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くまごろうのサイエンス教室『高温ガス炉』

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日本のエネルギー政策の基本となる第4次エネルギー基本計画が2014年4月に閣議決定され、原子力発電は重要なベースロード電源として位置づけられた。今年になって経済産業省の作業部会が始まり、具体的な電源別構成比について今年6月を目途に決定するという。国民の多くはマスコミなどの影響で技術的なことは抜きにして原子力よりも再生可能エネルギーを重視すべきだ、と感じていると思われるが、福島第一原発事故により原子力はもうごめんだ、という発想はくまごろうにはあまりにも非科学的に見える。人類の歴史は科学技術の進歩抜きには考えられないが、自然に対する人間のあくなき探究心と問題を克服する意欲が現代の科学技術を作り上げてきたのだ。原発事故を教訓とし、原子力平和利用の安全性を一層配慮することが人類の進歩につながる道であろう。

これまでの日本における原子力発電はほとんどが水を減速材および冷却材に使用した軽水炉型だったが、福島での事故は冷却材喪失によるメルトダウンという過酷事故であり、原子力規制委員会は既存原発の再稼動の認可条件として冷却材喪失が起こらないバックアップを厳しく求めている。原子力発電には軽水炉の他にも減速材に重水を使用する重水炉、黒鉛を使用する黒鉛炉、更には高速増殖炉などがあり、ここで述べる高温ガス炉はヘリウムを冷却材とした黒鉛炉のひとつである。高温ガス炉は前述のエネルギー基本計画でも安全性の高度化に貢献する将来の原子力技術の候補とし、日本原子力研究開発機構が設計・建設した熱出力3万キロワットの高温工学試験研究炉(HTTR)を使用して研究開発を推進してゆく方針である。

高温ガス炉が注目される最大の特徴はその安全性である。炉心温度は950℃程度と高温だが炉心構成材の黒鉛は2000℃以上の高温に耐えられ、黒鉛の熱容量が大きいため炉心温度の変化が緩慢であり、更に電源喪失や事故などにより冷却システムが機能しない場合でも原子炉格納容器からの自然放熱により冷却が可能なことである。核燃料は直径数ミリの炭化珪素セラミックス球の中に保持されているが、この被覆層は炉心の理論上の最高温度1600℃よりも高い2200℃に長時間さらされても核分裂生成物を保持することが出来、メルトダウンに至ることはない。2010年に行われた前述のHTTRを使用した実験では、出力30%の状態で冷却材であるヘリウムガスを停止すると10分程度で出力が1%に低下し自動停止に至った。軽水炉では運転中の炉心温度は約300℃だが、核燃料を収納する被覆管は金属のジルコニウム製のため、冷却材である水を喪失すると炉心は2000℃程度に達し、福島事故のように被覆管が溶融してメルトダウンするのとは対照的である。冷却材として使用するヘリウムは不活性物質のため他の物質と化学反応せず、また炉内で中性子にさらされても放射化しない。

高温ガス炉で使用されるセラミックスで被覆された核燃料粒子は一般的には二酸化ウランだが、核分裂中に生じるプルトニウムも燃料としてそのまま使用されるため核燃料の使用効率が高く、軽水炉のように使用済み核燃料を再処理してプルトニウムとウランの混合燃料MOXをつくり、プルサーマルとして使用する必要がない。その結果、発電量に対する放射性核生成物を軽水炉の30~40%程度まで低減することが可能である。高温ガス炉からの使用済み核燃料からセラミックス被覆を取除く技術は既に確立しており、再処理工場で核分裂生成物を分離することが出来る。先に『使用済み核燃料の処分』でも述べたが、核分裂生成物の中には非常に長い半減期を持つ物質があるが、これらは加速器駆動核変換システムなどによる消滅処理を行えば、人類による管理が可能な半減期の短い物質に変換することが出来る。

基本的な高温ガス炉では核分裂反応によって高温となった炉心でヘリウムガスを960℃に加熱し、この高温ガスでガスタービンを駆動することにより発電する。軽水炉では冷却材が水のため300℃程度までしか加熱出来ず、そのため発電効率が35%弱であるのに対し、高温ガス炉による発電では高温のため50%近くまで発電効率を上げることが出来る。また発電に使用した後のヘリウムは200℃程度と高いので、この廃熱を利用して海水の淡水化や地域暖房などを行えば、70%程度の高い熱利用率が達成出来る。前述した日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉(HTTR)は研究炉の段階だが、研究陣はガスタービン発電機を備えた実証炉の2030年までの運転開始を視野に入れている。

高温ガス炉は発電だけが目的の原子炉ではない。燃料電池自動車の普及などによる来るべき水素社会に向けて高温ガス炉による熱化学水素製造法の研究が進んでいる。メタンなど炭化水素の改質による水素製造では二酸化炭素が発生し、また水を直接分解するには2000℃以上の高温が必要であるが、熱化学法では水とヨウ素の混合溶液に二酸化硫黄を反応させてヨウ化水素と硫酸を生成させ、高温ガス炉からのヘリウムによりヨウ化水素は400℃で分解してヨウ素と水素を、硫酸は900℃で分解して酸素と二酸化硫黄を生成させることが出来る。日本原子力研究開発機構では2030年の高温ガス炉による熱化学水素製造法の実用化を目指している。

高温ガス炉では高温ガスが得られることにより、発電や水素製造以外にもエチレン製造などの石油化学、石炭液化、製鉄などへの応用も可能であり、低炭素社会の達成には大きな切り札となる可能性を秘めている。

