子宮内で成長する赤ちゃん(細胞、組織)は、
妊娠女性から見れば、「非自己」です。
子宮内に旦那さんの皮膚「非自己」を移植すれば、
100%拒絶されます。
なぜ、赤ちゃんだけ、拒絶されないのでしょうか?
それは、妊娠という現象が、
「寛容」という世界
を作り出しているからです。
平成22年4月に亡くなられた多田富雄先生は、
世界で初めて、免疫細胞の中に、
抑制T細胞という免疫系の暴走を抑える細胞を
発見されました。
免疫系は、「非自己」を拒絶するだけではなく、
場合により、
「 非 自 己 」 と 共 存 す る
こともできるのです。
また、免疫系は、精神・神経系の影響を受けています。
多田先生には、約20年前に名古屋で開催された
日本生殖免疫学会において、ご講演いただきました。
妊娠現象そのものが、
寛容という免疫機構によって、
成立しているからです。
多田先生の生前の最後のメッセージは、
「長い闇の向こうに、
何か希望が見えます。
そこには、
寛容の世界が広がっています。」
という意味深いお言葉でした。
精神的に、
「 寛 容 と い う 世 界 」
を受け入れたとき、
不育症という苦難
からも開放されると、
私は思います。
不育症のひとつの治療法として、
実際的には、
各種の免疫検査により、
拒絶反応が強いと判断された場合には、
寛容を誘導する免疫療法が
有効です。
「あまりにも不幸が重なりすぎて、
感情がよくわからなくなりました。」
という内容のメール。
以前から、
同じような内容のメールを時々、受け取っています。
神様は不公平。
流産を繰り返し経験するという苦難のうえに、
さらに、
自分の体に重い病気が重なったり、
夫、あるいはご両親に病気や不幸が起こったり、
周りから心無い仕打ちを受け続けたり。
人間は弱くデリケートな生き物だと思います。
不幸が重なれば、
だれでも、感情が真っ白になるものです。
そんなときは、いっとき、
4次元の世界に、
逃げ込んでみてください。
学生時代の楽しい思い出、
苦々しい思い出、
涙した思い出。
学生時代によく耳にした音楽、
学生時代の写真。
自分だけの秘密のメモリー。
思い出しただけでも、
少し気分が軽くなるはずです。
時の過ぎるのは本当に早い。
過去を振り返れば、
ほんの昨日のことのように思い出されます。
これからの時間は
もっと早く過ぎていきます。
めげずに、
今を大切に、
現在を生きていく
しかないのです。
惰性的に日々の時間が流れている。
特に変わったこともなく、
ワクワクするようなこともなく。
早く赤ちゃんを抱きしめたい、
しかし、妊娠が怖い。
過去の流産のことを
できるだけ、思いださないようにしている、
それ以外のことは
率先してがんばっている。
不育症の原因情報、治療情報は
整理がつかないぐらい読んでいる。
しかし、時間がぽっかり空くと、
何か無性に不安、
「これからどうなるの?」
「もう赤ちゃんは一生、抱けないのかな?」
「もしそうなら、私はどうすれば??」
私は思います。
過剰に緊張した精神状態で妊娠されると、
子宮内の赤ちゃんへの血流が細くなり、
免疫学的には赤ちゃんへの拒絶反応が優位となり、
大きな流産危険因子となってしまう可能性があるのです。
先が見えない閉塞感は危険です。
少しの時間でも、できるだけ遠くを見てください。
仕事上の満足感、達成感、あるいは、
家事全般の達成感を感じ取って。
ほんの些細なことでもいいのです。
心がちょっとは動くはずです。
子犬、草花、木々、小鳥、あるいは、小さなアリでさえ、
命あるものは美しいと、私は思います。
その姿が美しい。
あなたも、その美しさに感動したことがあるはずです。
繰り返し経験した流産という苦難によって、
何かを学んでいませんか。
すべての出来事には何か意味があるはずですから。
少しは生きる 「余裕」 を生み出してください。
たとえば、
「今日はキレイな夕日を見た。本当にキレイだった。」
「ああ、私はラッキーだった。」
と。
どうか、どうか、
日々の生活のなかに、
一 瞬 の 感 動 を切り取ってください。
結婚して、流産をくりかえし、
それでも、
できる範囲で、
無我夢中に生きてきた人。
そんな生活のなかで、
親の介護をも
背負わなければならなくなった人がいらっしゃいます。
時々、親のオムツの世話をされているそうです。
ご両親の介護も必死にされているのです。
何とかご自分の赤ちゃんの
オムツ換えができますように。
最後は祈るばかりです。
いつも何か落ち着かない、
心の一部が冷えている、
やることがないと不安になる、
希望がときどき、しぼんでしまう。
不育症を克服するため、頑張っているあなた、
心の中は、
そんな気分ではないでしょうか。
そんな時、
いっときでも、
あなたの五感に安らぎを与えてください。
たとえば、空や雲、できれば海を見てください。
快い音楽、自然の音(小鳥のさえずり等)に耳を傾けて。
あなたのすきな 「かおり」 を身につけて。
たまには、好物をおなかいっぱい食べてみて。
そして、気持ちいいものに触れてみましょう。
そよ風を肌で感じるように。
その瞬間だけは、心が動くはず。
「 い ま、い い 感 じ。 」
この感覚をしっかりと、記憶して、
不安なときに呼び起こしてください。
そうした精神活動が、
不育症の精神治療になるのですから。
今までの人生のなかで、
連続した流産の体験以外に、
自分のことをみじめと思うほどの、
強烈な挫折を感じたことはありましたか。
