高いレベルを持つ体外受精クリニックにおいて、
胚盤胞移植を3回〜5回以上行っても、
着床判定、あるいは妊娠判定までも維持できない場合、
「着床障害」
の可能性が高いと考えられます。
最近、「着床障害」 の原因のひとつとして、
「拒絶の免疫異常」
が特に注目されています。
拒絶の免疫異常の主役としては、
「NK(ナチュラルキラー)細胞」、 「M-CSF」などが関係しています。
これらの免疫因子は、複雑なことに、
精神的因子とホルモン因子の影響を受けますので、
「着床障害」
の検査としては、それらも含めて行う必要があるのです。
そのうえで、すべての因子に対して、
過剰なぐらいの予防治療が、
「着床障害」を、克服する方法であると考えています。
移植前日から移植後の判定日まで、
普段どおりの生活を送られていましたか。
過剰な緊張、過剰な不安があれば、
自分の意思とは反対に、
免疫系は拒絶反応が優位になってしまいます。
不眠、下腹部痛等は、ひとつのサインかもしれません。
「もう二度と流産したくない」
「今度は絶対に赤ちゃんを抱きしめたい」
と誰もが考えます。
と同時に、
「早くこの辛い日々から逃れたい」
「早く普通の結婚女性に追いつきたい」
とも考えると思います。
このような想いを抱いて、
全国から不育症ご夫婦がこちらのクリニックに来院されています。
来院後の検査により、ほとんどの患者さんから、
流産に関係する何らかの身体的、精神的危険因子が
複数個みつかっています。
小さな命を、繰り返して、繰り返して、亡くしているのに、
異常がないはずがありません。
治療方法が決まった後、
今度は、
「早く、一刻も早く、妊娠したい」
と、がんばってしまいます。
基礎体温をきっちりと記録して、排卵日を推定し、
タイミングに傾注していませんでしたか。
高温層の後半時期になると期待が膨らみ、
生理が来てしまうと、その反動で、
失望感、虚脱感に襲われていませんでしたか。
このような慢性的な緊張状態の繰り返しのなかで、
いざ、妊娠反応が陽性になると、
まずは、喜びの感情がわいてきますが、
すぐに、いわゆる
「流産恐怖症」
とでも考えられる
「不安」、そして 「怖い」 と感じていませんでしたか。
症状としては、
「胸がドキドキする」
「のどが渇く」
「おなかが痛くなる」等がよくあります。
過剰な緊張、ストレスは、
子宮内膜の 「らせん動脈」 を収縮させて,
胎児細胞への栄養補給を細くしてしまいます。
これこそが、流産の原因になってしまいます。
そうならないために、妊娠前からの
精神的なゆとり、
「ゆったりと、まったりと、のんびりと。」
の感覚が大切と思います。
何とかなると感じるようになれば、
何とかなるものです。
不育症の精神療法には、旦那さんの心理状態が非常に大切です。
当院では、
初診時か2回目の検査結果説明と治療方法を説明するときに、
原則として、ご夫婦で来院していただいています。
ご夫婦で治療方法を納得していただきたいためと、
旦那さんの心理状態を少しでも理解したいからです。
城西病院に勤務していたときに、助産師さんを中心として、
不育症患者さんの夫の心理状態を調査したことがあります。
その調査結果では、
不安 や 疑問 や 悩み を自分ひとりで抱えている夫が
約20% いらっしゃいました。
相談できる相手が妻のみである夫が
約30% いらっしゃいました。
この結果より、
妻あるいは周囲の人への気遣いにより、
夫も予想以上に孤立して悩んでいる可能性が
示唆されました。
流産を告げられたときの感情調査の結果としては、
一番多かったのが
その悲しみと動揺でしたが、
その次には、
妻を慰めなければ、
妻を守らなければ、
という感情でした。
現在、多くのクリニックでは、不育症の治療のほとんどを、
ご本人の身体的原因に対するもののみに傾注していますが、
精神的原因を、それもご夫婦単位で見つけて治療することも、
同じくらいに大切であると確信しています。
NK細胞とは、ナチュラルキラー細胞のことであり、
白血球のなかのリンパ球の一種です。
粘膜免疫という外界との最前線で、
侵入物を攻撃して排除する働きを持っています。
1985年頃より、正常妊娠とNK細胞との密接な関係が
明らかにされてきました。
1995年に、NK細胞活性が約40%以上の不育症患者さんは
