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今年の読書(63)『絶滅の牙』レイ・ネイラー(創元SF文庫)

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今年の読書(63)『絶滅の牙』...
ヒューゴー賞受賞の<レイ・ネイラー>の『絶滅の牙』は、2025年10月10日に文庫本が(創元社)より発売されています。
 
近未来。野生の象は絶滅し、シベリアには遺伝子工学で復活したマンモスの保護区が創設されていました。象を保護する生物学者だった「ダミラ」は死後一世紀を経て、その意識を一頭のマンモスにデジタル移植し、群れを率いる存在となります。だが彼女らを狙う密猟者が現れ、自然と人間の相剋を、SFならではの視点で描いています。
 
マンモスの生態や種族保存の工作、マンモスの牙を狙う密猟者や狩猟好きの富豪たちが登場し、生態系のバランス維持の難しさや、ヒューマニズム事態に潜んでいます傲慢さや独善を露呈させています。
 
それにしても、記憶や意識が保存さるようになった世界で、それらを恣意的に利用される者の意識がとても悲しく伝わる、一冊でした。
#SF #ヒューゴー賞 #文庫本 #読書

今年の読書(62)『ターミネーション・ショック 』ニール・スティーヴンスン(パーソナルメディ)

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今年の読書(62)『ターミネーション・ショック 』ニール・ス...
小説『スノウ・クラッシュ』で〈メタバース〉という言葉を生みだし、人工知能(AI)社会を先取りした<ニール・スティーヴンスン>が描く、地球温暖化が深刻化した近未来を舞台にした環境問題「Cli-Fi(気候変動フィクション)」小説として、破天荒な英雄たちによる地球改造の物語『ターミネーション・ショック』は、2025年10月15日に発売されています。
 
オランダの女王「サスキア」自ら操縦する小型機が、滑走路に乱入した野ブタと衝突して不時着します。その場に居合わせたのが、テキサスで巨大な野ブタを追っていたハンターの「ルーファス」でした。「サスキア」をその場から助け出すと、彼女と行動を共にすることになります。
 
世界が気候変動による海面上昇や異常気象に苦しむ中、テキサスの億万長者である「T.R.シュミット博士」は、「世界最大の銃=ビッグガン」と呼ばれる巨大な装置をメキシコ国境近くに建設し、二酸化硫黄を成層圏に噴射するソーラー・ジオエンジニアリング計画を進めていました。
 
そして、オランダ、ヴェネツィア、太平洋の島々など、海面上昇の脅威に晒される低地国家や地域の有力者と資産家を招いた発射実験によって既成事実化してしまいます。
「T.R.シュミット博士」のソーラー・ジオエンジニアリング計画の支持者と反対者の間で国際的な対立が激化していく中、登場人物たちはそれぞれの立場で地球規模の危機に立ち向かいます。
 
環境問題の近未来小説というだけではなく、各国の利害関係や思惑も絡み、現代社会の問題点を集約した小説としても楽しめました。
#単行本 #地球温暖化 #読書

今年の読書(61)『犯罪前夜』吉川英梨(小学館)

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今年の読書(61)『犯罪前夜』...
テレビドラマ『新東京水上警察』の原作として話題を呼びました、『アゲハ 女性秘匿阿捜査官 原麻希』から始まる〈ハラマキ〉シリーズや「十三階」シリーズなどの警察小説の名手<吉川英梨>の『犯罪前夜』は、2026年4月22日に刊行された社会派エンタメ小説です。
 
大阪市内で起きた強盗殺人事件。闇バイトによる犯行と思われますが、大阪府警本部捜査一課の「高城」が犯人グループを追って大阪港へ到達すると、観光帆船のシージャック事件へと発展してしまいます。制圧のために海上保安庁特殊警備隊(SST)の隊長「岸本」らが突入しますが、船では思いもよらない事態が待ち受けていました。
 
