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地域医療の見え方  2016.Jun.22;2(72)

スレッド
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1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-モサプリドの効果-

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[introduction]

個人的に消化器系用薬ではモサプリドをお勧めすることが多い。脳卒中後の胃瘻造設患者で肺炎リスクを抑制したというランダム化比較試験が報告されていることが、その根拠ではある。
〔J Am Geriatr Soc. 2007 Jan;55(1):142-4..PMID:17233710〕

それ以外にも、PPIやH2RAは有害事象(特にPPI)や腎機能の問題から、超高齢者に積極使用しづらいという理由もある。ただ、胃酸分泌を強力に抑制し、消化器系症状改善がかなり明確なPPIと異なり、モサプリドはいまいちパッとしない印象もある。

ところで、上部消化器症状を有する患者への「胃薬」は多岐にわたるが、PPI+ムコスタ+セルベックス+ベリチーム、みたいに、ひたすら胃薬(hitasura Igusuri:HI処方)が投与されているケースもあり、現実的にはポリファーマチックな胃薬使用は決して少なくない。対症的薬剤なので、投与の中止提案も難易度が高く悩ましいところではある。

本稿では、なんとなく個人的に良さげなイメージを持っているモサプリドが臨床上、どの程度の有用性を誇るのか、客観的に把握するために近年報告されている論文をレビューしてみる。またHI処方への介入切り口としてPPI+モサプリドの有効性についても検討を加える。

[上部消化管症状に対する“胃薬”の効果]
上部消化管症状(lobal Overall Symptom score:GOSで7点中4点以上)を有する471人を対象として、オメプラゾール、ファモチジン、モサプリド及びテプレノンの有効性を検討したランダム化比較試験が報告されている。
〔BMC Gastroenterol. 2012 May 1;12:42. PMID: 22548767〕

対象となったのは、中等度から重度の上部消化管症状を有する20歳以上の成人で、ピロリ菌陰性、3か月以内に内視鏡検査をしていない人が対象となった。

被験者はオメプラゾール10mg/日群(139人、平均40.9 歳)、ファモチジン20mg/日群( 129人、平均39.4 歳)、モサプリド15mg/日群(118人、平均40.0歳)、テプレノン150mg/日( 68人、平均40.0歳)の4群にランダム化されている。

一次アウトカムは4週の治療後における症状の改善した患者割合で、症状改善はGlobal Overall Symptom scoreで7点中2以下と定義された。

なおこの研究は非盲検試験であり、主観的なアウトカムを評価していることから、その結果の妥当性はかなり低いと言わざるを得ない。投与回数が異なるが故、盲検化が難しいのはわかるが、せめて、ダブルダミーのように、プラセボを組み合わせた二重盲検試験で検討すべきであった。とても興味深い臨床課題の研究なので、残念であるところ。

結果を見ておこう。一次アウトカムの割合はオメプラゾールで27.8%、ファモチジンで9.8%、モサプリドで8.0%、テプレノンで6.2%であった。オメプラゾールは他の3剤よりも有意に優れていたという結果。まあこの結果自体は経験的にも大きな矛盾はない印象。やはりPPIの効果は優れているといえるだろう。しかし、モサプリドとH2RAにそれほど大きな差もない印象である。盲検化されていないということを逆手に取れば、プラセボ効果も込みでモサプリドはH2RAに比べて劣るものではない、と言えるかもしれない。

[機能性ディスペプシアに対するモサプリド]

近年、アコチアミドという薬剤が発売され、機能性ディスペプシアの疾患概念が本邦でも定着しつつあるが、その効果について2014年にメタ分析が報告されている。
〔ScientificWorldJournal. 2014;2014:541950. PMID: 25197703〕

もちろん、効果が期待できるという結果だが、別にアコチアミドではなくモサプリドでも良いのではないか、というのが僕の考えではある。

モサプリドと機能性死すペプシアについては2012年にJapan Mosapride Mega-Studyという少し面白い名前のランダム化比較試験が報告されている。
〔J Gastroenterol Hepatol. 2012 Jan;27(1):62-8.〕

この研究は機能性ディスペプシアを有する患者618人を対象にモサプリド(311人)とテプレノン(307人)を比較して、胃内容うっ滞、心窩部痛、健康関連QOLなどが評価された。

その結果、2週間の治療においてモサプリドは胃内容うっ滞、心窩部痛を有意に改善したが、テプレノンは改善傾向に留まった。この研究は群間比較をしていないようなので、何とも難しいところではあるが、少なくともモサプリドで症状の改善が見込めそうなこと、テプレノンよりも効果が高そうなことが分かる。

2015年には機能性ディスペプシアに対するモサプリドの有効性を検討したメタ分析が出ているので見ておこう。
〔J Gastroenterol Hepatol. 2015 Jan;30(1):28-42. PMID: 25041564〕

この解析では13研究のランダム化比較試験が対象となっている。モサプリド1091人、control群として1129人が解析された。その結果、症状ベースのスコア改善率に明確な差が出なかった。相対危険0.999 (95% 信頼区間0.869-1.150) なんと機能性ディスペプシアに対する有効性は示されていない。コントロールがプラセボのみではないことも影響があるかもしれないのだが、個人的には残念な結果。

ちなみにイトプリドではわずかに有効性が示されているようだ。
〔World J Gastroenterol. 2012 Dec 28;18(48):7371-7. PMID: 23326147〕
ガナトン®をお薦めすべきなのだろうか。。。

[PPI+モサプリドと言うような併用にどんな意味があるのか]
HI(Hitasura Igusuri)処方ではPPI+ムコスタとかPPI+モサプリド、のようなコンビネーションが散見されるが臨床的意義はあるのだろうか。

胃食道逆流症におけるPPI+モサプリドの有効性を検討したシステマティックレビュー論文が2013年に報告されている。
〔World J Gastroenterol. 2013 Dec 21;19(47):9111-8. PMID: 24379638〕

このレビューでは7研究587人が組み入れられている。かなり小規模研究のレビューと言うことになろう。

7研究のうち4研究でPPI単独とモサプリド+PPI併用の有効性比較を行っていたが、その効果は微妙だ。メタ分析によれば治療応答の相対危険は〔1.132; 95%信頼区間 0.934-1.372〕PPIに対するモサプリドの上乗せ効果はこの研究では明確に示されていない。

