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地域医療の見え方  2016.Jun.1;2(70)

スレッド
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1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-価値観に基づく医療(values-based practice) -

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[introduction]
価値観に基づく医療(values-based practice)という概念が本邦でも紹介され始めている。日本語で読める文献はまだまだ少ないが、このような概念が表れてきた背景にはいったい何があるのか、興味深い点も多々ある。本稿では根拠に基づく医療(EBM)が受けてきた誤解と、価値観に基づく医療との関係を考察しながら、その概要を紹介し、「何かに」基づくことが僕たちには相当困難なことなのではないかということを、構造構成主義でいう所の関心相関原理を用いて示す。

[”価値観”に基づくのか”価値”に基づくのか]
「価値」と言ってもさまざまであるが、英語で「value」というと、費用対効果的側面から“価値”ある医療介入と言うような意味合いもあるだろう。「価値」と「value」は同一の事態を指し示すものではない。

Value-based medicine(Brown GC.et.al.2003 PMID: 14566642)とValues-based practice(medicine)(Fulford.1989)は全く異なる概念である。Valueには価値、(ものの本質的または相対的な)価値、値打ち、真価、有用性、等の意味合いがあるが、Valuesと複数形になると「価値観」という意味合いになる。

つまりValue-based medicineでは価値なるものがいわば客観的に付与される“値”であるのに対して、Values-based practiceでは患者や医療者の主観的な価値観(つまり定量化が不可能なもの)を軸足においている。QALYなどの指標を用いた、定量的に示された費用対効果を重視しながら提供すべき医療を判断するValue-based medicineは、主観的な価値観を重視するValues-based practiceと似て非なるものである。以下、本稿では、Values-based practiceに関して考察していくがゆえ、「価値観に基づく医療」と訳す。

[価値観に基づく医療と根拠に基づく医療]
価値観に基づく医療と類似概念にevidence-based medicine、つまり根拠に基づく医療(EBM)がある。臨床の現場ではEBMの方がなじみがあるかもしれない。しかしEBMというとエビデンスを重視し、患者の想いをないがしろにするような、そんな誤解を受け続けてきたことは確かであろう。

「価値観に基づく医療」は「根拠に基づく医療の発展系とも言われ、患者やその家族と医療者がもつ「価値」に力点を置いたものであるとも言われている。(尾藤 誠司. 医療の多様性と“価値に基づく医療” 日本内科学会雑誌Vol. 103 (2014) No. 11 p. 2829-2834 /Fulford KWM, et al: Essential Values-Based Practice (Values-Based Medicine), Cambridge University Press, 2012. )

しかし、そもそもEBMとはエビデンスを踏まえたうえで、患者の想いや患者を取り巻く環境、さらに医療者の経験まで統合し臨床決定を行う行動スタイルであった。エビデンスを参照しながら、むしろそ患者の価値感を重視することこそがEBMだったはずである。

ところがエビデンスの収集やその批判的吟味スキルに関しては具体的な方法論が示されている一方で、EBMのステップ4、つまりエビデンスの患者への適用に関しては、具体的な方法論が示されていなかったという現実もあるのであろう。EBMというと、エビデンスを重視し、どこか患者の価値観をないがしろにするような、そのような誤解は未だにあり、「価値観に基づく医療」という概念が生まれてきた状況を鑑みるに、つまるところ、EBMはこの先も誤解されたままなのだろう。我が師、名郷直樹先生は以下のように述べられている。

『科学的根拠と個別の患者の価値観を統合して、あくまでも個別の患者に最善の医療を提供するというのがEBMであるが、そんな仕事を20年以上にわたって積み上げた挙句が、「価値に基づく医療」と言うことになると、最初にあるのはどうしようもない無力感である。』
(名郷直樹.価値に基づく医療における医学的根拠の位置づけと役割.Modern Physician Vol.36,No.5,2016-5,p419)

価値観に基づく医療には「二本の足の原則」という考え方があるが、これはEBMでいうところの外的なエビデンスと内的なエビデンスというニュアンスで大きな誤りはないだろう。EBMでは医学的根拠、つまり論文結果を外的なエビデンスとするのに対して、患者が抱く想いを、内的な根拠として、意思決定に用いていた。価値に基づく医療ではこの2つの根拠を二本足の原則と呼ぶ。

しかし、この2つの根拠を等価に考えることなど人間にできるのであろうか。EBMが誤解される続けてきたことや「価値観に基づく医療」が生まれてきた背景を見ていくと、僕たちには多様な価値を偏りなく思考することは、あまり得意でないように思える。

