今年の読書(49)『半導体』大鹿靖明(講談社)
8月
16日
ダウ平均株価や日経平均株価の値動きに注目していますが、必ずと言っていいほど「AI・半導体銘柄」に関する項目が株価指数の変動要素として反映・登場し、世界経済を動かしています。ということで〈半導体〉というタイトルに惹かれて手にしました<大鹿靖明>の『半導体』で、2026年5月28日に(講談社)より刊行されています。
2010年、尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視艇に体当たりし、海保職員によって船長が逮捕されました。中国はこれに反発し、〈レアアース〉の輸出を全面禁止すると通告してきます。狼狽した民主党の<菅直人首相>は処分保留のまま船長を釈放します。一連の経緯によって、中国は〈レアアース〉を「戦略物資」することで切り札になることを学習します。
翌年の東日本大震災と福島第一原発の放射能漏れ事故によって、日本は太陽光発電を中心とした自然エネルギーに大きく軸足を移しますが、すでに太陽電池の生産は中国メーカーに主導権を奪われつつありました。中国は先進諸国から学んだ技術をもとに政府から巨額の補助金を得てあっという間に日本メーカーを駆逐し、世界市場を握っています。
同じころ、半導体製造の根幹となる露光装置でも日本は後発のオランダ企業に打ち負かされようとしていました。次世代の露光装置に極端紫外線(EUV)を使うというアイデアを世界に先駆けて考案したのは日本人研究者でした。しかしニコンが手をこまねいている間にオランダ企業が実用化に成功し、この分野の「世界一強」となりました。
リーマン・ショックとそれに続く円高によって、DRAMと言われる半導体メモリを製造するエルピーダが破綻し、米マイクロンに買収されました。続いて、液晶テレビで世界に先駆けたシャープが、新参者の台湾の鴻海精密工業に下克上されています。
日本企業の失敗の原因は、成功体験による傲慢さ、企業内外の人事的対立、経営者のリスク回避姿勢です。
2010年代初頭、日本のハイテクメーカーは急速に凋落し、気がつくと、韓国や台湾どころか中国に先端製品を抑えられるようになりました。中国への警戒感が台頭するとともに「経済安全保障」という思想がアメリカやヨーロッパからもたらされました。
日本企業の持つ技術や製品を囲い込んで、外国の「侵略」から守るという戦略を模索し始め、経産官僚はまずTSMCを誘致することに成功し、渋る財務省を押し切って巨額の補助金をもぎとります。するとアメリカのIBMから「最先端の半導体製造技術を提供する」という話がもたらされます。当初、一部の官僚は半信半疑でしたが、ロシアのウクライナ侵攻が転機となりました。同じように、もし「中国軍が台湾に侵攻」したら、その連想が、後押しします。こうして、新興企業「ラピダス」に10兆円もの国費が投入される巨大プロジェクトが、進行しはじめます。
著者は巨額の投資に対して、「航空母艦が必要な時に戦艦大和を建造しているようなもの」とあとがきに記しています。「その投資が正しかったかどうかは数年後に明らかになるだろう」と追記しています。日本の電機企業の盛衰を30年にわたって取材してきた著者にしか書けない壮大な「半導体」の歴史がつづられている一冊でした。