2014年には胃食道逆流症に対するオメプラゾール単独とオメプラゾール+モサプリド併用を比較したランダム化比較試験が報告されているが、逆流関連症状の変化に群間さを認めていない。やはりPPI+モサプリドはPPI単独に比べて優れた薬剤効果を示すというわけではないようだ。
〔J Dig Dis. 2014 Sep;15(9):469-76. PMID: 24957863〕

[結局のところモサプリド]
消化器症状に対する何らかの効果はあるかもしれないが、機能性ディスペプシアに対する効果はあまり明確ではない。テプレノンよりはマシ、くらいなものかもしれない。ただ胃食道逆流に対するPPI+モサプリドと言うのはもはや「謎処方」でしかないことがわかった。

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2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

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[重要文献]リラグルチドは効果があるのか RCT PMID: 27295427

Marso SP.et.al. Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2016 Jun 13. [Epub ahead of print] PMID: 27295427
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27295427

[背景]2型糖尿患者における標準ケアにリラグルチド(GLP-1作動薬)を上乗せした際の心血管疾患に対する有効性は不明である。

[方法]本研究は心血管リスクが高い2型糖尿病患者を対象に、リラグルチドとプラセボを比較した2重盲検ランダム化比較試験である。一次アウトカムは心血管死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合アウトカム初発とした。一次仮説は、プラセボに対するリラグルチドの非劣性であり、非劣性マージンは結果のハザード比における95%信頼区間上限で1.3と設定された。

[結果]9340人がランダム割り付けされた。追跡期間は中央値で3.8年であった。一次アウトカムはプラセボに比べて、リラグルチド群で有意に低下した。 リラグルチド:608人/4668人 [13.0%]、プラセボ:694人/4672人 [14.9%]、ハザード比0.87[95%信頼区間95% 0.78 to 0.97]

心血管死亡もリラグルチド群で少なかった。リラグルチド群:219人[4.7%]、プラセボ群 278人 [6.0%] 、ハザード比0.78[95%信頼区間0.66~0.93]

さらに総死亡もリラグルチド群で有意に低下した。リラグルチド群:381人[8.2%])、プラセボ群447人 [9.6%] 、ハザード比0.85[95%信頼区間 0.74~0.97];
非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院には明確な差を認めなかった。

主な有害事象は消化器系イベントであった。膵炎は両群で明確な差を認めなかった。

[結論]2型糖尿病患者におけるリラグルチドは心血管死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合アウトカム初発をプラセボよりも低下させる。

[コメント]リラグルチドやりおったなという印象。ちなみに「リキシセナチド」は以前印こけている。Pfeffer MA.et.al. Lixisenatide in Patients with Type 2 Diabetes and Acute Coronary Syndrome. N Engl J Med. 2015 Dec 3;373(23):2247-57. PMID: 26630143
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26630143
http://blog.livedoor.jp/ebm_info/archives/46354990.html)
予想に反して(!?)わりと良い結果が出ているが、まあこれで驚くのは早い。何せThe primary hypothesis was that liraglutide would be noninferior to placeboと言うわけで非劣性試験だからだ。優越性は一次アウトカムではない。この結果でプラセボよりも優れているという主張はあくまで仮説生成にすぎない点に留意しておこう。

まずは対象患者から。
『Patients with type 2 diabetes who had a glycated hemoglobin level of 7.0% or more were eligible…The major inclusion criteria were the following: an age of 50 years or more with at least one cardiovascular coexisting condition…or an age of 60 years or more with at least one cardiovascular risk factor,….』
と言う感じ。50歳以上で心血管疾患を有する糖尿病患者や、60歳以上で心血管リスク因子を有する糖尿病患者でHba1cが7%以上の人が対象。ありがちなハイリスク患者というやつだ。まあ少なくとも新規発症と言う感じじゃないので、この時点で、第一選択としての薬剤効果を検討しているわけではないと考えて良いだろう。(まあ、たとえ効果があるにせよ、最初からお注射なんて僕はいやだな。)

介入、対照は
『patients were randomly assigned, in a 1:1 ratio, to receive either 1.8 mg (or the maximum tolerated dose) of liraglutide or matching placebo once daily as a subcutaneous injection in addition to standard care』
となっていて、既存治療への上乗せとなっている。つまるところやはり第一選択としての効果を検討しているわけではあっりません。プラセボ比較の2重盲検試験なんで、PROBEなんかよりも、それはそれで良いデザインね。

アウトカムは
「The primary composite outcome in the time-to-event analysis was the first occurrence of death from cardiovascular causes, nonfatal (including silent) myocardial infarction, or nonfatal stroke.」てなわけで、抄録に記載の在った通り。非致死的、非致死的、まあ、どんな的?みたいな。

非劣性マージンは
『The primary hypothesis was that liraglutide would be noninferior to placebo with regard to the primary outcome, with a margin of 1.30 for the upper boundary of the 95% confidence interval of the hazard ratio.,』

1.3を超えなければ非劣性よ、というFDA(baka)の一つ覚えみたいな設定。まあしゃーない。ちなみに95%信頼区間法を用いている。非劣性試験は片側検定なので、97.5%信頼区間法を用いた方が良いんじゃね、と思うのがDM関連のRCTはいつもこれだ。これもFDAの基準に乗ってるんか。

結果には有意な差がついているのだが、一次アウトカムはno. of events/100 patient-yで、リラグルチド群3.4、プラセボ群3.9。年間NNTは200人と計算されまっす。総死亡は2.1対2.5なので250人どえす。カプランマイヤーも目が悪いせいかほぼ重なって見えますなー。つまり非劣性は確かだよ、という感じだね。「特別仕様プラセボお注射」、僕はやめておこう。

[文献]ベザフィブラートで死亡が減る?(RCT長期追跡PMID: 26794137)

Arbel Y.et.al. Bezafibrate for the treatment of dyslipidemia in patients with coronary artery disease: 20-year mortality follow-up of the BIP randomized control trial. Cardiovasc Diabetol. 2016 Jan 22;15:11. PMID: 26794137
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26794137

[背景]近年のデータは心血管リスク低減における重要な治療目標として、高TG血症に関する新たな関心を支援している。この研究はベースライントリグリセリドで層別化した患者を対象に行われたBIP試験の長期追跡中における総死亡についての問題に対応するためにデザインされた。