それ以下の患者さんに比べて、流産危険率が約3倍高かった
という前方視的研究論文を、世界で初めて、
ランセットという世界トップレベルの医学誌に私は発表しております。
それ以降、
同様な研究結果が多くの研究者により発表されています。
また、リンパ球免疫療法と、その改良療法としての
ピシバニール免疫療法の治療効果は、
高いNK細胞活性を正常化することにより得られることを
示唆する論文も発表されています。
ところで、
NK細胞活性は、いろいろな因子により影響されます。
精神・神経系からの影響としては、
緊張状態からのアドレナリン分泌により高値となり、
反対に、うつ病では一般的に低値になると言われています。
しかし、ベトナム戦争からの帰還兵に限ったうつ病患者さんでは、
逆に高値であったことが報告されています。
ホルモン系からの影響としては、
正常妊娠では低値となっていきます。
それは妊娠性ステロイドとしてのエストロゲンの影響と
考えられています。プロラクチンは逆に高値へ作用すると
考えられています。
人為的な要因からも影響されています。
NK細胞活性は、採血管の種類と、
検体を測定するまでの保存温度条件と時間により
大きく変動します。
ですから、検査会社と十分条件設定をして検査しないと、
その検査値の信頼性が損なわれてしまうのです。
不育症の初診のとき、
まず、その一連の検査の内容を説明しています。
その中で、最初にお話しすることは、
たとえ、ご夫婦とも染色体異常という
遺伝的な問題がなかったとしても、
偶然的な奇形精子、あるいは偶然的な未成熟卵により、
約15〜20%の確率で、
胎児の偶然的な染色体異常が発生しているという事実です。
つまり、
だれでも、もう絶対に流産はしたくないと思われますが、
残念ながら、約2割弱の確率で、
「運命の流産」、
言い換えれば、
「わずか一ヶ月前後だけの寿命をもらった赤ちゃん」 が、
存在しているのです。
この運命は受け入れるしかありません。
人生においても、
この 「8割の哲学」 は、大切なことだと思います。
何事も、10割、100%の達成をめざして、
日々、努力していますが、
いろいろな側面から見た場合、
たぶん、8割の達成度が、ベストではないでしょうか。
2割の不満は、その後の人生の糧になりますが、
10割の成功は、たぶん断片的な現象であり、
その後の人生の多様性を狭くするように思います。
30年以上にわたって、
不育症のご夫婦を診させていただいていますが、
どうしても、赤ちゃんを抱くことができなかったご夫婦も
いらっしゃいます。
そのようなご夫婦を、私は忘れることはできません。
赤ちゃんを抱きしめることはできなかったとしても、
ご夫婦で、それまで、いっしょに頑張ってきた日々、
その過程が、
とても尊い時間であったと思います。
治療の限界に阻まれて、あるいは、
年齢的な大きな壁に阻まれて、
そろそろ、リタイヤを考えられているご夫婦に、
私からは何も言えません。
せめて、少しでも、この治療の過程のなかで、
ご夫婦に、
何か意味のある絆ができればと願っています。
わずかな時間の命であっても、
あなたの子宮のなかで、
何人も生きていたのは、事実ですから。
「おなかもこころも腹八分目」、
2割の不満ばかりに目を向けず、
8割の平凡を見つめ直してみましょう。
「もう、大丈夫ですよ。」
「このクリニックは、これで卒業ですね。」
多くの不育症患者さんは、
初診のときとは見違えるほど、
生き生きとした表情をされて、
このクリニックを去っていかれます。
お腹の中には、危険な時期を無事に乗り切った、
力強い赤ちゃんを宿しているのです。
このようなとき、
私とスタッフ一同も、
大きな喜びを分けていただいています。
このときのために、
いっしょに、何とか、乗り切ってきているのですから。
日々の不安と緊張の先には、
いつかは、
確かな喜びが待っていてくれるのですから。
妊娠初期のクリニック待合室では、
生きた心地がしないのではないでしょうか。
診察台に上がり、超音波検査を待つときは、
ただ、ただ、赤ちゃんを信じて、
すべての神仏に祈りをささげたい気分と思います。
赤ちゃんが順調に発育しているのかどうか、
胎のうが見えるどうか、
卵黄のうが見えるかどうか、
そして、
