不育症、あるいは着床障害のご夫婦と
毎日お話していると、
ときどき
切ない気持ちになってしまいます。
多くのご夫婦が、
喜びいっぱいで当院を卒業されていきますが、
運命的な原因であれ、
残念な結果となったご夫婦に対しては、
いつも、
言葉が見つかりません。
つらくて、つらくて。
ある本で読んだことがありますが、
切ない気持ちがあればあるほど、
それは青春の中で生きている証拠
でもあるそうです。
挫折、落胆しても、
少し休んで、
前を向いて
歩いていきます。
日ごろの悩み、疑問を語らう趣旨の
「青クリの会」 を9月1日に行います。
内容は、
私の講演と青クリサロンです。
私の講演は、
精神系と免疫系とホルモン系が
いかに密接に関係しているかということ。
その変調が多くの原因となっていること。
心身両面からの治療がいかに有効であるかということ。
を、お話します。
この内容の一部は、
今年の8月30日、日本受精着床学会で、
依頼講演してきます。
講演会後には、青クリサロンと称した
私を含めた当院スタッフとの相談会を実施します。
青クリサロンでは、今までは話しづらかった
不育症・着床障害のことを、
共に向き合う者同士で、
気さくに話し合いたいと思います。
アットホームな雰囲気のなか、
美味しいものを片手に、語らいの時間を…。
ご希望の方は、
当院のホームページから
お申し込み下さい。
今回、当院の治療に期待していただいたのに、
約20ミリの赤ちゃんを亡くされ、
流産胎児の染色検査を受けられたご夫婦が
いらっしゃいます。
40歳を過ぎて、やっとここまで育ってくれた赤ちゃん。
その赤ちゃんの 「命の証明」 の結果をお話しました。
染色体の数の異常がありました。
偶然的な精子か卵子の染色体不分離による異常ですから、
運命的な神様が決めた 「短い寿命」 であったという結果でした。
赤ちゃんが、
あなたの子宮の中だけの命でしたが、
もらった命を生き抜いた
という証明でもあります。
この赤ちゃんが教えてくれた貴重な事実が、
今後のご夫婦の進むべき道を
教えてくれると思います。
自然妊娠による繰り返す流産と、
その後の
体外受精・胚移植の度重なる不成功により、
当院受診されたときは
40歳を過ぎていらっしゃいました。
治療により、
ある程度、妊娠継続されるも、
度重なる胎児の偶然的染色体異常により
運命的な流産を経験されました。
ある日、
当院の助産師(師長)さんに電話がありました。
今回の生理をもって、
くぎりをつけようと思ったそうです。
お電話のなかで、
たんたんとお話されていましたが、
途中から、
感極まって涙声であったそうです。
でも、
私たち夫婦は、
これから、
子供がいない夫婦だからこそできる人生を
一生懸命、
送っていきたいと思っています。
と、最後にお話されたそうです。
きっと、
ご夫婦の
深い深い絆が、
これからの
充実した人生を
送らせてくれるはずです。
幸せの形に
決まりなんて
ありませんから。
いろいろと心配が重なり、
気が重い朝。
起き上がるとき、
つい、
「今日も元気で 生 (行)こう。」
と、
自分に気合を入れています。
生きているんだから、
精一杯
生きなくっちゃね。
2012年7月の欧州ヒト生殖会議のなかで、
着床障害について、
イギリスの研究機関から下記の内容の発表がありました。
着床障害の定義として、
1. 子宮内に胎のうが見える時期まで妊娠継続ができない。
2. 少なくとも合計4個の卵(受精卵)を移植しても失敗している。
3. 少なくとも合計3回移植(新鮮、凍結卵)しても失敗している。
4. すべて質の良い卵を移植している。
5. 年齢は40歳未満である。
という5つの項目を満たしたとき
着床障害とすることが提案されました。
着床障害の原因は、
卵(受精卵)か子宮(内環境)であり、
卵は、エンブリオロジストの技術に左右される。
子宮は、ドクターの技術に左右される。
子宮内側に発育した子宮筋腫(粘膜下筋腫)、
子宮内膜ポリープ、
中隔子宮は、
着床障害の原因である。
子宮内膜の厚さと着床障害との関係は不明である。
卵管留水症があると、移植の成功率は半減する。
これは、かなり信頼性が高い報告です。
卵管炎という炎症が
卵管留水症の引き金になっている可能性が高いので、
卵管という子宮内に極めて近いところの炎症が、
移植の成功を妨げているように考えられます。
また、ひとつの研究的治療法として、
FSHホルモンが10以下の場合、
移植する前の基礎体温高温期に
子宮内膜を機械的に少し引っかくと、
移植のよる妊娠率が約60%になった。
という研究成果を発表していました。
私の印象として、
着床障害は、
移植回数、年齢、
さらに、
心理社会的因子の程度により、
大きくその予後が違いますから、