[方法]BIP試験は冠動脈疾患を有する3090人を対象にベザフィブラート400mgとプラセボにランダムに割り付けた研究である。20年にわたり追跡された総死亡データはNational Israeli Population Registryより入手した。高TG血症患者(TG200mg以上 458人)も研究に含まれていた。

[結果]追跡期間中、1869人が死亡した(プラセボ952に、ベザフィブラート917人)ベザフィブラートはわずかに死亡を減らした。(ハザード比0.90[95%信頼区間0.82~0.98]有意に死亡リスクが増加した変数は、心筋梗塞既往、糖尿病、NYHAクラス、年齢、BMI、血糖レベルであった。高TG血症患者ではベザフィブラートを服用していると25%の死亡リスク減少が見られた。(ハザード比0.75[95%信頼区間0.60~0.94]しかし、高TG血症の無い患者ではフィブラートの投与と死亡に明確な関連性を認めなかった。

[結論]ベザフィブラートを投与された患者の長期追跡では、わずかではあるものの有意な死亡リスク減少(10%)が見られた。この効果は、高TG血症を有する人でより高かった(25%リスク減少)

[コメント]この研究でもってベザトールええ感じやねん、とするのは早いぜ。そもそもフィブラートはあんまし(まったく)効果がない。TGが高ければ確かに心血管リスクが高い。そんならスタチンつかえや、と言いたくなるのをこらえて、まあこの研究を見ていこう。

そもそもビップ試験ってなんだ。と言う話だが、
『The BIP trial evaluated the effect of bezafibrate versus placebo on major coronary events and mortality in CHD patients.』である。ベザフィブラートの二次予防効果を検討した研究だが、BIP試験ではそもそも一次アウトカム(The primary end point was fatal or nonfatal myocardial infarction or sudden death)に明確な差が出ていない。The frequency of the primary end point was 13. 6% on bezafibrate versus 15.0% on placebo (P=0.26).そんな研究を長期追跡してみた、つーわけだ。ちなみにこのビップ試験(どこらへんがビップ?)、高TG血症患者(も含まれてるけど)ではなく、冠動脈疾患を有する患者が対象となっている。

この研究はBIP試験の参加者コホートを使って、総死亡に影響を与える変数を検討したものであり、ベザフィブラートの効果を検証したものではない。解析の中で、たまたまベザフィブラートを投与された患者で死亡リスクが低かったということが示唆されているにすぎない、と考えた方が無難だ。これまでRCTやそのメタ分析で有効性が示されていない背景を踏まえれば、この研究だけでフィブラートに効果があると解釈するのは大きな誤りだろう。

[文献]エンパグリフロジンで腎イベントは抑制できるか。(RCT二次解析PMID: 27299675)

Wanner C.et.al. Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2016 Jun 14. [Epub ahead of print] PMID: 27299675
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27299675

[背景]糖尿病は心血管有害事象リスクや腎イベントを増加させる。EMPA-REG OUTCOME trialにおいて、エンパグリフロジン(SGLT-2阻害薬)は心血管イベントハイリスク2型糖尿病患者における主要心血管イベント(MACE)を抑制した。この研究における事前に計画された二次解析で、エンパグリフロジンの腎臓への影響を検討する。

[方法]e-GFRが少なくとも30以上の2型糖尿病患者をエンパグリフロジン(10㎎もしくは25㎎)とプラセボにランダムに割り付けた。あらかじめ計画された腎アウトカムは、腎症(微量アルブミン尿への進行、血清クレアチニン値の倍増、腎代替療法の開始、腎疾患による死亡)の悪化もしくは発症、およびアルブミン尿発症であった。

[結果]腎症悪化はエンパグリフロジンで525人/4124 人(12.7%)、プラセボ群で388 人/2061人 (18.8%)、ハザード比0.61[95%信頼区間0.53~0.70]血清クレアチニン値倍化はエンパグリフロジン群 70 人/ 4645人 (1.5%) 、プラセボ群 60人/2323人 (2.6%) で相対危険は 44%.有意に低下した。腎代替療法開始は、エンパグリフロジン群で13人/ 4687人(0.3%) 、プラセボ群で14人/ 2333 人(0.6%) と相対危険で 55% 低下した。アルブミン尿に明確な差はなかった。

[結論]心血管疾患ハイリスクの2型糖尿病患者において、エンパグリフロジンは腎臓病の進展を抑制し、腎イベントリスクを低下させた。

[コメント]EMPA-REG OUTCOME trialについてはこちらを。
http://syuichiao.blogspot.jp/2015/09/empa-reg-outcome.html
SGLT-2で腎イベントが抑制できるかもという研究。なかなか興味深い。二次解析なので、何とも言えないが、ちょっとSGLT-2には期待してる。個人的にはメトホルミン→SGLT-2というセカンドラインでの推奨。ただ薬価高いなぁ。


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3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

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梅雨の湿気と暑さでばて気味です。
最近勉強しているのが「価値に基づく医療」ですが、なかなかに難しい。

臨床判断における「正義」というのはもはや哲学的問題なので、こっちの得意分野だわと思いきや、VBPは日本語文献が少なく、英語で挫折しそう。

功利主義やカントの道徳論などはおそらくとても参考になるし、まあてっとり早くサンデルの本で整理しておくと良いかもしれない。価値の承認と言うのは分かり合うということではなく、コンセンサスが取れない中で、つまり分かり合えない中で、どこに到達点を設定するかと言う問題は、やはり構造構成主義的な考え方に近いのだろう。

EBMとVBPを対比することも多いのだが、僕はその対比は根本的に間違っていると思う。EBMはステップ3、つまりエビデンスを批判的に吟味することの方法論は見事に体系化されていたが、ステップ4については明確な方法論が示されていなかった。VBPはつまるところEBMのステップ4の体系化に他ならないと感じている。

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2016.Jun.8;2(71)

スレッド
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1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-ポリファーマシー問題、その薬剤数だけが問題なのか-