第1部の悲劇的な幕切れを迎えたシージャック事件には、多くの謎が残されます。犯人たちはなぜ犯罪に手を染めることになったのか。シージャックされた船の中で、本当は何が起きていたのか。
 
第2部「加害者家族」では、犯人たちの家族と刑事たちの交流が描かれますが、関西人らしい漫才らしい会話を導入して、悲劇の中の喜劇を巧みに描いています。
 
そして第3部の終盤から、予想だしない真相が浮かび上がり、第4部で終結に向けて展開していきます。警察小説の名手が時代を切り取る、破格の社会派エンターテインメントとして、一気読み必死の一冊です。
#単行本 #読書

今年の読書(60)『一夜』今野敏(新潮文庫)

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今年の読書(60)『一夜』今野...
<今野敏>による「隠蔽捜査」シリーズも14作目の最新刊となります単行本『分水』が(2026年1月15日)に刊行されていますが、新潮文庫としては、2008年1月29日発売の『隠蔽捜査』に始まり、2026年9月1日発売の本書『一夜 隠蔽捜査10』でシリーズ13冊目になりました。
 
神奈川県警刑事部長の「竜崎伸也」のもとに、著名な小説家「北上輝記」が小田原で誘拐されたという一報が入ります。本を読まない「竜崎」は一般人同様に事件本部を設置し捜査を始めますが、犯人からの要求がなく、目的や安否は不明のままで捜査が難航します。
 
そんな時、「北上輝記」の友人と名乗るミステリ作家「梅林賢」が捜査への協力を申し出てきます。「竜崎伸也」は彼の協力で、誘拐事件の謎を解くための助言を求めます。
 時を同じくして都内で殺人事件が発生しており、その事件が誘拐事件の裏に隠された真相へと繋がっていきます。  
 
一方で、「竜崎」のポーランドに留学していた息子の「邦彦」が大学を中退して映像の世界に進みたいと訴えるなど、おなじみの家庭内の騒動を絡ませ、また作家業界の実情も描かれており、事件の展開はシリーズの読者なら、結末が途中でわかると思いますが、面白く読み終えれました。
 
『分水』が文庫本化されるまで、またしばらく「隠蔽捜査」シリーズはお休みです。
#文庫本 #読書

今年の読書(59)『るるたん・おさむの欲望のKPI』(扶桑社新書)

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今年の読書(59)『るるたん・...
〈月収1億円〉のセクシー女優で人気インフルエンサー〈欲望マーケッター〉の<るるたん>(27)と、元放送作家でスタートアップファクトリー代表の<鈴木おさむ>との共著が『るるたん・おさむの欲望のKPI』です。扶桑社より(新書版584)で2026年9月1日に発売されています。
 
<るるたん>が働く風俗業界を「欲望の世界」と位置づけ、さまざまなビジネスの視点から掘り下げた1冊です。風俗業界を、ここまでビジネス的な目線で解説した本は、ほかにないと思います。
 
また、<るるたん。の考え方は・思想や哲学は、風俗業界だけでなく、あらゆるビジネスに通じるところがあると思われます。
 
手取り60分8000円の風俗嬢から月収1億円セクシー女優に上り詰めた〈欲望マーケッター〉の<るるたん>は、「60分20万円」という驚異の単価設定でSNSを騒がせましたが、そのキャリアの始まりは19歳の時で、60分手取り8000円の格安店でした。<るるたん>はいかにして、月収1億円を稼ぎ出す〈同人AVの女王〉に上り詰めたのかが読み取れます。
 
その過程には、単なる個人の成功ストーリーを超えた、「売る」「伝える」「選ばれる」に効く実践的なマーケティング思考が凝縮されています。数々のヒットコンテンツを世に送り出してきた<鈴木おさむ>が「欲望マーケッター」の異名をとる彼女の思考を徹底的に解剖していきます。
 
