歴史的円高
2月
4日
東大時代の恩師であるイェール大学の浜田宏一教授が白川総裁に対し2010年に公開書簡で、リーマンショック後各国の金融当局は金融緩和を進めたのに対し日銀は金融政策をほとんど変更せず、円高を招いてデフレをより深刻化させ、その結果日本企業の国際競争力を低下させ失業者や新卒者の就職難を招いた、と批判している。更に日銀が取るべき政策として短期国債の購入にとどまらず、長期国債や社債、株式などを実質的に買い上げることを提案している。白川総裁は浜田教授が提案したような金融緩和を行わない理由として、2002年から2005年にかけて日銀がマネタリーベースを大きく増やしたが円高が進んだので、金融緩和と為替レートの変動には直接的な関係があるか不明だ、としている。2001年のマネタリーベースを100とするとアメリカではリーマンショックの前は200前後であったのに対し、リーマンショック以降大幅に増加させ、現在は450に達している。これに対し日本のマネタリーベースはリーマンショック以前は100前後、リーマンショック後もそれほど増加せず現在でも150程度である。
日銀法第2条では『日本銀行は通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもってその理念とする。』となっているため、日銀は物価の安定に強いこだわりを持ち、絶対にインフレを起こしたくないという気持ちが強いのであろう。2008年に日銀総裁に就任した白川総裁の下では食料とエネルギーを除いた消費者物価指数は常に-1.5%と0%の間にあり、現在のようにデフレが何年も続いていてもインフレ目標を設定するようなインフレ誘導政策を進めることに極めて消極的である。
1月25日にアメリカのFRBは連邦公開市場委員会で食料とエネルギーを除いた個人消費支出で2%を長期的目標とすることを決定した。これまでアメリカのFRBでもインフレ目標の設定を行わないことを口実にインフレ誘導政策を回避してきた日銀はこれからどのような政策を進めるのだろう。たとえ公定歩合が日米ともゼロパーセントでも、アメリカが緩やかなインフレで日本がデフレなら今後も円が買われて円高が続き、日本の製造業は海外逃避を続け、浜田教授が指摘した失業者の増加や就職困難な状況は悪化するだろう。これに消費税増税や復興支援のための増税が加わればますます消費者の可処分所得が減少し、GDPは低下してデフレスパイラルに突入してゆくのではないだろうか。