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[introduction]
多剤併用、いわゆるポリファーマシーも問題なのだが、服用する剤数のみならず、投与経路や服用タイミング、服薬頻度など、処方レジメンの複雑さもアドヒアランス低下につながったり、特にワルファリンや経口糖尿病薬では思わぬ有害事象につながる可能性が懸念されるであろう。投与レジメンの複雑さを定量化するためのツールとしてmedication regimen complexity index(MRCI)と言うものがある。あまり日本ではなじみのないツールであるが、大きく、以下の3つのセクションからなる

・セクションA(剤形)
►投与経路(経口、局所、点眼、点鼻等)とその剤形(錠剤、液剤、スプレー剤等)
・セクションB(投与頻度)
►1日の服薬頻度やタイミング
・セクションC(投与に必要となる追加の作業)
►漸減、漸増、食事との関連、粉砕など


セクションごとに細かなチェック項目があり、それぞれの項目は重みづけによる点数配分がなされている。例えばセクションAでは錠剤/カプセルであれば1点だが、液剤であれば2点となっている。チェック項目は65項目設定されており、スコアが大きいほど、より複雑なレジメンであることを示す。その信頼性は論文化されており、現段階で妥当性の高い評価ツールと言われている。

George J.et.al. Development and validation of the medication regimen complexity index. Ann Pharmacother. 2004 Sep;38(9):1369-76. PMID: 15266038

MRCIと患者予後の関連を検討した報告はまだまだ少ないものの、徐々に増えてきている印象だ。以下、報告年順に主要な研究をレビューする。

[MRCIと薬物有害事象(Willson MN.et.al.2014)]

薬物有害事象で再入院した症例(92例)と同疾患を有し、再入院していない対照(228例)を比較した症例対照研究によれば、再入院群、つまり症例群でMRCIスコアが有意に高かった。(all P < .005).

Willson MN. Et.al.Medication regimen complexity and hospital readmission for an adverse drug event. Ann Pharmacother. 2014 Jan;48(1):26-32. PMID: 24259639

[MRCIとアドヒアランス(de Vries ST.et.al.2014)]
投与レジメンが複雑なほど、アドヒアランス低下が想定できるが、処方データを用いた解析が報告されている。この研究はGroningen Initiative to ANalyse Type 2 diabetes Treatment (GIANTT) という2型糖尿病患者のデータベースを横断的に解析(cross-sectional survey data)したものだ。257人を対象とし、質問票による回答を得た133人(平均66歳、50%が女性)を解析した。その結果、アドヒアランスが悪い患者において、MRCIが高い傾向にあった。特に高血圧治療においてはアドヒアランス不良群で有意にMRCIスコアが高かった。この研究ではサンプルが少なく、あまり著明な差は出ていないが、投与レジメンの複雑さがアドヒアランス低下につながる可能性が示唆される。

de Vries ST.et.al. Medication beliefs, treatment complexity, and non-adherence to different drug classes in patients with type 2 diabetes. J Psychosom Res. 2014 Feb;76(2):134-8. PMID: 24439689

[MRCIと予期せぬ再入院リスク(Wimmer BC.et.al.2014)]
70歳以上の高齢者163人を対象とした前向き研究。12か月の追跡でMRCIと再入院の関連を検討している。観察期間中99人が少なくとも1回以上再入院した。年齢、性別、ADL、抑うつ、併存疾患、認知状態等で補正後
・MRCI (HR = 1.01; 95% CI = 0.81-1.26),
・number of discharge medications (HR = 1.01; 95% CI = 0.94-1.08)
・polypharmacy (≥9 medications; HR = 1.12; 95% CI = 0.69-1.80)
といずれも明確な関連性を認めなかった。

退院後自宅へ戻らなかった患者を対象とした解析では
・number of discharge medications (HR = 1.12; 95% CI = 1.01-1.25)
・polypharmacy (HR = 2.24; 95% CI = 1.02-4.94)
・MRCI (HR = 1.32; 95% CI = 0.98-1.78)
とMRCIは有意な関連を示さなかったが増加傾向にあった。この解析ではポリファーマシーと再入院リスクの関連性が示されている一方で、『Medication regimen complexity was not associated with unplanned hospital readmission in older people』と結論しているように、投与レジメンの複雑さと再入院リスクの関連は否定されている。但しサンプル数が少ないので、解釈は難しい。

Wimmer BC.et.al. Medication Regimen Complexity and Unplanned Hospital Readmissions in Older People. Ann Pharmacother. 2014 May 27;48(9):1120-1128. PMID: 24867583

[MRCIと再入院・救急診療部受診リスク(Yam FK.2015)]
心不全を有する米国退役軍人コホートを用いた後ろ向きコホート研究。174人が解析対象となった。90日以内に再入院、救急診療部を受診したのは62人(36%)平均MRCIは4.7であった。MRCIが1単位増加するごとに再入院・救急診療部受診は4%低下する傾向を示唆した。(OR 0.955; 95% CI 0.911-1.001).投与レジメンが複雑になることは必ずしも予後悪化と関連していないということが示されている。この研究もかなり小規模なものであり結論を鵜呑みにすることもまた難しい印象だ。

Yam FK.et.al. Changes in medication regimen complexity and the risk for 90-day hospital readmission and/or emergency department visits in U.S. Veterans with heart failure. Res Social Adm Pharm. 2015 Oct 27. pii: S1551-7411(15)00232-6. PMID: 26621388

[MRCIと予期せぬ再入院リスク(Wimmer BC.et.al.2016)]
スウェーデンにおける60歳以上の高齢者3348人を対象とした大規模コホート研究。これまで報告されていたものとは規模が一桁違う。MRCIや投与薬剤数と予期せぬ入院リスクを3年にわたり追跡調査した。その結果、観察期間中1125例が再入院し、投与レジメンの複雑さが再入院リスクを有意に増加させることを示した。

・Regimen complexity (hazard ratio 1.22; 95% CI 1.14-1.34)
・number of medications (hazard ratio 1.07; 95% CI 1.04-1.09)

わずかであるがいずれも有意にリスクが上昇している。但し、薬剤数に比べて、MRCIや予後を予測するツールとして優れているとは結論できないとしている。それにしても規模が大きくなると、リスクの増加が検出されるようになることからも、投与レジメンの複雑さと言うものが、わずかながら、ではあるものの、何らかの有害アウトカムをもたらす可能性が示唆される。