1〜2mmぐらいの赤ちゃんの心臓は動いているのかどうか。
どんどん大きくなり、心臓の動きも強くなっていく過程で、
ある日、
心臓の動きが止まっていたとき、
クリニックの時間も一瞬、止まります。
このような出来事の確率は、約15〜20%あるのです。
私とスタッフは、
診察台の超音波検査に向かうとき、
緊張のなかで、いつも、
心の中で、
手を合わせています。
「どうか、順調に育ってくれていますように」
と。
発育順調であれば、
つい、心の中で、
「よし!」
と叫んでいます。
反対に、
心臓の動きが止まっていれば、
一瞬、真っ白になってしまいます。
しかし、すぐに、
患者さんの心の動きを注視します。
一番、心の支えが必要なときですから。
このようなときの時間のとり方、
接し方、などは、
今でも、手探りの状態です。
私とスタッフ一同、
日々の精進の必要性を痛感しています。
喜びのときも、悲しみのときも、
このような瞬間に、
旦那さんが、
いっしょにいてくれたら、どんなに心強いことでしょう。
ある患者さんが、妊娠初期に不育症クリニックを受診するのは、
「 戦 場 に 行 く よ う な 気 分 で す 」
と、おっしゃっていました。
妊娠反応がでてから、約6週間が、
多くの例で、最も危険な時期です。
妊娠反応がでた瞬間から、喜びから、
すぐに、不安と緊張の状態になりませんでしたか。
たとえば、すぐに、下腹が張るような、少し痛いような感じ
が、ありませんでしたか。
過去の流産のつらい記憶がよみがえり、
熟睡できなくなるようなことはありませんでしたか。
何かイライラしていませんでしたか。
基礎体温の動きに敏感になり過ぎていませんでしたか。
つわりの程度の変化に、過剰に緊張していませんでしたか。
過剰な不安と緊張、そして、
また流産するのではないかという恐怖心は、
その精神状態そのものが、
お腹の中の小さな赤ちゃんにとっては、
とっても危険です。
過剰な緊張は、赤ちゃんへの栄養の供給源である
子宮内のらせん動脈を萎縮させてしまい、
その結果、
流産させてしまう危険性があるからです。
今までになくした赤ちゃんの中には、
助けられた可能性のある赤ちゃんもいると思います。
しかし、
決して、今までの自分を責めないで下さい。
なぜならば、
今までのあなた自身も、
一生懸命に生きてきたのですから。
今までの赤ちゃんを思い出してみてください。
妊娠して、わずかな時間で流産してしまったとしても、
ほんの少しでも、
赤ちゃんといっしょに、幸せなときを過ごしたはずです。
その一瞬の時間が輝いていたはずです。
この思いが、これからのあなたの人生に
必ずプラスになると思います。
一瞬でも、
新しい命の芽生えを感じることができたのですから。
そして、
あなただけの遠い記憶のなかに、
その赤ちゃんたちは
生き続けていることができるのですから。
「妊娠初期の流産は赤ちゃん側に問題があって、
生きられない命だったんですよ。」
この説明を信じますか?
実は、この説明は間違っています。
初めての妊娠の場合、
約100人中、10人の赤ちゃんが流産していますが、
そのうちの6〜7人が、
染色体異常という運命的な流産による
運命の赤ちゃんです。
しかし、残りの3〜4人は、
助けられた可能性のある赤ちゃんと考えられます。
2回以上連続した流産を経験している不育症の場合、
その後の妊娠において、
約100人中、約15〜20人の赤ちゃんが、
染色体異常という運命的な流産による
運命の赤ちゃんです。
しかし、残りの約80〜85人の赤ちゃんは、
助けられる可能性のある赤ちゃんと考えられるのです。
ただし、ご夫婦の染色体が正常の場合ですが。
このように、不育症の治療においては、
たとえ、治療が完璧であっても、
どうしても受け入れなければならない
運命というものがあるのです。
この運命により流産した赤ちゃんは、
受精してから約一ヶ月間という
本当に短い命を
まっとうしたと考えてください。
この運命の赤ちゃんだったのか、
あるいは、
助けられた赤ちゃんだったのかは、
流産された時に、
流産した赤ちゃんの組織による
染色体検査をすれば、はっきりわかります。
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