僕の「黒いカサラノ」も組みあがり、3年ぶりに乗り込むのだ。カサラノは高速艇。速い分だけ不安定。黒はオーダーして作ったもの。超カッコイイ。しかし、なにぶん久々の乗船。コントロールできれば良いが・・・コケたら、超かっこ悪い。
表彰式の翌日、朝便で事務所へ向かう。発熱しボロボロの身体は、何かをやり遂げた感覚を運んでいる。夢の世界から、現実の世界へ。この飛行機が着陸したら、全力で解決しなければいけない問題がいくつもある。休んでなんていられない。ボロボロの今日も完全燃焼!
チービシの南を通過すると、うねりが多少静かになってきた。この状態ならば、縮帆の解除が可能だ。僕はクルーの一人に、縮帆の解除を命じた。次に、帆をマストの上端より少し低い位置まで揚げさせた。帆の下端が、漕ぎ手の頭をかすめるぎりぎりの位置だ。風は全て利用する。だが重心位置はできるだけ低くするためだ。10:02の画像と比較すると、うねりの違いが良くわかる。GPSは時折7ノットを表示している。追い上げつつある白い帆の艇が、常勝チーム「海想」であることは、後で知る事になる。
選手交代のタイミングで、漕ぎ手を1人追加した。体重の軽いリリーには、漕ぎと同時に排水作業をお願いする。強風とうねりの中、昨年まで常に上位に入り続けている「ハーインドー」チームの帆が見えている。「ニヌハ!ニヌハ!」の掛け声とともに漕ぐ。ひたすら漕ぐ。しかし、そこは強豪チーム。なかなか接近を許してくれない。プレッシャーを掛けながら、チャンスを待つ。ニヌハ2の帆は下から一段目を縮帆している。一段目は、ランニング(真追いの風)でのみ効果のある事が、実験で分っている。このときの風向は、この一段目を使用可能な状況だった。しかし、それを使用するとバウ(船首)が沈む。この波の中では転覆の危険を増してしまうのだ。チービシのうねりを越えたときに、この縮帆を解き放ち、フルパワーの風を利用するもくろみなのだ。
強風が吹けば、セーリングが重要なレースになると思っていた。帆に集中すればいいと思っていた。しかし、初めて上位グループに食い込んで分かったことがある。上位グループはどんなに風が吹いていても、手を抜かないと言うことだ。今やニヌハ2のGPSが示す速度は、僕が作成したどの計画数値よりも速いものだった。置かれた立場が選手を1つにまとめている。全員がスーパーアスリートに変身した瞬間だった。もう1つの誤算はこの大きな波だ。船体が予想以上に波をかぶる。アウトリガーが波に飲み込まれると、それがブレーキになり、船首方向が一気に変わってしまう。その力は、舵を入れて修正できる範囲ではない。波を予測しながら、舵を入れるタイミングが難しい。限界まで速度を上げるため帆綱を引き、コントロールの限界、転覆までの限界、帆柱強度の限界で帆綱を緩める。その中での排水作業。僕にもまたタフな仕事がまわってきた。
今年、ニヌハ2は完成型にまで成長した。それは、忠さんも僕も同じ意見だ。次の僕らの目標は、ラダーもアウトリガーもない古式のサバニを操ること。昔の人は、アウトリガーを装着しなかった。それは、アウトリガーを必要としなかったからだ。無い方が便利で速かったからに違いない。しかし、先人の業を習得していない我々にとっては、いまだに謎な部分が多い。いま「ニヌハチーム」が勝負を挑んでいるのは、古式サバニの「まいふなチーム」。まいふなの山城艇長は、早くからこの古式のスタイルを提唱された方だ。そして、我々もまた古式サバニであるニヌハ3の建造をしている。この大会にも、来年は古式サバニで臨むつもりだ。大きなうねりの中、僕も漕ぎ手に回り、ヨットの名手でもある山城艇長の風上を容赦なく刺す。すかさず、山城艇長も風上に回りこみニヌハチームのスピードを殺す。次は、ニヌハチームが・・・。接触ギリギリのシーンもあった壮絶なバトル。大会後、がっちりと握手してくれた山城艇長の腕は逞しく、そして古式への参加を称えてくれた。
新型のラダーシステムのおかげで、素早いダッシュが可能だった。パワーのある選手を集めたスタートの布陣により、上位チームとの混戦に入り込んだのだ。一般的にレース中の選手交代は3回から7回行われる。我がニヌハチームの作戦は1交代のみ。つまり、この爆漕ぎを2時間続けるつもりなのだ。そして、1名の選手は4時間を漕ぎ続ける計画だ。この馬鹿げた計画がうまくいくかどうか。いずれにしても、肉体の限界を要求する作戦だ。
サバニレースが終了した。全ての作戦が的中し、好位置でのゴールとなった。写真はスタート直前の男の仕事場(コックピット)。グローブ、海図、コンパス、GPS、大きなエイク、そしてミネラルウォーター。死闘を予感させる緊張感が漂う。
レース準備の為、最終便で那覇に入った。モヒートも大事だが、完璧なる勝利を目指して、RARE PERFECTIONをいただく。明日朝には、座間味に仕上がったニヌハ2を持ち込む。だけれども、体が出来ていない。腕が痛い。練習が足りない。そんな事はどうでもいい。人生において無理をすべき局面もある。目の前の艇をぶち抜く。それだけの単純な動物になりきるのみ。僕自身にグッドラック!