Wimmer BC.et.al. Medication Regimen Complexity and Number of Medications as Factors Associated With Unplanned Hospitalizations in Older People: A Population-based Cohort Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2016 Jun;71(6):831-7. PMID: 26707381

MRCIと死亡(Wimmer BC.et.al.2016)
スウェーデンにおける60歳以上の高齢者3348人を対象とした大規模コホート研究。論文著者は先ほどの研究と同じオーストラリア、モナシュ大学のWimmer BC。この手の研究論文は多い。3年間の追跡でMRCI1単位の増加は死亡リスクに関連する可能性が示された。一方ポリファーマシー(5剤以上)では明確な差は見られなかった。

MRCI:adjusted HR = 1.12; 95% CI = 1.01-1.25).
Polypharmacy: (adjusted HR = 1.03; 95% CI = 0.99-1.06)

なかなか衝撃的な研究結果となっている。近年問題視されてるポリファーマシーでは死亡リスクの関連は顕著ではなく、一方で投与レジメンの複雑さが問題なのではないか、という仮説を提起する。

Wimmer BC.et.al. Medication Regimen Complexity and Polypharmacy as Factors Associated With All-Cause Mortality in Older People: A Population-Based Cohort Study. Ann Pharmacother. 2016 Feb;50(2):89-95. PMID: 26681444

[MRCIと再入院(Abou-Karam N.et.al.2016)]
症例対照研究である。心不全、急性心筋梗塞、肺炎、COPDで入院した756人を対象に、30日以内に再入院した101例と再入院していない655例を比較している。平均年齢は約69歳である。その結果、再入院群でMRCIが有意に高かった。(30.8 readmission vs 26.3 no-readmission, p < 0.01)しかし、交絡補正後は明確な関連を認めなかった。

Abou-Karam N.et,al. Medication regimen complexity and readmissions after hospitalization for heart failure, acute myocardial infarction, pneumonia, and chronic obstructive pulmonary disease. SAGE Open Med. 2016 Feb 19;4:2050312116632426. PMID: 26985392

[まとめ]
MRCIと患者の臨床アウトカムを検討した研究はまだまだ少ない。2016年に入り、ようやく、大規模研究が報告され始めてきた。そこから明らかになったのは、少なくとも数千人規模の研究でないと有害事象を検出できない可能性があるということかもしれない。しかし逆に言えば、数千人規模で検出できる有害事象ともいえ、投与レジメンの複雑さがもたらす有害転帰は侮れないものがあるだろう。


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2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

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[文献]骨折後の転倒リスクの懸念がある薬剤使用(コホート研究PMID: 27199553)

Kragh Ekstam A.et,al. Do fall-risk-increasing drugs have an impact on mortality in older hip fracture patients? A population-based cohort study. Clin Interv Aging. 2016 Apr 29;11:489-96. PMID: 27199553
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27199553

[目的]転倒リスクの増加する薬剤群(FRIDs:fall-risk-increasing drugs )の使用と大腿骨頚部骨折患者の死亡を評価する。

[方法]一般人口集団を用いたコホート研究。スウェーデンにおける3つの公的データベースより、60歳以上で大腿骨頸部骨折を有する患者。評価項目は転倒リスクの増加する薬剤群の使用有無、ポリファーマシー状態の有無での死亡リスクであった。なお年齢、性別で調整した。

[結果]2043人の60歳以上の大腿骨頸部骨折患者のうち最初の1年で24.6%にあたる503人(男性170に)が死亡した。転倒リスクが増加する薬剤を4剤以上もしくは、5剤以上のポリファーマシー状態、精神疾患用薬、心血管疾患用薬の使用では、死亡リスクの有意な上昇が示された。転倒リスクの増加する薬剤群を4剤以上使用(518人:25.4%)すると、30日以内の死亡はオッズ比で2.01[95%信頼区間1.44~2.79]、90日以内の死亡はオッズ比で1.56[1.19~2.04]、180日以内の死亡はオッズ比で1.54[1.20~1.97]、365日以内の死亡はオッズ比1.43[1.13~1.80]であった。

[結論]転倒リスク増加に関する薬剤群の使用は大腿骨頸部骨折患者の死亡リスクが有意に高かった。特に4剤以上の転倒リスク増加に関する薬剤使用、ポリファーマシー状態、精神疾患用薬、心血管用薬で高かった。高齢者の薬物治療適正化に向けて、これら薬剤の使用を制限する必要がある。

[コメント]
fall-risk-increasing drugs (FRIDs)ということばを恥ずかしながらはじめて知った。
『Drugs that increase the risk of falls were identified in a previous study from 2011 and classified according to the World Health Organization's Anatomical Therapeutic Chemical Classification System into the following drug classes: psychotropic (including sedative/hypnotic, antidepressive, antipsychotic [excluding lithium], and benzodiazepine), cardiovascular (excluding lipid-lowering drugs), anticholinergic, antiepileptic, antiparkinson, and opioids.』

いわゆる催眠鎮静薬、抗うつ薬、抗精神病薬(リチウムを除く)、ベンゾジアゼピン、脂質異常症を除く心血管要約、抗コリン薬、抗てんかん薬、抗パーキンソン病薬、オピオイドが含まれている。

対象となったのは平均83.0歳の2043人、男性26.4%。Figure 1を見ても明らかなように、Cox regression survival modelを用いた解析では大腿骨頚部骨折後の患者において、FRIDsの4剤以上の使用で生存者が有意に減少していく。

そもそも大腿骨頸部骨折を起こすと、起こさない場合に比べて死亡のリスクが高くなる。[CMAJ. 2009 Sep 1;181(5):265-71. PMID:19654194] 
骨折後、独歩が可能だったとしても、転倒リスクの懸念のある薬剤は避けたい。転倒リスクの懸念のある薬剤としては、
[Arch Intern Med. 2009 Nov 23;169(21):1952-60. PMID: 19933955 ]
で示されている通り、降圧薬、利尿薬、催眠鎮静薬、抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、NSAIDsの使用は常に念頭に入れておきたい。

[文献]降圧薬と骨折リスク(コホート研究PMID: 26626043)

Ruths S.et.al. Risk of hip fracture among older people using antihypertensive drugs: a nationwide cohort study. BMC Geriatr. 2015 Dec 1;15:153. PMID: 26626043
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26626043

