伝説のツナ缶みたび お土産ツナ缶として定着した由比缶詰所が誇るラインナップのうち、門外不出の至宝「炙りビントロ」。炙りビントロそのものの詳しい解説は、一昨年の2017モデルを参考されたい。本稿では筆者から見たツナ缶の総括、2017モデルと2020モデルの違いを中心に紹介している。 「入手性を無視して、長井さんが最高と思うツナ缶は何ですか?」への答え。ビンナガのとろ肉を炙り、それを一つ一つ剥がし詰め、オリーブオイルに漬けたツナ缶。同様の製法を用いるツナ缶としてシーチキン炙りとろを挙げるが、あちらはキハダのとろを使ったライトミート製品で、こちらはビンナガを使ったホワイトミート製品だ。 10月10日は筆者の誕生日で、「缶詰の日・まぐろの日」。誕生日には毎回このツナ缶と、その時に飲みたい酒を開けることを目標にして毎年生きていて、今年もこの日を迎えることがかなったのである。公開が遅れたのは単純に忙しかったから。 筆者が思う2020年期(2019.10~2020.10)のツナ缶トレンド 新型コロナウイルス感染症が日本を脅かして既に半年以上が過ぎ、長期にわたる自粛や巣ごもりによって缶詰全体の需要が急騰した。これは2011年東北地方太平洋沖地震の後にもみられた傾向で、ツナ缶のほかにサバ缶やトマト缶、さらに製菓材料までその特需が及び、震災のころにあった保存食一辺倒の集中でなく裾野の広がりをみせている。 また、震災当時はミヤカン・気仙沼ほてい・木の屋石巻水産(いずれも宮城県)の被災による操業停止→国産ツナサバ缶生産激減、東洋製罐(仙台工場)被災による缶胴の不足など大きな混乱があったが、今回は各社とも工場をフル稼働させて需要急騰を混乱なく乗り切った……というのが消費者としての肌感覚だ。各社とも相当な努力をもってコロナ禍に挑んだことは想像に難くないし、本ブログを目にかけてくれた関係者がいたら御礼申したいところである。 各社のプロモーションも「巣ごもりで増える家族分のおかずをツナ缶でカバー」「帰省できない代わりに実家へツナ缶の贈り物を」といったツナ缶の可用性と保存性を前面に押し出し、急伸したサバ缶との差別化を図っていた。 他の青魚缶詰(イワシ、サンマ、サバ)では、サンマの漁獲量が激減し、ミヤカンが原材料サンマの冷凍在庫を払底(アーカイブ)というニュースが影を落とした。気仙沼は10月10日にようやくサンマ初水揚げと相成っているものの、原材料サンマが補充され生産計画が立つまで同社のサンマ缶を頂くことはかなわないだろう。廉価・小型の青魚として親しまれたサンマ缶と、ブーム以降高級志向への転換が進むサバ缶。イワシ缶市場が成長し、第三の選択肢になるかどうか…… また、サバ缶専門レビュアーとしてTwitterで活動を始めたサバ子氏(@sabasaba_mizuni)がサバ缶・シンギュラリティとなった点も注目したい。氏は画像1枚で1種類のサバ缶を紹介するというスタイルを取っており、読みやすいレビューと歯に着せない評価で1万人に迫るフォロワーを獲得している。氏がツルヤ(長野県ローカルスーパー)のPBサバ缶を発見し「この値段で飛び抜けた味」と評した途端、いちローカルスーパーのいちPB製品の名がSNSで轟き、消費者もまた新進気鋭のレビュアーを欲していることが見て取れた。 ツナ缶以外の缶詰が盛り上がるのは需要を食い合う(競合する)のでは、と考えられがちだが、少なくとも製造側からしたら共存繁栄の関係にある。先述のサンマのように不漁が翌年の生産計画に直結するうえ、ブームやコロナの影響で消費者が殺到した時に市場全体の缶詰流通量を急に調整することができず、機会損失が積み上がりやすい。 いっぽうツナ缶は現状こそ重量シェアでサバ缶の後追いとなっているが、需要の底が硬い。製品の精製度の差(青魚は切り身のかたまり、ツナは剥いてほぐす)から設備は大規模になり、生産量の小回りが効かない(から多めに作る→国産品の安売りが起こり利益率下がる)という欠点が、利点に変わる。ツナ缶は年内を通して需要より多めに作っているから、需給バランスの調整のために安売り競争が起こる……よって、需要急騰時は多めに作った分が安全弁として機能し、価格が元に戻るが「市場在庫の払底」は避けられる。さらにこの後ろには震災で使われた「輸入ツナ缶の輸入量を増やす」という切り札まで残っている。これがツナ缶の供給が他の安定している理由で、同時に切り札を使わなくて済むよう国産ツナ缶を日ごろから食べてほしい理由だ。日ごろから食べないといつか輸入ツナ缶のみが市場を支配しかねない…… 与太話はこの辺にして。前年以前のロットと見比べてみよう。 賞味期限がラベルから穴あきに 2017ロットから再びパッケージが変わり、ラベルで2021年X月と表記していたものが、パッケージ裏面中央に穴をあけて直接缶の賞味期限を見る形になった。これはとろつな(No.105)等でみられる形態だ。また、カロリーも上方修正されている。 炙りビントロは年を変えるごとに、その年のビンナガの脂乗りなどで味が微妙に変わる。そのため、年式ごとにわけてツナ缶レビューを書いている。本年は今春2020ロットが手に入ったため、2020年製造の炙りビントロを紹介する。 缶を開けたところ 毎年思うが身が美しい。炙り目のスモークのような香りもあるし、目で見ても口に入れても楽しい。 例年に比べ硬い気がするのは、熟成が足りてないからだろうか。 やはりそのまま食べるのが最も味がわかると思う。炊き込みご飯にしたらそのおいしさにひっくり返ってしまう。 なお、入手性で本品の0.1点を凌駕する製品「枕崎市かつお公社 ツナまよ(No.164)」が登場した。その点数は0.03点。2013年からずっと同じツナ缶を定期的にレビューすることで、相対的にツナ缶トレンドの移り変わりが見えてくる。「伝説のツナ缶」の矜持を、私は見届けていきたい。 ツナ缶に繁栄のあらんことを。 各種スペック ・グレード ★★★★★★ 6.0 ・価格 ★★★★★★ 5.9 #594円/個(直売所) ・味覚評価 ★★★★★★ 6.0 # ・入手性 ★☆☆☆☆☆ 0.1 #直売所限定 ・原産国 国産 内容量90g 362kcal/缶 食塩相当量0.6g たんぱく質13.8g 原材料 びん長まぐろ(国産)、オリーブ油、食塩 JAN:なし 製造固有記号IM 製造者 株式会社由比缶詰所(静岡市清水区由比429-1) Tuna canning review No.173 ■「ツナ缶スーパーリンク!!」 ・(No.118)炙りビントロ(2017) →炙りビントロそのものの解説は本項が詳しい。 ・(No.03)炙りビントロ(2013) →7年前に書いた、2013年産炙りビントロの記事。正直このツナ缶があったからツナ缶ブログを立ち上げたと言っても過言ではない。 ・(No.11)まぐろ油漬フレーク(綿実油) →みんな好きって言うだけの理由はあるのよ。