くまごろうのサイエンス教室『GPS測位システム』
8月
29日
GPSは3台のGPS衛星からの信号を受取ることにより地球上の1点を特定するが、その原理は衛星とGPS機器との距離を観測することである。即ちGPS衛星は現在位置と現在時間の情報を常に発信しているが、第1の衛星からGPS機器まで電波が到達する所要時間に光の速度をかけることにより衛星と機器との距離を計算すると、機器はその衛星を頂点とし距離を母線とする円錐の底面の円周上に存在することになる。同様に第2のGPS衛星からの距離の測定により第2の円錐の底面の円周が特定され、二つの円錐の底面による円周は2点で交わる。更に第3のGPS衛星からの距離の測定により第3の円錐の底面の円周が特定され、この円周は前述の二つの円周とは1点で交わる。この点がGPS機器の現在位置である。
地上から20,200キロメートルの高度の円軌道を1周約12時間で飛行する24機のGPS衛星は精密機器であり、その現在位置情報や現在時刻はきわめて正確である。衛星に搭載されている時計はセシウムなどの振動周波数に基づく原子時計であり、30,000年に1秒程度しか狂わない正確さである。距離の計算には光速である299,792,458メートルが使用されるので、1マイクロ(0.000001)秒の誤差でも距離は299メートルもずれてしまうので、1ナノ(0.000000001)秒の精度が必要なのだ。
GPS衛星に搭載されている時計は正確だが、その情報を受取るGPS機器の時計は通常、クオーツ時計程度の精度のためあまり正確ではない。そのため4つのGPS衛星から時刻に関する情報を受取り、GPS機器の時計を補正することによって正確な位置の測定が可能になる。その際、相対論効果を考慮に入れて時計を補正しないと地上との間に時差を生じてしまう。特殊相対性理論によれば、人工衛星は高速で動いているので地上から見ると時間がゆっくり進む。すなわち地球から見ると、人工衛星の時計は1日あたり7マイクロ秒づつ遅れる。他方一般相対性理論によれば重力が強いほど時間はゆっくり進む。重力の強い地球からは重力の弱い人工衛星の時計は進んで見えることになる。その進みは1日あたり46マイクロ秒である。両者の差である39マイクロ秒の誤差に光速をかけると距離の誤差は12キロメートルになり、これではGPSとしては使い物にならない。GPSは特殊相対論と一般相対論を使ってこの誤差を補正することにより実用に耐える精度を確保している。
自動車に使用されるカーナビゲーションシステムではトンネルなどに入った際、GPS衛星からの電波が受信出来なくなるため、ジャイロ、加速度センサー、車速情報などにより位置を特定出来る機能付モデルが一般的である。また携帯電話などの場合は衛星からの電波が受信出来ない屋内や地下などでは基地局の位置情報を利用して位置を特定するが、その精度は通常100メートルを超え、あまり正確ではない。
GPSの技術は地殻の変動を観測するシステムにも使用されている。国土交通省は日本全国の1,240ヶ所に約20キロメートル間隔でGPS観測点を設置することにより、地殻がどのように変動したかを観測している。このシステムを利用して東日本大震災の際に日本列島が東南東方向に約5.3メートル、垂直方向に1.2メートル移動したことが観測された。又噴火に備え、富士山にはGPS機器が多く設置されており、山体の膨張などを観測している。
GPSは未来の農業機械にも利用されようとしている。従来のGPS衛星からの電波を利用した農業機械は既に一部使用されているが、日本が打上げた測位衛星『みちびき』の電波を使用することにより、通常のGPS衛星では建物や防風林などにさえぎられて測位信号を受信出来ない時間をなくすことが出来、また誤差が数センチメートルの正確な位置情報が得られるので、無人化した先進農業機械による耕作を行うことが可能になる。
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