[背景]大腿骨頸部骨折リスクの高い集団の多くは心血管疾患を併存している。降圧薬が高齢者の大腿骨頸部骨折リスクを増加させるかどうかを検討した。

[方法]1945年以前に出生し、2005年においてノルウェーに在住の906422人が対象となった。降圧薬の使用についてはNorwegian Prescription Databaseより2004年から2010年尾データを、大腿骨頸部骨折初発に関するデータはNorwegian Hip Fracture Registryより2005年~2010年のデータを入手した。降圧薬の使用ありと使用なしを比較し、大腿骨頸部骨折発症率を標準化発生率比で比較した。

[結果]全体で、39938例(4.4%)で大腿骨頸部骨折を経験した。骨折リスク低下を示唆したのはチアジド系利尿薬(SIR 0.7, 95 % (CI) 0.6-0.7),β遮断薬 (SIR 0.7, 95 % CI 0.7-0.8), Ca拮抗薬(SIR 0.8, 95 % CI 0.8-0.8), ARB(SIR 0.8, 95 % CI 0.7-0.8), ACE阻害薬(SIR 0.7, 95 % CI 0.6-0.7) ARB、β遮断薬、チアジド併用 (SIR 0.6, 95 % CI 0.6-0.6).

ループ利尿薬の使用とACE阻害薬の使用は1924年以後に生まれた人で骨折リスクを上昇させたが、1925年以前に生まれた人ではリスクが低下した。

[結論]多くの降圧薬で大腿骨頚部骨折リスクが低下した。しかし、80歳よりも若い人ではループ利尿薬やACE阻害薬でリスクが増加した。

[コメント]薬剤による骨折の要因としては薬理作用による直接的な薬物有害反応、そして転倒を介した薬物有害事象に分けられると言ってよい。β遮断薬やチアジド、ACE阻害薬では、その薬理学的作用メカニズムが検討されている。
[Endocrine. 2014 Aug;46(3):397-405. PMID: 24504763]

平均、72.8 歳の人口集団が対象となっているか、解析対象者の健康状態はいまいちわからない。寝たきり虚弱高齢者が多いのであれば、骨折リスクに転倒という要素はあまり寄与しないであろう。また潜在的な交絡因子の補正があまりなされておらず、この論文で降圧薬が骨折リスクを減らす、と結論することは難しいように思える。

[文献]COPD患者における低用量テオフィリンの有効性(パイロットスタディ,RCT PMID: 27107490)

Cosío BG.et.al. Oral Low-Dose Theophylline on Top of Inhaled Fluticasone-Salmeterol Does Not Reduce Exacerbations in Patients with Severe COPD: A Pilot Clinical Trial. Chest. 2016 Apr 20. pii: S0012-3692(16)48561-2. PMID: 27107490
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27107490

[背景]慢性閉塞性肺疾患(CPD)は慢性炎症によって特徴づけられる。In vitro やex-vivoの観察では、炎症はステロイドの効果に対して部分的な耐性を有するが、低用量のテオフィリンはヒストン脱アセチル化酵素活性(HDAC)の増強を介してこの応答を復元することが可能である。これが生体内で発現し、潜在的な臨床結果につながるかどうかは不明である。

[目的]COPD患者において、β刺激薬/ステロイド吸入に低用量テオフィリンを用いることで、増悪の頻度や炎症マーカーに与える影響を検討する。

[方法]プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験。FEV1<50%で、前年に増悪による入院を1回以上経験しているCOPD患者が対象となった。ステロイド吸入に加え、低用量テオフィリンを投与する群とプラセボを投与する群にランダムに割り付け52週間追跡した。炎症性マーカーや増悪などを検討した。(パイロットstudy)

[結果]70例をランダム化した。(36人がテオフィリン群、34人がプラセボ群)炎症性マーカーに明確な差はなく、増悪率もほぼ同等であった。

[結論]ステロイド吸入に低用量の経口テオフィリンを併称しても増悪への影響に変化はなかった。

[コメント]パイロットスタディなので何とも言えないが、まあテオフィリンを積極的に用いるべき根拠は少ない印象。

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3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

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ポリファーマシーという概念もだいぶ普及してきたように思います。ただ単に薬剤数が多いから悪だ、と言うのはもう考え方としては数百歩遅れていると言わざるを得ません。この点に関してはかなり考察を加えてきましたが、投与レジメンの複雑さという観点も重要なファクターである可能性が示されてきています。いずれにせよ、この分野は臨床報告がめまぐるしく、またPIMsをスクリーニングするためのクライテリアも随時改訂されていくので、情報の更新、思考プロセスの更新は必須です。

ワオ!と言っているユーザー

地域医療の見え方  2016.Jun.1;2(70)

スレッド
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1. CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES
-価値観に基づく医療(values-based practice) -

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[introduction]
価値観に基づく医療(values-based practice)という概念が本邦でも紹介され始めている。日本語で読める文献はまだまだ少ないが、このような概念が表れてきた背景にはいったい何があるのか、興味深い点も多々ある。本稿では根拠に基づく医療(EBM)が受けてきた誤解と、価値観に基づく医療との関係を考察しながら、その概要を紹介し、「何かに」基づくことが僕たちには相当困難なことなのではないかということを、構造構成主義でいう所の関心相関原理を用いて示す。

[”価値観”に基づくのか”価値”に基づくのか]
「価値」と言ってもさまざまであるが、英語で「value」というと、費用対効果的側面から“価値”ある医療介入と言うような意味合いもあるだろう。「価値」と「value」は同一の事態を指し示すものではない。

Value-based medicine(Brown GC.et.al.2003 PMID: 14566642)とValues-based practice(medicine)(Fulford.1989)は全く異なる概念である。Valueには価値、(ものの本質的または相対的な)価値、値打ち、真価、有用性、等の意味合いがあるが、Valuesと複数形になると「価値観」という意味合いになる。

つまりValue-based medicineでは価値なるものがいわば客観的に付与される“値”であるのに対して、Values-based practiceでは患者や医療者の主観的な価値観(つまり定量化が不可能なもの)を軸足においている。QALYなどの指標を用いた、定量的に示された費用対効果を重視しながら提供すべき医療を判断するValue-based medicineは、主観的な価値観を重視するValues-based practiceと似て非なるものである。以下、本稿では、Values-based practiceに関して考察していくがゆえ、「価値観に基づく医療」と訳す。

