのリスクファクターであった。(OR 2.19, 95 % CI 1.36-3.55).

[潜在的に使用すべき薬剤が使用されていないと…]
潜在的に使用すべき薬剤のベネフィットは、意外にも大きいことがあり侮れない。

Staerk L.et.al. Stroke and recurrent haemorrhage associated with antithrombotic treatment after gastrointestinal bleeding in patients with atrial fibrillation: nationwide cohort study. BMJ. 2015 Nov 16;351:h5876. PMID: 26572685

上記研究は、消化管出血により入院した抗凝固薬服用している心房細動患者4602人 (平均78 歳)を対象にしたコホート研究で、抗凝固薬を再開すると死亡リスクが有意に低いことが示されている。(ハザード比0.39, 95% 信頼区間l 0.34 to 0.46)消化管出血後に投与が中断されてしまうと、死亡リスクが増加する可能性を示唆した貴重な報告だ。

また80歳以上の高齢者を対象にした、以下のコホート研究では、潜在的に使用すべき薬剤が使用されていないと死亡リスクが増加することが示されている。

Wauters M.et.al. Too many, too few, or too unsafe? Impact of inappropriate prescribing on mortality, and hospitalization in a cohort of community-dwelling oldest old. Br J Clin Pharmacol. 2016 Nov;82(5):1382-1392. PMID: 27426227

この研究ではSTOPP-2クライテリアに該当する潜在的に不適切な薬剤と、START-2, クライテリアに該当する潜在的に使用すべき薬剤について、死亡、および入院リスクを検討したコホート研究である。

研究対象者の平均年齢は84.4歳(80歳~102歳)。平均処方薬剤数は5剤(0~16剤)、ポリファーマシーは5剤以上と定義し、その割合は58%だった。Underuseは 67% 、misuse は56%であった。またUnderuse と misuseの併存は 40% 、いずれにも該当しないのが17% であった。死亡率、入院率はそれぞれ8.9%, 31.0%, であった。underused medicationにおいて、薬剤数、misused medicationsで調整後、死亡(HR 1.39, 95% CI 1.10, 1.76) 、入院(HR 1.26, 95% CI 1.10, 1.45) と有意に増加した。一方、misuse に関しては明確な差は出なかった。

この研究ではunderuseで最も多かったのは収縮期心不全におけるACE阻害薬(26%)と冠動脈、末梢血管疾患、脳血管疾患における抗凝固薬(24%)であり、misuseで最も多かったのは4週を超えるベンゾジアゼピン(35%)であった。
(参考)DTB Select: 10 | October 2016. Drug Ther Bull. 2016 Sep 30. [Epub ahead of print] PMID: 27694107

[問題ではなく契機としてポリファーマシーを捉える]
潜在的に不適切な仕方で用いられる薬剤、それが有害事象を起こし、処方カスケード現象を促しポリファーマシーの助長につながるという負のスパイラルを引き起こしていく様は理解しやすい。しかしそのことは独立して、ポリファーマシー状態は潜在的に使用すべき薬剤が使用されていない、というアンダーユーズ(アンダートリートメント)を引き起こし、それによって、本来受けることができる恩恵を受けることができない、という状況を生み出してしまう可能性がある。

ポリファーマシーという概念に関わらず、薬物治療の妥当性という観点でこのテーマを捉えれば、ごくごく自明なことのように思えるが、ポリファーマシーを問題化したことで、アンダーユーズという側面が目にくくなっているような気もしてしまう。ポリファーマシーは問題と捉えずに、やはり薬物治療を考えるための契機と捉えたほうが良いように思える。

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