記事検索

忘れられないあの日

スレッド
2015年の11月。あの夜もいつものようにベビーシッターの仕事を終え、メトロに乗り込み帰宅した私はベッドの上でごろごろしていた。

フランスの携帯に電話を掛けるのは高くつくから、と定期的に父はスカイプをかけてくる。異国で生活する娘が心配で仕方がないらしい。どんなに遠かろうと、インターネット環境さえ良ければ無料で話が出来るので、本当に便利な世の中になったものだ。ところがどういうわけか、この日は珍しく携帯のベルが鳴り続けている。父からの電話だと分かり「スカイプで話そうか」と言ったが「いや、このままでいい」と言う。スカイプを立ち上げる時間が勿体ないらしく、通話料金のことさえ眼中に無いといった様子で用件をまくしたてた。

「今、ニュースを見ていたらパリが大変な事になっている!慌てて電話してるところだ。テロは大丈夫か?」そう父から尋ねられて、一瞬なにを言われたか飲み込めなかった。
私の住む地区は特に変わった風もなく、ベビーシッター先のママともそんな話題にはならなかったからだ。階下に住んでいるホストファミリーもいつものようにオペラ鑑賞に出掛けているようだし、にわかに信じ難い。しかし
「とにかく外出するな」と父から命令が下ったので、その夜はそのまま眠りについた。

翌朝目が覚めてニュースを見るとテロ被害の大きさに驚愕したのは言うまでもない。
アパルトマンのテラスから下を見下ろすと、焼きたてのパンを小脇に抱えた地元民の姿がちらほら。大事件が起きたのに出歩いている人もいるなんて。少しだけ安堵したその時、リリリと携帯にメッセージが入った。《マリリン》からだ。ブロンドの髪が美しく、お色気たっぷりのマリリンモンローに似ているI先生のことである。しまった!今日はマリリンとピアノのコンサートに行く約束をしていたんだった。いやしかし待てよ、テロの犯人もまだ捕まっていない。今日は当然、会うの止めましょう、というメッセージだろう。
そう思い読み進めると
「今日のコンサート行くよね?」とまさかのメッセージ。マリリンの言葉に開いた口が塞がらない。キャンセルの返信を打とうとしたが、彼女から早くも2通目のメッセージが来てしまった。
「シノブ、電車が来たから私もう乗ったわよ。じゃ、いつもの場所で待ち合わせね〜」と完全にマリリンのペースに飲み込まれた。返信する為に辞書をくっていたのがタイムロスとなった。我ながら語学力の無さが歯痒い。いや本当のことを言えば、外出する、しないは最終的に自分で決められたのだから、このスリルを選択したのは他ならぬ私である。

外出するな、とあれほど父から言われていたのに、がらんとしたメトロに乗り込んだ。複雑な気持ちだったが、待ち合わせ場所にマリリンの顔を発見し、幾分気持ちが落ち着いた。「マリリンはテロが怖くないの?」と尋ねたところ「まぁ多少はね。ずっとニュースを見てて様子も収まってきたようだし、第一ピアノコンサートの会場と現場は離れてるもの。さぁ行きましょう」と力強い足取りで向かった。

ワオ!と言っているユーザー

Musée de Montmartre

スレッド
シュザンヌが描いたエリック・サ... シュザンヌが描いたエリック・サティ
技法: 油彩





ユトリロが描いた母・シュザンヌ... ユトリロが描いた母・シュザンヌ
技法: リトグラフ(石版画)



シュザンヌ作 技法: エッチン... シュザンヌ作
技法: エッチング




シュザンヌの恋人・ オンドレユ... シュザンヌの恋人・ オンドレユッテルの描いたシュザンヌ



ユトリロ作... ユトリロ作



彼らのアトリエ... 彼らのアトリエ




今日も学校をエスケープ!
仲良しになった先生Iとモンマルトル美術館へ。画家ユトリロの母・シュザンヌ ヴァラドンの作品が飾られている。

恋多き人生を歩んだ母・シュザンヌもまた画家であった。風変わりな音楽家エリックサティと恋に落ちるものの、二人の恋の炎は瞬く間に消えてしまう。あとに残されたのはシュザンヌにあてられた何百通もの手紙とサティが失意の底で作った「vexations (屈辱)」という曲だけ。この曲、なんと同じフレーズを840回も繰り返さねばならず、1日がかりの演奏になる。サティにとってシュザンヌは生涯ただ一人の恋人であったそうな。
サティも色々な人と恋愛すれば良かったのに、と思ったりもしたがこういう愛の形もあるのね。

