お風呂に入ったとき、
熱からず、冷たからずのお湯に浸かっていると、
なんだか、すごく落ち着きませんか。
その温度は、
子宮の中の羊水の温度なのです。
あなたが、
子宮の中にいた小さな赤ちゃんのときから、
その温度のお湯(羊水)に
癒されてきたのです。
体が程よく温まっていると、心も落ち着いてくるものです。
過去に何回も、繰り返して、繰り返して、
小さな赤ちゃんと死別してきているあなたは、
心身ともに冷えている、
冷え切っていると思います。
その亡くした赤ちゃんのためにも、
まずは、何とか体だけでも、温めなければなりません。
ストレッチ、ヨガ、指圧、マッサージ、軽い有酸素運動、等、
何か血流を良くすることをして、
体を温めてください。
好きなことをしていると、心身ともに温まりますよ。
また、
自分自身のことで精一杯と思いますが、
だんなさんも苦しんでいるはずですから、
できる範囲でやさしくしてあげてください。
たとえば肩のマッサージとか。
きっと、その倍ぐらいのやさしさをもらえますよ。
朝、目覚めたときに、
背中をさすってもらうだけで、
どれほど気持ちいいか、
一度、試してみてください。
夫婦が基本ですから。
夫婦あっての赤ちゃんですから。
日本の古くからのことわざのひとつです。
女性にとって、結婚するということは
男性の家に嫁ぐ
ことを意味している場合がよくあります。
苗字(みょうじ)とは、家の名ですから、
結婚して苗字が変われば、その家の一員になるわけです。
また、多くの女性は、夫のことを無意識に(?)
主人と呼んでいますが、
その言動の根底には、
家を意識させる意味もある
のではないかと思っています。
嫁いで、
流産を繰り返して、
夫にすまないという気持ちと、
自分自身の女性としてのふがいなさに
押しつぶされそうな状態のなか、
たとえば、
あなたが、
この正月休みに、
旦那さんの実家で義理の兄弟姉妹と会ったとします。
そのなかに順調な妊婦さん、
あるいは、
出産直後の幸せいっぱいの婦人が
同席していたとします。
非常につらかったことでしょう。
嫉妬心が芽生えたことと思います。
それが普通の感情です。
自分をいやしめないで下さい。
これからは、
近い未来のあなたの赤ちゃんのために、
あなた自身の居場所を確保してください。
あなたの居場所が居心地良くなければ、
あなたの子宮のなかの赤ちゃんも
居心地が悪い環境にいることになるからです。
周りの人に余分な気配りをしないこと。
いやな環境は、できるだけ避けること。
少し、今以上にわがままになること。
それが
近い未来のあなたの赤ちゃんのためですから。
漫画家、楠 桂さんが自分の体験を元に描く、
日本で初めての不育症コミック「不育症戦記」は、
まんが雑誌、月刊オフィスユー2月号(2009年12月22日発売)
にて、完結しました。
21ヶ月間にも及ぶ大作です。
私自身が毎月はらはらドキドキしながら、愛読していました。
私自身が知らなかった現実がいっぱい描かれており、
現在の診療に大変参考になっています。
私たち医療者側からの医学的な解説書はよくあります。
医師、研究者、心理士からの解説書は、
不育症という状態を客観的に解説していますが、
不育症となってしまった人について、
どれだけ深く知っているのか疑問が残ります。
不育症患者さんの手記には、説得力があります。
ただ、苦しかった日々の詳細までは
なかなか触れられていませんでした。
楠 桂さんという感性のするどい女性だからこそ、
これほどリアルに不育症の現実を
漫画というわかりやすい表現方法を使って、
描くことができたのだと思います。
2010年の春ごろには、
単行本として発売になる予定と聞いています。
ぜひ、不育症で悩んでいる人、
不育症にかかわっている医療関係者の人、
不育症に関心のある人、
また、流産を経験された人、
これから妊娠されようとしている人に、
読んでいただきたいと思います。
昨今の女性の社会的進出はめざましいばかりです。
いろいろな分野で、競争社会に勝ち抜き、活躍されています。
仕事も、家事も、結婚も、
計画的に、几帳面に、こなされる女性は多いことと思います。
