記事検索

くまごろうのひとりごと

https://jp.bloguru.com/kumagoro

『ローマ人の物語』を読んで。その1

スレッド
『ローマ人の物語』を読んで。そ...
遅ればせながら塩野七生さんの『ローマ人の物語』文庫本全43巻を読み終えた。ハードカバーは全15巻で毎年1巻づつ、合計15年かけて完結させた塩野さんの大作、読みでがあった。文章は平易で含蓄が深く、大勢の登場人物が生き生きと描かれており、平日の朝ほぼ毎日20分程度読み進んだが、早く続きを読みたくなる思いの数年だった。

より強力な部族に囲まれた都市国家ローマが紀元前509年に王政から元老院による共和制に転換した後も周辺諸部族との戦いに明け暮れ、紀元前4世紀には北方のケルト族に攻められて、ローマ市内も略奪された後に多額の身代金を払わされ、都市国家としてどん底に落ちてしまう。しかし同様な状況から立ち直れず消え去ってしまう他の都市国家とは異なり、ローマは国家運営の要職を広く平民階級にも解放して人材の活用を始める。更に同盟諸部族の指導者にもローマ市民権を与えてローマとの同化を進め、120年を経た紀元前270年頃に北はルビコン川から南はメッシーナ海峡に至るイタリア半島全域を統一する。

イタリア半島の統一は紀元前367年に制定されたリキニウス法が大きく貢献しているという。元老院は貴族に占められていたが、リキニウス法によりすべての要職が平民にも解放され、平民出身の執政官が実現する。また国家の要職を経験したものは元老院の議席を取得する権利も持つことになり、平民出身の元老院議員も生まれるようになる。出身ではなく実力あるものが国家の運営にあたることにより、ローマは強力な国家へと成長する。国のシステムが人材を育て国家の成長を助ける都市国家ローマから、現在の日本の政治システムや縦割りの官僚システムに目を転ずると、日本の将来に憂いを思わざるを得ない。日本にはリーダーとしての人材がいないのではなく、人材を育てるシステムが不十分であることを。

メッシーナ海峡に到達すればシチリアが見える。カルタゴの許可なくしてはローマ人は海(地中海)で手も洗えない、とカルタゴ人に揶揄されたローマ。西地中海は海運大国カルタゴの支配下にあった。紀元前265年にシチリアのメッシーナは同じシチリアのシラクサからの圧力を受けてローマに救援を求めてくるが、ローマは海峡を越えて軍団を派遣することを決定する。それはカルタゴとの長い戦いの始まりとなる。カルタゴの操船術はローマをはるかに凌いでいたので地中海の制海権はカルタゴにあったが、ローマ人は兵器開発の技術力により海戦を制し紀元前241年にシチリア全域を属州としてローマの支配下に置く。

当時スペインでの植民地を統治していたカルタゴのハンニバルはローマへの復讐を誓い、紀元前218年に大軍を率いてピレネー山脈を越えてガリアに侵入し、更に秋のアルプス越えで約半数の兵を失いながらもイタリアに侵攻する。イタリアでは各地でローマ軍を撃破し、紀元前216年に南イタリアのカンネの会戦でローマ軍に壊滅的な打撃を与える。ハンニバル率いるカルタゴ軍はその後15年間にわたりイタリア半島の一部を支配し続ける。

ローマがカルタゴに抑圧されていた時、ローマの若き司令官スキピオは元老院の許可を得てカルタゴの支配下にあったスペインに軍を率い、カルタゴ軍を蹴散らし、続いてジブラルタル海峡を渡ってカルタゴ本国に侵攻する。本国がローマ軍に侵略されたと知って、イタリアに居座っていたハンニバルは本国に戻り、紀元前202年にスキピオ率いるローマ軍とザマで戦うことになる。ザマの会戦である。カルタゴ軍5万に対しローマ軍は4万と劣勢であったがスキピオの巧妙な戦術によりローマ軍が大勝し、カルタゴ軍は敗走する。ザマの会戦での敗北によって結ばれた講和条約によりカルタゴは交戦権を剥奪され、軍船をローマに引き渡すことになる。こうして西地中海の覇権はカルタゴからローマに移ってゆく。

その後もローマは大国としてギリシャやマケドニアの紛争に介入し、結果として東地中海沿岸諸国もローマの支配下に置くようになり地中海の覇者となってゆく。ローマ人のやり方は自分たちの持っているものを徹底的に活用することであるという。ローマは支配下に置いた諸国の指導者を活用するだけでなく師弟をローマの元老院議員の家庭に滞在させ、元老院議員の師弟と同じ教育を行うことにより親ローマの人材を育ててゆく。多くのカルタゴやギリシャの青少年がローマで教育を受け、後に母国に帰国してローマ的な指導者となる。戦後アメリカのフルブライト奨学金制度も当時の日本の若者をアメリカで教育して親米派の人材を育成することが目的であったが、ローマのやり方にならったものだ。遅ればせながら日本政府も地方公共団体を支援して1987年よりJETプログラム(Japan Exchange & Teaching Program)を推進し、これまでに約50カ国から5万人の青年を日本に招聘して地方での教職などに当たらせると共に日本および日本人を理解させている。これは将来のためにきわめて有用なプログラムと思うが、その原型は古代ローマにあるのだ。
#政治 #歴史 #環境 #社会 #経済

ワオ!と言っているユーザー

  • ブログルメンバーの方は下記のページからログインをお願いいたします。
    ログイン
  • まだブログルのメンバーでない方は下記のページから登録をお願いいたします。
    新規ユーザー登録へ
エメラルド
エメラルドさんからコメント
投稿日 2012-08-30 02:56

凄いですね~!43巻!

ワオ!と言っているユーザー

くまごろう
くまごろうさんからコメント
投稿日 2012-08-30 12:11

とても読みやすい本です。それでも色々な本を並行して読むため、数年かかりました。

ワオ!と言っているユーザー

この投稿へのコメントはできません。
ハッピー
悲しい
びっくり