[価値観に基づく医療と根拠に基づく医療]
価値観に基づく医療と類似概念にevidence-based medicine、つまり根拠に基づく医療(EBM)がある。臨床の現場ではEBMの方がなじみがあるかもしれない。しかしEBMというとエビデンスを重視し、患者の想いをないがしろにするような、そんな誤解を受け続けてきたことは確かであろう。

「価値観に基づく医療」は「根拠に基づく医療の発展系とも言われ、患者やその家族と医療者がもつ「価値」に力点を置いたものであるとも言われている。(尾藤 誠司. 医療の多様性と“価値に基づく医療” 日本内科学会雑誌Vol. 103 (2014) No. 11 p. 2829-2834 /Fulford KWM, et al: Essential Values-Based Practice (Values-Based Medicine), Cambridge University Press, 2012. )

しかし、そもそもEBMとはエビデンスを踏まえたうえで、患者の想いや患者を取り巻く環境、さらに医療者の経験まで統合し臨床決定を行う行動スタイルであった。エビデンスを参照しながら、むしろそ患者の価値感を重視することこそがEBMだったはずである。

ところがエビデンスの収集やその批判的吟味スキルに関しては具体的な方法論が示されている一方で、EBMのステップ4、つまりエビデンスの患者への適用に関しては、具体的な方法論が示されていなかったという現実もあるのであろう。EBMというと、エビデンスを重視し、どこか患者の価値観をないがしろにするような、そのような誤解は未だにあり、「価値観に基づく医療」という概念が生まれてきた状況を鑑みるに、つまるところ、EBMはこの先も誤解されたままなのだろう。我が師、名郷直樹先生は以下のように述べられている。

『科学的根拠と個別の患者の価値観を統合して、あくまでも個別の患者に最善の医療を提供するというのがEBMであるが、そんな仕事を20年以上にわたって積み上げた挙句が、「価値に基づく医療」と言うことになると、最初にあるのはどうしようもない無力感である。』
(名郷直樹.価値に基づく医療における医学的根拠の位置づけと役割.Modern Physician Vol.36,No.5,2016-5,p419)

価値観に基づく医療には「二本の足の原則」という考え方があるが、これはEBMでいうところの外的なエビデンスと内的なエビデンスというニュアンスで大きな誤りはないだろう。EBMでは医学的根拠、つまり論文結果を外的なエビデンスとするのに対して、患者が抱く想いを、内的な根拠として、意思決定に用いていた。価値に基づく医療ではこの2つの根拠を二本足の原則と呼ぶ。

しかし、この2つの根拠を等価に考えることなど人間にできるのであろうか。EBMが誤解される続けてきたことや「価値観に基づく医療」が生まれてきた背景を見ていくと、僕たちには多様な価値を偏りなく思考することは、あまり得意でないように思える。

[価値観に基づく医療の10の原則]
価値観に基づく医療に関して大まかにその概要を把握するため、10の原則を照会する。なお本節の内容は以下の論文を参考文献とした。

Br J Gen Pract. 2006 Sep;56(530):703-9. PMID: 16954004
BMC Med. 2013 Feb 15;11:40. PMID: 23414247

►価値に基づく医療と根拠に基づく医療
1.診断を含む、すべての意思決定は「2本足」、つまり事実だけでなく価値に基づいて行われる。
※価値観に基づく医療(values-based practice)の中心的なコンセプトは、すべての判断は事実と価値(観)の両方に基づくということである。EBM(Evidence-based medicine)とVBM (values-based medicine)は臨床意思決定において相互に補完的な役割を担う。これを'two-feet principle'「二本足の原理」と呼ぶ。

2.価値が多様化し、対立している状況において、あるいは、問題として取り上げられそうな時にはじめて価値に気づくような傾向がある。
※明確に意見が対立しているときに価値に気づくことは容易である。明らかな対立が無い場合においては、価値は共有されているものと思われる。価値に基づく医療では「軋む車輪の原則」と呼ばれるものがある。あらゆる人が合意を形成し、そこに批判的な意見が無い時、そのような状態はむしろ異常であり、そこには何らかの価値観の否定や支配が行われている可能性があるということに注意したい。

3.意思決定の選択の際に、科学の進展は、ヘルスケア領域における人の価値観の多様性を提供する。

▸ 価値観に基づく医療とその提供モデル
4.価値観に基づく医療において最優先される情報は、意思決定における患者、及びその関係者の考え方である。

5.価値に基づく医療において、価値に対立は正しい結論を示す規則を参照することによってではなく、異なった見解のバランスをサポートするよう設計されたプロセスにより解決される。

▸ 価値に基づく医療と臨床スキル
6.目の前のコンテキストで使用される言語に細心注意を払うことが、価値の意識を高め、価値観の違いに気づくための強力な方法の一つである。

7.経験的、哲学的方法論の多くが他者の価値への理解を深めるために利用可能である。

8. 倫理的な理由は、価値観に基づく医療において価値の違いの探究に採用されるので会って、準合法的な生命倫理のように、「何が正しいのか」を決めるために使われるのではない。

9. コミュニケーションスキルは、価値観に基づく医療において、単に(準合法的な生命倫理のように)実務的な役割を担っているのではなく、実質的な役割を担っている。

▸ 価値観に基づく医療とシェアード・ディシジョン・メイキング
10.価値観に基づく医療は倫理学者や法律家との連携を伴う(EBMにおける科学者との連携と同様)ものの、意思決定については、臨床現場の当事者へ戻すものである。


[「私の関心」に基づく医療]

「●●に基づく決定」というのは少なからず●●における関心が高まっていることを示唆する。エビデンスに基づく医療と言えば、エビデンスに対する関心が高まり、ナラティブに基づく医療と言えば、ナラティブに関心が高まる。そして価値に基づく医療と言えば、なにがしかの「価値」に関心が高まるということは少なからず否定できまい。現にEBMがこれまで受けてきた(そしてこれからも受けるであろう)誤解はそのことを如実に示している。