体力的にも活動的であり、精神面でもタフであり、
自尊感情が強く、それでいて、女性らしさも失わず、
まるで、
スーパーウーマンのように感じます。
不育症患者さんにおいて、
免疫細胞のナチュラルキラー(NK)細胞活性と心理的因子との
関係を研究したことがあります。
2000年にアメリカ生殖免疫学会誌に発表しました。
その結果は、まさしく、
スーパーウーマンのような女性は
NK細胞活性が高く、
流産しやすい可能性を示唆したものでした。
私は、勝手に、
「 いわゆるスーパーウーマン症候群のひとつの症状が
流産しやすい子宮内の免疫環境 」
ではないかと考えています。
その論文の考察にも書いてありますが、
女性が極度に
「個」 を高めすぎると、
「種」 の保存としての 「生殖」 に不利になってしまう
のではないのかと考えています。
考えすぎかもしれませんが、
もしそうならば、
不育症はある意味で、文明病の一つかもしれません。
ストレス病のひとつとも考えられますが。
適度に息抜きする、
ときどきいい加減に生きてみる、
8割の達成感で満足する、
赤ちゃんは神様からの贈りものだから
焦らずに待つ、
人にはそれぞれ決められた運命がある、
と、いうように、
不育症の治療としては、
スーパーウーマンのような生き方を
一時的に、
凍結されることをお勧めしています。
Let it be.
ですよ。
初めての診察のときに、必ず、
今までの流産した経過をお聞きしています。
その中で、
「流産したときの超音波検査の写真があれば、
お見せ下さい。」
と、お尋ねします。
その写真上には多くの情報があるからです。
多くの人は、きちっとアルバムに整理された写真集を
持ってこられます。
まるで、出産後の人格を持った一人の人間の死として、
受け入れているかのように感じます。
いつか、ある人が、
「写真は毎回いただいていましたが、今はありません。」
と、お話されました。
その人は、
流産した赤ちゃんが形として残してくれた
唯一の形見としての写真を、
供養として、
土に返されたそうです。
確かに、妊娠中期以降の死産児ならば、
火葬した遺骨を水子供養等で供養できますが、
初期の流産児の場合、
形として残るものは写真だけとなります。
その写真に思いをこめて、
供養されることも、
何かいいような感じがします。
ただ、できれば、
流産した最後の写真だけは保管して、
こちらにお見せいただけたならば、
医学的に多くの情報がわかるのですが。
流産を繰り返して、初めて不育症という異常を知ったことと思います。
最初の頃は、妊娠イコール出産と思っていたことでしょう。
今では、できるだけ早く妊娠したい、
しかし、怖い。
もう一度流産したら、自分の心は凍り付いてしまうかもしれない。
自分が自分でなくなってしまうかもしれない。
流産は、もう受け入れられない。
これ以上、何をがんばればいいのか。
何を信じたらいいのか。
私はこのような患者さんを多く診ていますが、
「身も心も過剰に頑張りすぎると、
赤ちゃんは、すり抜けて逃げていってしまう。」
ような感じを抱いています。
赤ちゃんは神様からの贈りもの。
がんばり過ぎない程度に、コウノトリを待ちましょう。
妊娠されたら、結果を求めずに、
まずは、妊娠できたことに感謝してみてください。
小さな赤ちゃんの命が、
あなたのお腹の中に宿ってくれたのですから。
妊娠中の一日一日の時間を幸せに思ってください。
もし、仮に、また天国に戻っていってしまったとしても、
それまでの幸せの時間をいただいた
と考えてみてください。
もし、最後まで、赤ちゃんが出産してくれなかったとしても、
あなたは、充分がんばったのですから、
ご夫婦で充分がんばったのですから、
その代えがたい経験が、
ご夫婦のその後の人生に、
何かの道を授けてくれる
と思います。
今までに経験された流産の原因については、
90%以上の確率で、
偶然的なもの、先天的なもの、後天的なもの、
精神的なもの、身体的なもの、
と複数個の混在した原因によって説明されると考えられます。
また、それぞれの原因については、