皆さまもご存知の「Je te veux (おまえが欲しい)」はシュザンヌを想って作曲したのかしら。

ワオ!と言っているユーザー

Ben L'Oncle Soul

スレッド






なんて楽しいレッスンなのかしら✨✨

フランス語アレルギーの私が初めてワクワクした授業がこちら。
歌い手Ben L'Oncle Soul の Soulmanを聴いて「歌詞の中から有名人を何人探し出せるか」というゲーム。

さて、あなたは何人探せますか。フランス語が解らない方にこそ聴いてほしい曲です(フランス語バージョンを聴いて下さいませ)。ちなみに私は一人も当てられませんでした。他の生徒が有名人の名前を答え始めたとき「あぁ、そういうゲームだったのね?」と主旨が理解出来て冷や汗をかいたっけ。まぁ、それでも楽しかったからマル

ワオ!と言っているユーザー

エステル

スレッド
エステル
「あぁまた今日もエステル先生の授業か」

今日はとても気が重いのだ。昨日のレッスンで「なんで分かんないの」とエステルから怒鳴れ、身体のあちこちが痛くなったからである。あまりの悔しさに昨夜は家でフランス語の猛勉強をした。大した成果が出ないのは分かっているが、そうでもしないと気持ちが落ち着かなかったのだ。よし、今日は先生のペースに乗らないぞと心に決めたところで授業が始まった。

「テーマはなんでも良いから互いに質問しあって会話してね」と彼女。それで私は誰よりも早く
「エステル!  あなたの旦那さんはどんな仕事をしてますか?」と質問をしたところ、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしアハハと笑った。
「うちの主人?彼は画家よ。ま、有名じゃないけど貧乏でもないし、私は満足してるわ」とエステル。本当は生徒同士で質問しあわねばならなかったらしいが、勘違いした私は先生に色々な質問を投げ掛けた。このケガの功名がターニングポイントで、威圧的なタイプとのコミュニケーションのコツをつかんだ。

今回の課題はちょっと難しかったけれど、なんとかクリア。
神様ありがとう!




ワオ!と言っているユーザー

落ちこぼれも悪くない

スレッド









フランス語が下手でも楽しい!と思えた時期はとうの昔に過ぎ去ってしまった。

ある程度の会話力がないと自分の言いたいことが伝わらないのだ。高尚なレベルなど贅沢なことは言わない、簡単な会話さえ困難な自分に腹がたつ。生まれたばかりの赤ちゃんなら仕方ないと思えるが、私は大人だ。

「テキストには記入しないこと。学校を辞める時には必ず返却してね」と先生から言われていたにもかかわらず、意味が分かっていない私はジャンジャン書き込みましたし、堂々と自宅に持って帰りました。持って帰ってはいけなかった、と気付いたのはそれから半年ほどしてからだ。もう時効よね。

授業についていけない私は悔し過ぎて2回も先生の前で泣いた。それがキッカケだったのか、先生と仲良くなり週に3回くらいは会っている。学校はズル休みしているが、サロンで待ち合わせをし映画を見たりご飯を食べたり色々と出掛けている。この話をすると皆同じ質問をする「その先生、男の人?!」と。
皆さんの予想を裏切って申し訳ないが、女性でございます。彼女のお話はまた今度。





ワオ!と言っているユーザー

日光浴

スレッド





開け放した縦長い格子窓が風の勢いでかわりばんこにバタン、バタンと音をたてていた。無数の窓から吹き抜ける青嵐が頬を撫でる。

今日のパリのお天気は肌を焦がす程の快晴。鼻歌まじりで部屋の片付けをしていると、キッチンで何か物音がした。風で揺れている窓ガラスの音とは違う。大家さんは長いバカンスに出掛けており、二ヶ月間この家には私しかいない。はて不思議だなと頭をかしげ音のするほうへ向かった。キッチンの手前にあるサロンに差し掛かったところで部屋の様子が違うことに気が付き、これ以上前へ進めなくなった。見知らぬ茶色のポシェットがソファの背もたれに掛けてあり、開けてもいないテラスの窓が全開になっていたからだ。誰かがキッチンにいる。