[価値観に基づく医療の10の原則]
価値観に基づく医療に関して大まかにその概要を把握するため、10の原則を照会する。なお本節の内容は以下の論文を参考文献とした。

Br J Gen Pract. 2006 Sep;56(530):703-9. PMID: 16954004
BMC Med. 2013 Feb 15;11:40. PMID: 23414247

►価値に基づく医療と根拠に基づく医療
1.診断を含む、すべての意思決定は「2本足」、つまり事実だけでなく価値に基づいて行われる。
※価値観に基づく医療(values-based practice)の中心的なコンセプトは、すべての判断は事実と価値(観)の両方に基づくということである。EBM(Evidence-based medicine)とVBM (values-based medicine)は臨床意思決定において相互に補完的な役割を担う。これを'two-feet principle'「二本足の原理」と呼ぶ。

2.価値が多様化し、対立している状況において、あるいは、問題として取り上げられそうな時にはじめて価値に気づくような傾向がある。
※明確に意見が対立しているときに価値に気づくことは容易である。明らかな対立が無い場合においては、価値は共有されているものと思われる。価値に基づく医療では「軋む車輪の原則」と呼ばれるものがある。あらゆる人が合意を形成し、そこに批判的な意見が無い時、そのような状態はむしろ異常であり、そこには何らかの価値観の否定や支配が行われている可能性があるということに注意したい。

3.意思決定の選択の際に、科学の進展は、ヘルスケア領域における人の価値観の多様性を提供する。

▸ 価値観に基づく医療とその提供モデル
4.価値観に基づく医療において最優先される情報は、意思決定における患者、及びその関係者の考え方である。

5.価値に基づく医療において、価値に対立は正しい結論を示す規則を参照することによってではなく、異なった見解のバランスをサポートするよう設計されたプロセスにより解決される。

▸ 価値に基づく医療と臨床スキル
6.目の前のコンテキストで使用される言語に細心注意を払うことが、価値の意識を高め、価値観の違いに気づくための強力な方法の一つである。

7.経験的、哲学的方法論の多くが他者の価値への理解を深めるために利用可能である。

8. 倫理的な理由は、価値観に基づく医療において価値の違いの探究に採用されるので会って、準合法的な生命倫理のように、「何が正しいのか」を決めるために使われるのではない。

9. コミュニケーションスキルは、価値観に基づく医療において、単に(準合法的な生命倫理のように)実務的な役割を担っているのではなく、実質的な役割を担っている。

▸ 価値観に基づく医療とシェアード・ディシジョン・メイキング
10.価値観に基づく医療は倫理学者や法律家との連携を伴う(EBMにおける科学者との連携と同様)ものの、意思決定については、臨床現場の当事者へ戻すものである。


[「私の関心」に基づく医療]

「●●に基づく決定」というのは少なからず●●における関心が高まっていることを示唆する。エビデンスに基づく医療と言えば、エビデンスに対する関心が高まり、ナラティブに基づく医療と言えば、ナラティブに関心が高まる。そして価値に基づく医療と言えば、なにがしかの「価値」に関心が高まるということは少なからず否定できまい。現にEBMがこれまで受けてきた(そしてこれからも受けるであろう)誤解はそのことを如実に示している。

人は関心にとらわれている。ニーチェやハイデガーの指摘を受けるまでもなく、関心の無いものについて、思考することは困難だ。多種多様な価値観と言うのだけれども、僕たちはそのすべてを重視できるわけではない。必ず何かが見落とされる。日常的にも多数派の価値観、つまり常識的価値観が意思決定を左右することは多いだろう。

関心相関型意思決定が明らかにするのは、正しい医療とそうでない医療を、介入行為にラべリングされたイメージから判断している傾向がある、ということだ。そこにはエビデンスも重視されていなければ、時に、患者の価値観すら重視されていないという現実がある。時間に追われ、責務に追われ、気が付けば「私の関心」に基づく医療が行われていないだろうか。「何に基づくか」あるいは、そういうことはそれほど重要ではないのかもしれない。価値に価値を求めるのも、それも一つの価値観に過ぎないのかもしれないから。

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2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

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[文献]GLP-1作動薬と心不全リスク(メタ分析. PMID: 27169565)

Li L, Li S, Liu J.et.al. Glucagon-like peptide-1 receptor agonists and heart failure in type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of randomized and observational studies. BMC Cardiovasc Disord. 2016 May 11;16(1):91. PMID: 27169565
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27169565

[背景]GLP-1作動薬の心不全への影響は不明確である。このシステマティックレビューは2型糖尿病患者における、GLP-1作動薬の心不全、あるいは心不全による入院への影響を検討したものである。

[方法]MEDLINE, EMBASE, the Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) ClinicalTrials.govをサーチ。成人の2型糖尿病患者を対象としたGLP-1作動薬のランダム化比較試験及び観察研究を組み入れた。2名のレビューアーが文献を抽出しGRADEアプローチによりバイアスのリスクを評価した。