高温ガス炉実用化のために必要な技術開発に空気突入による原子炉の火災防止とセラミックス被覆核燃料の高度な品質管理がある。前者については2重、3重の安全設備により克服できるはずであり、また後者は日本が得意とする品質管理の問題であり、高温ガス炉の安全性を否定するような重大な欠陥とはならないであろう。

目を海外に転じるとアメリカ、ロシア、フランス、韓国、中国などが高温ガス炉の開発を行っており、特に日本とならんで既に試験炉を稼動している中国は2017年までに21万キロワットの実証炉の臨界を目指している。現在は冷却材温度が750℃と日本原子力研究開発機構の実績に劣るが、中国内陸部は冷却水を多量に必要とする軽水炉の立地に適していないため、今後多くの原子力発電所を計画している中国は高温ガス炉の開発に力を注ぐと思われる。日本も脱原発などとのんきなことを言わず、日本原子力研究開発機構による実証炉の建設を急ぐべきである。
#受験 #外国語 #学校 #教育 #科学

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KUMA
KUMAさんからコメント
投稿日 2015-02-27 11:17

原子炉>危険>絶対反対がトレンドとなってしまい、意見が言えない状態です。
近年、科学技術の進歩がめざましく、誤解を恐れずに言わせていただくと、論理的思考が苦手な女性を中心に感情論のみで騒ぎたてているのが現状です。
原子炉に限りません、我がIT業界も同様で、全く仕組みがわからない方々(結構男性もい多い)がセキュリティ云々を騒ぎ立てます。
説明しようにも、相手のレベルが低すぎ(知識・理解力・思考力)て疲れてしまいます。
くまごろうさんの投稿を読むと元気が出ます、ありがとうございました。

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くまごろう
くまごろうさんからコメント
投稿日 2015-02-28 04:14

KUMAさん、くまごろうの拙文を根気良くお読みいただき有難うございます。

KUMAさんの申されるとおり原子力に限らず、技術的なことはもちろん、普天間基地移設などのような色々なことが絡み合っている事柄について、日本ではあまりにも一面的な主張が多いことに失望します。

原発反対の細川・小泉・菅の元総理大臣トリオはものづくり日本とおだてながら高い電気代に泣いている中小企業についてはどう考えているのでしょう。小泉総理はヨーロッパで核廃棄物の保管が数万年かかると聞いて反原発になったと聞いていますが、加速器駆動核変換システムや高速増殖炉などにより廃棄物の半減期が短縮される技術開発を知った上で主張しているか疑問です。くまごろうにはこのトリオは何でも政府案に反対する昔の社会党のように見えます。

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zakkah
zakkahさんからコメント
投稿日 2015-03-03 15:47

こんにちは、くまごろう先生。

いつもながらの分かりやすい解説・論理だてて頂きまして感謝致します。

日進月歩の科学、文化あっての文明!?!おそれおののいて科学に近づかないのではなく、政治家達の裏での駆け引きと思える処方に腹立たしく思います。
管元総理は、フランスでまたまた、日本政府批判をしています。個人的にものを申すのなら勝手ですが、公人として話をされてる。情けなく思います。「平和」と言う文字だけで日本が守られるなら苦労は入りません。
ずいぶんと昔のことですが、故田島英三原子力委員が環境問題で森山科学技術庁長官(この人は大臣と呼ばないと返事をしなかったというので知られている)と意見が合わず,辞任するという事件がありました。田島さんは奥様を通して存じあげておりました。鎌倉の環境保持、自然保全に影で支えてくださった方です。この方の論理は、科学音痴な僕でも理解できるほどの理路整然とした論理でした。当時は、自民党(大臣も含めて)内ですら非論理的な感情で原発事故に対応していた。今は、少し良くなったかも知れません。
がしかし情緒的主張、与党内でも足を引っ張る「族議員」の存在、中途半端な今までの論理、小泉さんのような独裁的手法ではなく、今を大切にしながら少し先を見据えた議論を求めたく思います。

野党(一時の自民党も含めて)が、政治論議をするのではなく、党利党略的に、一政治家の献金問題に終始ている。こんなことに国会1日経費数億円を使っている。国民は、そうした事を踏まえて国会を見ていない。何処のマスメディアも同じでは、隣国のメディアと変わりません。

いつも、的確な論考を頂き、せめてブログルの面々だけでもしっかりとした論理を身につけ、広がればよい、と思っています。

今後共よろしくお願い申し上げます。

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くまごろう
くまごろうさんからコメント
投稿日 2015-03-04 08:35

zakkahさん、ややまとまりを欠いた長文のくまごろうの解説をお読みいただき感謝しています。

くまごろうのサイエンス教室は、以前も述べたかもしれませんがくまごろう自身がもっと知りたい、と思ったサイエンスのテーマについて調査して書いています。調査を進めると如何に一部政治家やマスコミが不勉強であるかが良くわかります。

エネルギー源をどうするか、ということはその国の将来に重大な影響を及ぼします。ドイツは脱原発、再生可能エネルギーを標榜していますが、そのために電気料金が上昇し、同国の将来の工業生産に影を落としています。それでもドイツはフランスから原発電力を購入出来ますが、日本は異なります。安全な原発の建設と使用済み核燃料の消滅処理に一層努力すべきと確信しています。

そして今世紀後半にはいよいよ核融合によるエネルギー供給が実用化されることと思います。核融合についてはいずれサイエンス教室で取り上げてみたいと思っています。

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