子宮内環境の危険因子の検査とその治療法は、
これからの多くの臨床実績とその研究により、
もっと詳細に
もっと明確にされていくものと思われました。
2012年7月の欧州ヒト生殖会議において、
スペインとイギリスから一題ずつ
着床障害についての招待講演がありました。
まずは
スペインのドクターからの主な発表内容を下記に報告します。
着床しない原因は、
種(受精卵)と土(子宮内膜環境)に分けられる。
土については、
抗リン脂質抗体、血栓性素因、
抗甲状腺抗体、NK細胞の異常高値が指摘されているが、
実際には、未だ、はっきりしていない。
それに対する治療効果も不明のままである。
ただ、子宮内NK細胞については、
多くの生物学的研究から見て、
着床現象に深くかかわっていることは確かである。
種については、
良い質の受精卵を移植するために、
卵子提供を受けて移植すれば、
10%以上成功率が上がる。
着床前・全染色体スクリーニング法
(CGH法、比較ゲノムハイブリダイゼーション法)により、
受精卵を選別すれば、
50%以上の成功率が得られる。
以上のような内容の講演でした。
CGH法については、
医学的にみて、確かに、
魅力的な新技術です。
ただ、倫理的にみて、
命の選別につながる可能性もありますので、
日本においても、
今後、多方面から議論されることと思います。
たとえば、
ダウン症も事前にわかってしまうからです。
ドイツ、オーストリアでは禁止されているようです。
卵の質を劇的に良くするために、
他人の卵子を使う、
また、
すべての遺伝情報を調べて選別してしまう、
ということは、
安易にはできないことと思います。
本当に、
「命の意味」
について、
考えさせられた内容でした。
2012年7月1日より4日まで、
トルコ、イスタンブールで開催された
欧州ヒト生殖会議に参加してきました。
この間、クリニックをお休みさせていただき、
ご迷惑とご心配をおかけしたことと思います。
この場を借りて、お詫びとお礼を申し上げます。
学会で関心を持った内容については、
次回のブログでお話しようと思っています。
今回の学会旅行で深く感じたことは、
自分は日本人であるということ、
自分にとっては、
日本が最高にいい国であるということを、
再認識させられたことです。
イスラム教の礼拝堂であるブルーモスクはすばらしかったです。
西洋と東洋の接点としての文化・文明も大変魅力的でした。
帰国後に、
1992年8月、国際生殖免疫学会での招請講演のため、
ローマを訪問したときのことを思い出しました。
このときは、学会の合間に、
カトリック教会の総本山、サン・ピエトロ大聖堂を見学し、
その美しさと大きさに
ただただ圧倒されたことを記憶しています。
今回、
キリスト教文化圏とは違う
イスラム教文化圏を体感してみて、
自分の立ち位置を
おのずと意識させられました。
日本人は
ユニークですばらしいと
心から思いました。
何度も流産の宣告を受け、
そのたびに、
こころが凍りつき、
感情さえ、
うまく表現できなくなっている患者さんが
よく、いらっしゃいます。
今回、できうる限りの治療をして、
でも、
また、
赤ちゃんの心臓が止まってしまった患者さんが
いらっしゃいました。
私の説明を
しっかりとした表情で受けとめられていました。
私は、いったん時間をおきましょうと、
別室にご案内しました。
その後、
当院の助産師さんが、
やさしく、ゆっくりと、対応して、
少し落ち着かれたとのこと。
でも、気丈に振舞われているご様子から、
「泣いてもいいんだよ。」
「優等生である必要はないんだよ。」
と。
涙が一気に、とめどなく、あふれでたそうです。
泣ける場所は
必要ですね。
つらいときはつらいですから。
不育症、着床障害であり、
10回以上の不成功を経験され、
年齢が40歳以上になり、
2回以上の卵子提供も受けられた
5人の患者さんを今までに、診ています。
アメリカ、あるいはタイで、
複数回、
卵子提供を受け、夫の精子と体外受精し、
その受精卵を自分の子宮内へ
複数回、移植されたにもかかわらず、
不成功に終わっていました。
当院の検査で、
すべての方が不安障害、あるいは適応障害ありと診断され、
身体的危険因子の治療とともに、
支持的精神療法、薬物療法を行いました。
その結果、
現在までに、
3人の方が、妊娠初期を無事に乗り切り、
当院を卒業されています。
このことより、
不育症、着床障害の治療法として、
他人の若い卵子による体外受精・胚移植が、
極めて有効であるということではなく、
ご本人の子宮内の環境をよくする治療が
必要であると思われます。
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