[結果]25研究を組み入れた。ランダム化比較試験は21研究18270人が解析対象になり、観察研究は4研究、111029人が解析対象となった。20ランダム化比較試験(Low quality)のメタ分析ではGLP-1作動薬とコンロトールで心不全に明確な差は見られなかった。(17/7,441 対. 19/4,317; オッズ比0.62[95 % 信頼区間0.31 ~1.22];リスク差-19/1000人5年[95 % 信頼区間-34 ~11]3つのコホート研究(very low quality)ではGLP-1作動薬が心不全を増加させることは示されなかった。

一つのRCT(moderate quality)では心不全による入院についてもリスク増加は示されなかった。(lixisenatide vs placebo: 122/3,034 vs. 127/3,034; 調整ハザード比0.96, 95 % CI 0.75 to 1.23; RD 4 fewer, 95 % CI 25 fewer to 23 more per 1000 over 5 years)
またケースコントロール研究(very low quality)でも同様であった。 (GLP-1 agonists vs. other anti-hyperglycemic drugs: 1118 cases and 17,626 controls, adjusted OR 0.67, 95 % CI 0.32 to 1.42).

[結論]2型糖尿病患者においてGLP-1作動薬は心不全や心不全による入院リスクを上昇させない。

[文献]ジャガイモと高血圧(コホート研究 PMID: 27189229)

Borgi L.et.al. Potato intake and incidence of hypertension: results from three prospective US cohort studies. BMJ. 2016 May 17;353:i2351. PMID: 27189229
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27189229

[目的]焼いたジャガイモもしくはゆでたジャガイモ、フライドポテト、ポテトチップスの摂取と高血圧の関連を検討した英国の前向き縦断的コホート研究

[参加者]Nurses' Health Study,コホートより女性62175人、Nurses' Health Study II,コホートより女性88475人、Health Professionals Follow-up Studyコホートより36803人が対象となった。(いずれもベースラインで高血圧なし)

[評価項目]高血圧発症(ヘルスケアプロバイダーによる自己報告診断)

[結果]1か月に1サービング未満の摂取に比べて、週に4サービング以上では焼き・ゆでジャガイモもしくはマッシュポテトで1.11 (95% confidence interval 0.96 to 1.28; P for trend=0.05)フライドポテトで1.17 (1.07 to 1.27; P for trend=0.001)、ポテトチップスで0.97 (0.87 to 1.08; P for trend=0.98)であった。

[結論]焼き、ゆで、マッシュポテトとフライドポテトは高血圧発症リスクの独立したリスクファクターかもしれない。

[コメント]まあ味付けとかそういった問題のような気もする。個人的にはポテトチップスのほうが、影響が大きそうな印象だが。野菜で置換するとリスクが減るらしい。

[文献]通勤スタイルとBMI(横断研究PMID: 25139861)

Flint E.et.al. Associations between active commuting, body fat, and body mass index: population based, cross sectional study in the United Kingdom. BMJ. 2014 Aug 19;349:g4887. PMID: 25139861
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25139861

[目的]アクティブ通勤者(徒歩もしくは自転車を通勤の全部または一部に利用)が、肥満の客観的な生物学的マーカーにもたらす影響を評価することで、肥満予防における、通勤戦略を決定する。

[デザイン]英国世帯経時的研究(UKHLS)のwave2健康評価サブ検体データを用いた横断研究。曝露については、自己報告に基づき、自家用車通勤、公共交通機関通勤、アクティブ通勤の3つに分類した。

[参加者]解析サンプルはBMI解析に7534例、体脂肪解析に7424例。

[評価項目]BMIおよび体脂肪率(%)

[結果]男性において、BMIスコアは自家用車通勤に比べて、公共交通機関で1.10[95%信頼区間0.53~1.67]、アクティブ通勤者で0.97[95%信頼区間0.40~1.55]低かった。女性おいても同様に0.72[95%信頼区間0.06~1.37]、0.87[0.36~0.87]低かった。体脂肪率も同様の傾向であった。

[結論]男性、女性ともに、自家用車通勤に比べて、公共交通機関、アクティブ通勤でBMIや体脂肪率が低かった。この関連は交絡調整後も変わらなかった。

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3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

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地域医療の見え方、今週で70号です。毎週の編集なので、なかなか時間的にも厳しいのですが、はやり新たに知った概念や論文情報のプールは必要で、そこから得られる示唆は臨床の現場でもとても役に立ちます。また一方で臨床の現場から発生した疑問を整理し、それに対する考察を深める場としてもこのブログは活用しています。いずれにせよ言語化はとても大事なことです。

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