本書で公開される〈るるたん流メソッド〉は、「初回は、80点で帰す」「セールは、絶対にやらない」「太客は、作らない」「顧客の財布を読み、消費を遅らせる」「商品を売るな、「世界観」を売れ」などといった項目を通じて、一見、機会損失にすら見える選択の数々が、なぜ月収1億円につながるのか。本書はその因果を、<るるたん>本人の言葉と図解で解き明かすしていきます。60分1万2000円から60分20万円に至る全プロセスを、<鈴木おさむ>がマーケティングの普遍論へと昇華させる1冊となっています。
#新書版 #読書 #風俗業界

今年の読書(58)『大阪電車春秋 六色の線路』山本 巧次(西日本出版文庫)

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今年の読書(58)『大阪電車春秋 六色の線路』山本 巧次(西...
鉄道を舞台とする小説は、<松本清張>の時刻表を巧みに使用した場面が印象に残る『点と線』(1958年)という推理小説の金字塔をはじめ、<西村京太郎>の〈鉄道ミステリー〉をはじめ、身近なところでは、<有川浩>の『阪急電車』など数多くあります。
 
<山本 巧次>の本書『大阪電車春秋 六色の線路』は、2026年5月27日に文庫本が発売されており、関西の鉄道6社〈阪神・京阪・近鉄・南海・阪急・大阪メトロ〉を舞台として、大阪弁で書かれています短編集です。
 
大阪を走る6つの私鉄 で、それぞれの沿線で動き出す人情物語が描かれ、すれ違う親子のわだかまり、電車で見かけた同級生とはじまるまさかの恋、息子がたどる父の出生に隠された真実、通勤途中で見つけた推し活のまさかの顛末などが描かれ、そしてばらばらの人生が交差し、大阪メトロの一つの駅での結末へと導かれます。
#文庫本 #読書 #鉄道

今年の読書(57)『あなたが誰かを殺した』東野圭吾(講談社文庫)

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今年の読書(57)『あなたが誰...
本書『あなたが誰かを殺した』は、第1作『卒業』(1986年)に始まる刑事「加賀恭一郎を主人公とする、「加賀恭一郎」シリーズの第12作目として、2023年9月に単行本が刊行され、文庫本として2026年8月12日に発売されています。
 
なかでも、人形町を舞台にした第8作目『新参者』(2009年刊)はテレビドラマ化され、俳優の<阿部寛>さんが、「加賀恭一郎」役を演じて話題になりました。その後、同キャストで第9作『麒麟の翼』(2011年刊)・第10作『祈りの幕が下りる時』(2013年刊)も映画化されています。
 
ちなみにシリーズとしては、2024年に刊行されました第13作『誰かが私を殺した』が最後になります。
 
『あなたが誰かを殺した』は、閑静な別荘地で起きた連続殺人事件の真相をめぐるミステリーです。 夏の避暑地で、別荘を持つ裕福な家族たちがバーベキューパーティーを開いた深夜、5名が殺害されます。
 
 犯人の男「桧川大志」は。老舗ホテル「鶴屋ホテル」で豪華な夕食を済ませた後、自首しますが、「死刑になりたい」と語るだけで動機や真相を話そうとしません。
 
納得できない遺族たちは、真相を突き止めるために「検証会」を「鶴屋ホテル」で開きます。休暇中の刑事「加賀恭一郎」が、遺族の「春那」の付添いとして「検証会」に参加しますが、司会進行役を務めることになり、出席者たちの行動の裏に隠された真実をあぶり出していきます。 
 
自首した「桧川」のほか、愛猫「ルビー」を放置された動機などから少女「栗原朋香」の犯行が明るみに出ますが、最後に別の真相も隠されている重層的な展開で、意外な結末が待ち受けていました。
#文庫本 #読書

今年の読書(56)『刑事の境界線』宮島明道(宝島社)

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今年の読書(56)『刑事の境界...
第24回「このミステリーがすごい!」大賞の文庫グランプリ受賞作<宮島明道>の『刑事の境界線』が、2026年6月3日に文庫本として発売されています。
 