のそりとキッチンから出てきた男と目が合い、物凄い速さで心臓が激しく波打った。「こんにちは」と出来る限り平静を装って挨拶を交わす。男はこう続けた「私は大家の息子で、今日はとても天気が良いからテラスで日光浴しようと思って来たんですよ」と。

サロンの本棚に飾ってある家族写真を男に気付かれないようにチラリと横目で見たけれど、写真が古過ぎるし息子がいる事は知らされていなかった。写真の少年と男が同一人物とも思えない。私はキッチンで洗い物をする振りをして包丁を手繰り寄せた。いざと言う時に反逆できるように。私の心配をよそに、男はテラスの椅子に寝そべりラジオを聞き出した。その椅子が私の部屋の正面に位置しているから気もそぞろである。男の名前を確認した。名はブルーノ。後から考えればその場で大家さんに電話すれば良かったが、正常な判断ができないものだ。

とにかくガラス1枚を隔ててブルーノと一緒の空間に居ることは出来ない。彼への挨拶もそこそこに飛び出すように外出した。幾週か時は経ち、大家さんに確認をするとブルーノは正真正銘の息子だった!勘弁してちょうだい。
私の勘違いも甚だしいが、寿命が縮む経験はこりごりだ。




ワオ!と言っているユーザー

人それぞれ

スレッド







「好きだから」
という理由だけでヴィザを取ってパリへ戻ってきた。

人から「その年齢で(大した理由もなく)パリに来たなんて凄いですね」と冷やかな言葉をかけられたがベストタイミングだと自分では思っている。37歳の私にしか経験出来ないものが今ここに存在するからそれで良い。

蝶がミミズを見て「毎日土ばかり食べてないで空を飛んでみたら?」なんて言いますか?象が蝶を捕まえて「花の蜜を吸うのは止めて俺のように200kgリンゴを食べてみろ」なんて言いませんよね。良いんです、今の自分が必要なことを出来る範囲で一生懸命やっていれば。

語学学校のオプションで参加した課外授業。売り子さんがお店の紹介をして試飲させてくれる。紅茶はフランスの文化ではないけれど素敵な香りが私を潤す。パリと紅茶、良いかもね。



ワオ!と言っているユーザー

ただいま!

スレッド



「また戻ってくるからね」とロワシー空港で誓ったあの日からもう5年が経ってしまったけれど、パリに戻ってきた。2015年の蝉時雨。

学生ヴィザを胸に忍ばせスーツケース2つを必死で転がす。パリでは絶対に手に入らないであろう日本の自然栽培米と蔵付き天然菌のお味噌、お醤油が入っているので5年前よりスーツケースが重いわけだ。基本重量を余裕で超えているので、私の荷物を運んでくれた人は例外なく顔を真っ赤にしていた。

これからお世話になるお宅に無事到着し、ベッドで大の字になりながら独り言をつぶやいた。

パリよ、今度の滞在は一年間ですぞ。不束者ですがよろしゅうお願い申し上げます!






ワオ!と言っているユーザー

帰国

スレッド











3ヵ月間、素敵な夢を見続けた。

大粒の涙を流しながらpapaとmamanとSに別れを告げた。


心からありがとう
また戻ってくるからね

とめどなく流れる温かいものを頬に感じ、シャルルドゴール空港の搭乗口でいつまでもいつまでも手を振り続けた。

ワオ!と言っているユーザー

ここに居る理由

スレッド
ここに居る理由 ここに居る理由 ここに居る理由 ここに居る理由 ここに居る理由
好奇心と冒険という宝物をぎゅうぎゅうにポケットへ詰めパリまでやって来た。

劇的な出来事はなにもないけれど、当たり前のように過ぎてゆく平穏な日々に有り難うございますとお礼申す。

アパルトマンの窓から差し込む陽で目を覚まし、お決まりの朝ごはんを食べ、mamanとマルシェで食料の買い出しをし、美術館巡りをする。机にかじりついてフランス語の勉強をする私を不憫に思うのか、papaたちがドライブに連れ出してくれる事もある。

ただそれだけの毎日だけれど、自分の心に従って正解だった。当たり前だ、と人は言うだろう。好きな事をするのが一番良い!

ワオ!と言っているユーザー

  • ブログルメンバーの方は下記のページからログインをお願いいたします。
    ログイン
  • まだブログルのメンバーでない方は下記のページから登録をお願いいたします。
    新規ユーザー登録へ
    現在 1/4 ページ
  1. <<
  2. 1
  3. 2
  4. 3
  5. 4
  6. >
  7. >>