たとえば、大学受験に失敗した時とか。
今回、
流産、それも繰り返し流産を経験して、
悲しみのなかで流産手術を体験し、
医学的には軽い手術のためか、まわりからは軽く扱われ、
初めて、自分が
「 人 間 と し て み じ め 」
と感じませんでしたか。
生まれて初めて、
目に見えない現象への恐怖。
自分の無力さを感じていませんか。
この苦しさ、もどかしさから、
一刻も早く抜け出すため、
自分をさらに追いつめている人がいます。
自分に厳しく、
少しでも早く、普通の妊娠女性に追いつこうと
頑張りすぎる人です。
人は傷つきやすく、弱いものです。
ほどほどにがんばって、
あとは運命のままに。
きっと、コウノトリが来てくれますから。
おだやかな光、
目に鮮やかな緑、
気持ちいいそよ風。
いつもよりちょっとゆっくり歩く人、
いつもより何か穏やか顔をした人。
昔よく口ずさんだ
なつかしいメロディーが
頭の中から聞こえてくる、
そんな気分のいい
朝の時間。
今日もいい日でありますように。
数年前、ジャック・ニコルソンとモルガン・フリーマン競演の
「棺おけリスト」という映画を観ました。
日本名は「最高の人生の見つけ方」でした。
がんになり、余命数ヶ月と宣告されたとき、
残りの人生、つまり、棺おけに入るまでに、
何をしたいかをリストに書いて、
実行していくという内容の映画でした。
書き出したことによって、
自分自身を見つめ直すことができ、
命の短さを知って、
しがらみや遠慮から開放され、
冒険心が沸き起こり、
人生最後の数ヶ月で
最高の幸せを感じることができたという
内容でした。
不育症で悩んでいる今のあなたにとって、
人生の優先順位を
紙に書き出してみませんか。
だぶん、自分の赤ちゃんを抱きしめることが
優先順位第一位と思います。
優先順位の第二位以下は何ですか。
第二位も第三位も非常に大切ですよ。
第何位まで書き出せますか。
過去にさかのぼって、あなたが学生時代のとき、
人生の優先順位は何だったですか。
私は、一番に、本当に好きな人にめぐり合うことでした。
二番目が好きな仕事に就くことで、
三番目が健康でした。
人生の優先順位というものは、
その時期により変化するものですね。
人生は、はかなく短い。
そのとき、そのときを、精一杯生きる、
生き抜いていくことが
人間のさがであり、
人間の本来の幸せのように感じます。
結果は結果です。
どのような結果であっても、
精一杯、
毎日を充実して過ごしましょう。
遠方から
過去の苦難を背負いつつ、
必死の思いで来院されている患者さんと旦那さん。
妊娠初期の超音波検査の前夜、
不安と緊張と少しの期待で、
胸が張りさせそうなことでしょう。
そんな御夫婦のなかで、
最近、
ある旦那さんに感動しました。
「ほら、赤ちゃん動いていますよ。」
「両手で目をこすってますね。」
「足もバタバタ、蹴りましたね。」
「天使のダンスのようですね〜。」
御夫婦専用のモニターを見ながら、
いつもの超音波検査中の私の説明に、
驚きと
感動と、
そして押し殺したおえつで
反応された患者さん。
しかし、旦那さんは一見まったく無反応でした。
ちょっと冷たい旦那さんだなあ〜と、思いました。
検査が終わって、
診察室に戻られたとき、
旦那さんは男泣きされました。
誰に、はばかることなく。
診察室の私、スタッフのみんな、
一瞬、時間が止まりました。
あらためて、
小さな命の大きな力に感動しました。
今までのこの旦那さんの心労の深さを感じ、
この旦那さんの純粋さに
心から感動しました。
い〜い御夫婦と、
新しい命と、
三人いっしょに
帰っていかれました。
人生には三つの苦しみがあるそうです。
それは、病気 と 貧困 と 紛争 です。
一つ目の病気とは、
生体がその形態や生理・精神機能に障害を起こし、
苦痛や不快感を伴い、
健康な日常生活
を営めない状態のことを言います。
あなたは、今、健康な日常生活を送られていますか。
将来への不安、イライラ感、抑うつ気分を
持っていませんか。
当院での精神分析結果では、
約30%の不育症患者さんが
何らかの不安障害を持っていました。
この場合、
ご本人と次回の赤ちゃんのために、
医療の手助けがあっても良いと思います。
ストレス、精神状態を過少評価してはいけません。
二つ目の貧困とは、
経済的な問題です。
お金はいくらあってもたりないものです。
2008年5月より1年間で、775名の不育症患者さんを
診させていただきましたが、そのうちの141名(18%)の方が、
過去に一度は体外受精で妊娠され流産されていました。
約5人に1人の割合で、
不妊症と不育症の治療を必要としていたことになります。
この方たちは、経済的にも相当、負担が重いはずです。
この問題についは、
ぜひ、行政の支援が必要であると思います。
三つ目は紛争です。
人と人の争いは苦しいものです。
流産を繰り返していると、
旦那さん、親兄弟姉妹、親類、お友達との間でも、
立場の違い、考え方の違いによって、
強い不信感が芽生えることが
よくあります。
信じられない、
信じてもらえないことは本当に苦しいものです。
私は、時として、爆発して、
言いたいことは言って、
場合によっては口論となってもいいと思います。
最後の最後は自分を信じて、
自分の心だけは
信じてあげてください。
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