2人の刑事の視点で語られる警察小説で、複数の事件が同時多発的に起きる、<エド・マクベイン>の「87分署シリーズ」や<R.D.ウィングフィールド>による「フロスト警部シリーズ」の系譜に連なるモジュラー型警察の典型です。
 
小金井中央警察署の刑事第1課盗犯係の「馬場みどり」は、ゲームセンターで発生した空き巣じけんを捜査していました。一方で、同署の組織犯罪対策係の「為井忠之」は、ガサ入れのため後輩の「佐竹」と違法風俗店を張り込み中でしたが、「為井忠之」は保身のために店長の「ホセ」を逃がす算段を考えています。
 
刑事になって3年目の正義感の強い「馬場みどり」と、捜査で賭博に出入りして借金が膨らみ、暴力団の指示に従わざる得なくなった悪徳刑事「為井忠之」の視点が交差していきます。
 
脇役たちも賑やかで躍動的で面白く、最後の最後で、2人が交差する構成も秀逸でした。
#モジュラー型 #文庫本 #読書

今年の読書(55)『永遠の記憶』東野圭吾(文藝春秋)

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今年の読書(55)『永遠の記憶...
7月23に亡くなられた直木賞作家<東山圭吾>の最後の著作となりました『永遠の記憶』は、「ガリレオ」シリーズ11作目の単行本として8月5日(文藝春秋)より発売されています。
 
<東野圭吾>の代表作ともいえる「ガリレオ」シリーズですが、「湯川学」や「内海薫」などの主要登場人物たちの変化や成長を見続けるのも、謎解きと合わせて、楽しみのひとつでした。前作『透明な螺旋』(2021年9月10日刊)では、「湯川学」の過去が明らかになり、本作では「内海薫」の私生活がうかがえます。
 
本書前半の第1部「履歴(たど)る」は、「薫」が暴漢に腹部を刺されるという事件から始まります。「薫」を襲撃した老人を取り調べるうちに、彼女が過去に担当したことのある事件にたどり着きます。その若い娘は、「薫」に恨みを抱いているようです。後半の第2部では、襲撃犯の老人が、実は過去のある事件とつながっていることが判明します。それはシリーズの読者ならだれでも覚えている20年前の物語です。その事件にまつわるある事実が、湯川と長年の友人である「草薙」によって明らかになります。
 
第2部が「終活(ふりかえ)る」とされているのも、著者が本書を自分の作家生活の集大成として考えられていたことが、読み取れます。かって『容疑者Xの献身』(2005年)を巡ってミステリー論争が起きたのですが、この第2部は、その論争に対しての<東野圭吾>自身の回答ともいえるからです。
 
人の感情に興味がなかった「湯川」は、その事件で「人の心も科学だ」と知ります。<東野圭吾>が、ミステリーとして描いてきたのは〈単なる謎解き〉だけではなく、その先にある人間の悲哀や愛おしさを含めているのです。本書はそんな<東野圭吾>の「終活」作品です。
#単行本 #読書

今年の読書(53)『不倫に関する、ちょっとした疑問』許俐葳(中央公論新社)

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今年の読書(53)『不倫に関す...
現代台湾での<許俐葳>による愛の矛盾に食らいつく複雑恋愛小説『不倫に関する、ちょっとした疑問』が、< 中村加代子>の翻訳で、2026年6月22日に発売されています。
 
凡庸さを嫌悪するフェミニストを自認し、作家を目指す「私」がうっかり迷い込んだのは、落ち目の映画監督とのありきたりな不倫でした。
 
センスが良くて、優しい善人である年上の映画監督との不倫が、自分にとって何なのかをアイロニーとユーモアで描いて、自分にとっては何なのかと問います。
 
人生において、自分自身に正直で、責任を持つことがいかに重要なことなのかを、本書は大人のやり方で教えてくれます。
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