それがあれば、必ず流産するというものはほとんどありません。
最近、盛んに研究されている抗リン脂質抗体陽性の患者さんですら、
その後の無治療での流産率は最高80%前後と報告されています。
ご夫婦のどちらかに染色体異常があった場合の流産率ですら、
その後の流産率は、40%前後と報告されているのです。
ですから、
流産しやすい精神的状態(原因)と
流産しやすい身体的状態(原因)は、
いくつも重なって存在している場合が多いので、
流産の予防治療には、
いくつもの組み合わせが
オーダーメイドのように必要になっていると実感しています。
流産直後、こんな気持ちになりませんでしたか。
自分が本当に傷ついたとき、
なぜ、自分に起こったのか、
なぜ、自分だけがこんなにも不幸な目にあうのか、
神様は不公平。
ほとんどの女性は何も悩むことなく、
あんなにも誇らしげに、
大きな宝物をお腹にかかえている。
まぶしすぎる。
無性にうらやましく、
ねたみさえ感じる。
自分は、何事にも一生懸命やってきた。
なのに、なぜ、自分が。
素直にはなれない。
このような不信感、嫉妬心がより強くなる性格特性を持つ人は、
「 不 安 」 の感情が大きくなってしまいます。
ですから、
不安感、ストレスを少しでも軽減するため、
次の赤ちゃんのため、
なんとしても、
人を信じる、信じるよう努めてみる、
今の現状に順応しようとしてみる
ということが、
たぶん、幸せになれる近道だと、
私は思います。
妊娠反応が陽性、数日後に再度検査しても陽性、
しかしその後、一週間前後ぐらいで、
いつもの生理の量か、あるいは、それ以上の出血が起こり、
「化学的流産です。」
と診断されたとします。
「化学的流産は、普通の流産ではないですから、
流産と考えなくてもいいですよ。」
あるいは、
「化学的流産は、流産一回とカウントしないでください。」
と、言われませんでしたか。
この考え方は、数十年前の、
「流産したのは、赤ちゃんが弱かったから流産した
と考えてください。自然淘汰ですよ。
どうしようもなかったことですよ。」
「ですから、流産したことは忘れてください。
早く次の妊娠をすることが一番の薬ですよ。」
という考え方と類似していると思います。
化学的流産は、
妊娠成立後の早い時期に起こったという流産なのです。
その原因については、もちろん、
運命的な胎芽の染色体異常による確率が
最も高いと考えられていますが、
それが繰り返すという確率は低いのです。
ですから、普通の流産、あるいは化学的流産を
繰り返して経験されたならば、
「不育症」 と考えられるのです。
化学的流産には、
着床直後の早い時期に発生する
特殊な原因によるものがあると思われます。
その主なものは、
精神的、免疫学的な原因によるものと考えられます。
「妊娠です。」と診断された後で、
今の治療法で良いのかどうか、
他の治療法のほうが良いのではないか、
と、大いに迷い悩まれる人がみえます。
そのような人から時々相談を受けています。
そんなとき、私は、
「今回は、赤ちゃんの生命力を信じて、
日々、いつものような生活をしてください。」
「何も特別なことをせずに、しかし、
水分だけは十分にとってください。」
と、お話しています。
なぜならば、
妊娠初期には、
ストレスが大きな流産危険因子であるからです。
たとえば、妊娠初期の時期に、
今までに受けた検査値の判断は正しいのかどうか、
提示された治療法で効果があるのかどうか、
他の治療法はないのかどうか、
等のご質問に対して、
そのときの担当医と違う見解をお知らせすれば、
その行為自体が、ストレスの原因となり、
そのときのお腹の赤ちゃんに
悪影響があると考えるからです。
不育症の検査は妊娠前に完了しておき、
見つけた原因に対する流産予防治療法について、
十分に納得していなければなりません。
そのうえで、次回妊娠の運命をも受け入れる
という覚悟を持って、
心おだやかに、
妊娠初期を過ごすことが最良の方法と思っています。
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