人は関心にとらわれている。ニーチェやハイデガーの指摘を受けるまでもなく、関心の無いものについて、思考することは困難だ。多種多様な価値観と言うのだけれども、僕たちはそのすべてを重視できるわけではない。必ず何かが見落とされる。日常的にも多数派の価値観、つまり常識的価値観が意思決定を左右することは多いだろう。

関心相関型意思決定が明らかにするのは、正しい医療とそうでない医療を、介入行為にラべリングされたイメージから判断している傾向がある、ということだ。そこにはエビデンスも重視されていなければ、時に、患者の価値観すら重視されていないという現実がある。時間に追われ、責務に追われ、気が付けば「私の関心」に基づく医療が行われていないだろうか。「何に基づくか」あるいは、そういうことはそれほど重要ではないのかもしれない。価値に価値を求めるのも、それも一つの価値観に過ぎないのかもしれないから。

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2. CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES
-注目論文の紹介です-

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[文献]GLP-1作動薬と心不全リスク(メタ分析. PMID: 27169565)

Li L, Li S, Liu J.et.al. Glucagon-like peptide-1 receptor agonists and heart failure in type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of randomized and observational studies. BMC Cardiovasc Disord. 2016 May 11;16(1):91. PMID: 27169565
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27169565

[背景]GLP-1作動薬の心不全への影響は不明確である。このシステマティックレビューは2型糖尿病患者における、GLP-1作動薬の心不全、あるいは心不全による入院への影響を検討したものである。

[方法]MEDLINE, EMBASE, the Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) ClinicalTrials.govをサーチ。成人の2型糖尿病患者を対象としたGLP-1作動薬のランダム化比較試験及び観察研究を組み入れた。2名のレビューアーが文献を抽出しGRADEアプローチによりバイアスのリスクを評価した。

[結果]25研究を組み入れた。ランダム化比較試験は21研究18270人が解析対象になり、観察研究は4研究、111029人が解析対象となった。20ランダム化比較試験(Low quality)のメタ分析ではGLP-1作動薬とコンロトールで心不全に明確な差は見られなかった。(17/7,441 対. 19/4,317; オッズ比0.62[95 % 信頼区間0.31 ~1.22];リスク差-19/1000人5年[95 % 信頼区間-34 ~11]3つのコホート研究(very low quality)ではGLP-1作動薬が心不全を増加させることは示されなかった。

一つのRCT(moderate quality)では心不全による入院についてもリスク増加は示されなかった。(lixisenatide vs placebo: 122/3,034 vs. 127/3,034; 調整ハザード比0.96, 95 % CI 0.75 to 1.23; RD 4 fewer, 95 % CI 25 fewer to 23 more per 1000 over 5 years)
またケースコントロール研究(very low quality)でも同様であった。 (GLP-1 agonists vs. other anti-hyperglycemic drugs: 1118 cases and 17,626 controls, adjusted OR 0.67, 95 % CI 0.32 to 1.42).

[結論]2型糖尿病患者においてGLP-1作動薬は心不全や心不全による入院リスクを上昇させない。

[文献]ジャガイモと高血圧(コホート研究 PMID: 27189229)

Borgi L.et.al. Potato intake and incidence of hypertension: results from three prospective US cohort studies. BMJ. 2016 May 17;353:i2351. PMID: 27189229
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27189229

[目的]焼いたジャガイモもしくはゆでたジャガイモ、フライドポテト、ポテトチップスの摂取と高血圧の関連を検討した英国の前向き縦断的コホート研究

[参加者]Nurses' Health Study,コホートより女性62175人、Nurses' Health Study II,コホートより女性88475人、Health Professionals Follow-up Studyコホートより36803人が対象となった。(いずれもベースラインで高血圧なし)

[評価項目]高血圧発症(ヘルスケアプロバイダーによる自己報告診断)

[結果]1か月に1サービング未満の摂取に比べて、週に4サービング以上では焼き・ゆでジャガイモもしくはマッシュポテトで1.11 (95% confidence interval 0.96 to 1.28; P for trend=0.05)フライドポテトで1.17 (1.07 to 1.27; P for trend=0.001)、ポテトチップスで0.97 (0.87 to 1.08; P for trend=0.98)であった。

[結論]焼き、ゆで、マッシュポテトとフライドポテトは高血圧発症リスクの独立したリスクファクターかもしれない。

[コメント]まあ味付けとかそういった問題のような気もする。個人的にはポテトチップスのほうが、影響が大きそうな印象だが。野菜で置換するとリスクが減るらしい。

[文献]通勤スタイルとBMI(横断研究PMID: 25139861)

Flint E.et.al. Associations between active commuting, body fat, and body mass index: population based, cross sectional study in the United Kingdom. BMJ. 2014 Aug 19;349:g4887. PMID: 25139861
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25139861

[目的]アクティブ通勤者(徒歩もしくは自転車を通勤の全部または一部に利用)が、肥満の客観的な生物学的マーカーにもたらす影響を評価することで、肥満予防における、通勤戦略を決定する。

[デザイン]英国世帯経時的研究(UKHLS)のwave2健康評価サブ検体データを用いた横断研究。曝露については、自己報告に基づき、自家用車通勤、公共交通機関通勤、アクティブ通勤の3つに分類した。

[参加者]解析サンプルはBMI解析に7534例、体脂肪解析に7424例。

[評価項目]BMIおよび体脂肪率(%)

[結果]男性において、BMIスコアは自家用車通勤に比べて、公共交通機関で1.10[95%信頼区間0.53~1.67]、アクティブ通勤者で0.97[95%信頼区間0.40~1.55]低かった。女性おいても同様に0.72[95%信頼区間0.06~1.37]、0.87[0.36~0.87]低かった。体脂肪率も同様の傾向であった。

[結論]男性、女性ともに、自家用車通勤に比べて、公共交通機関、アクティブ通勤でBMIや体脂肪率が低かった。この関連は交絡調整後も変わらなかった。

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3. EDITORIAL NOTE
-編集後記-

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地域医療の見え方、今週で70号です。毎週の編集なので、なかなか時間的にも厳しいのですが、はやり新たに知った概念や論文情報のプールは必要で、そこから得られる示唆は臨床の現場でもとても役に立ちます。また一方で臨床の現場から発生した疑問を整理し、それに対する考察を深める場としてもこのブログは活用しています。いずれにせよ言語化はとても大事なことです。

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