安倍晋三首相の経済財政政策・アベノミクスについて様々な論評に触れる機会が多いのですが、その外交政策については分からないところが多いです。
このたび、プラハに本拠を置く国際NPO団体「プロジェクトシンジケート」のウェブサイトに、昨年の12月27日付けで安倍晋三首相の英語論文が掲載されました。
しかし日本国内のメディアはこの論文に沈黙しています。日本の総理大臣が英語で世界に訴えた論文を、当の日本メディアが一切取り上げようとしないのもおかしな話です。
そもそも安倍総理が英語で論文を発表していたということ自体、初耳です。
これは北野氏のメルマガに掲載されていたのを見つけたものです。
中国との間で偶発的な戦闘の危機が警戒されています。
そんな時、一国の代表がどういう外交政策を近隣諸国に展開しようとしているのか、まず日本国内に明瞭に語るのが先決でしょう。
個人的にはこの安部さんの日本の置かれている状況認識、そして外交の基本戦略に賛同しています。
英語本文はこちらです。
http://www.project-syndicate.org/commentary/a-strategic-alliance-for-japan-and-india-by-shinzo-abe
日本語訳はあるブログ運営者によるものです。
以下掲載します。
「アジアの民主主義セキュリティダイアモンド」
2007年の夏、日本の首相としてインド国会のセントラルホールで演説した際、私は「二つの海の交わり」 ─1655年にムガル帝国の皇子ダーラー・シコーが著わした本の題名から引用したフレーズ─ について話し、居並ぶ議員の賛同と拍手喝采を得た。
あれから5年を経て、私は自分の発言が正しかったことをますます強く確信するようになった。
太平洋における平和、安定、航海の自由は、インド洋における平和、安定、航海の自由と切り離すことは出来ない。
発展の影響は両者をかつてなく結びつけた。
アジアにおける最も古い海洋民主国家たる日本は、両地域の共通利益を維持する上でより大きな役割を果たすべきである。
にもかかわらず、ますます、南シナ海は「北京の湖」となっていくかのように見える。
アナリストたちが、オホーツク海がソ連の内海となったと同じく南シナ海も中国の内海となるだろうと言うように。
南シナ海は、核弾頭搭載ミサイルを発射可能な中国海軍の原潜が基地とするに十分な深さがあり、間もなく中国海軍の新型空母がよく見かけられるようになるだろう。
中国の隣国を恐れさせるに十分である。
これこそ中国政府が東シナ海の尖閣諸島周辺で毎日繰り返す演習に、日本が屈してはならない理由である。
軽武装の法執行艦ばかりか、中国海軍の艦艇も日本の領海および接続水域に進入してきた。
だが、このような“穏やかな”接触に騙されるものはいない。
これらの船のプレゼンスを日常的に示すことで、中国は尖閣
周辺の海に対する領有権を既成事実化しようとしているのだ。
もし日本が屈すれば、南シナ海はさらに要塞化されるであろう。日本や韓国のような貿易国家にとって必要不可欠な航行の自由は深刻な妨害を受けるであろう。
両シナ海は国際海域であるにもかかわらず日米両国の海軍力がこの地域に入ることは難しくなる。
このような事態が生じることを懸念し、太平洋とインド洋をまたぐ航行の自由の守護者として、日印両政府が共により大きな責任を負う必要を、私はインドで述べたのあった。
私は中国の海軍力と領域拡大が2007年と同様のペースで進むであろうと予測したが、それは間違いであったことも告白しなければならない。
東シナ海および南シナ海で継続中の紛争は、国家の戦略的地平を拡大することを以て日本外交の戦略的優先課題としなければならないことを意味する。
日本は成熟した海洋民主国家であり、その親密なパートナーもこの事実を反映すべきである。
私が描く戦略は、オーストラリア、インド、日本、米国ハワイによって、インド洋地域から西太平洋に広がる海洋権益を保護するダイアモンドを形成することにある。
対抗勢力の民主党は、私が2007年に敷いた方針を継続した点で評価に値する。
つまり、彼らはオーストラリアやインドとの絆を強化する種を蒔いたのであった。
(世界貿易量の40%が通過する)マラッカ海峡の西端にアンダマン・ニコバル諸島を擁し、東アジアでも多くの人口を抱えるインドはより重点を置くに値する。
日本はインドとの定期的な二国間軍事対話に従事しており、アメリカを含めた公式な三者協議にも着手した。
製造業に必要不可欠なレアアースの供給を中国が外交
的な武器として使うことを選んで以後、インド政府は日本との間にレアアース供給の合意を結ぶ上で精通した手腕を示した。
私はアジアのセキュリティを強化するため、イギリスやフランスにもまた舞台にカムバックするよう招待したい。
海洋民主国家たる日本の世界における役割は、英仏の新たなプレゼンスとともにあることが賢明である。
英国は今でもマレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドとの五カ国防衛取極めに価値を見いだしている。
私は日本をこのグループに参加させ、毎年そのメンバーと会談し、小規模な軍事演習にも加わらせたい。
タヒチのフランス太平洋海軍は極めて少ない予算で動いているが、いずれ重要性を大いに増してくるであろう。
とはいえ、日本にとって米国との同盟再構築以上に重要なことはない。
米国のアジア太平洋地域における戦略的再編期にあっても、日本が米国を必要とするのと同じぐらいに、米国もまた日本を必要としているのである。
2011年に発生した日本の地震、津波、原子力災害後、ただちに行なわれた米軍の類例を見ないほど巨大な平時の人道支援作戦は、60年かけて成長した日米同盟が本物であることの力強い証拠である。
私は、個人的には、日本と最大の隣国たる中国の関係が多くの日本国民の幸福にとって必要不可欠だと認めている。
しかし、日中関係を向上させるなら、日本はまず太平洋の反対側に停泊しなければならない。
というのは、要するに、日本外交は民主主義、法の支配、人権尊重に根ざしていなければならないからである。
これらの普遍的な価値は戦後の日本外交を導いてきた。
2013年も、その後も、アジア太平洋地域における将来の繁栄もまた、それらの価値の上にあるべきだと私は確信している。 >
{安部さんの論文は以上ここまで}
この論文に対して北野さんという国際政治に精通しておられる方が以下の論評を書いています。
「広く広めてください」と薦められていますので、ここに掲載しました。
{以下が北野氏の論評}
▼日本の「世界観」を示す
安倍さんは、論文の中で、
「日本は民主主義国家である!」
ことを何度も何度も強調しました。
<アジアにおける最も古い【●海洋民主国家】たる日本は、両地
域の共通利益を維持する上でより大きな役割を果たすべきである。>
<このような事態が生じることを懸念し、太平洋とインド洋をまたぐ
航行の【●自由の守護者】として、日印両政府が共により大きな責
任を負う必要を、私はインドで述べたのであった。>
<日本は【●成熟した海洋民主国家】であり、その親密なパートナ
ーもこの事実を反映すべきである。>
<●海洋民主国家たる日本の世界における役割は、英仏の新た
なプレゼンスとともにあることが賢明である。>
<要するに、日本外交は【●民主主義、法の支配、人権尊重】に
根ざしていなければならないからである。
これらの【●普遍的な価値は戦後の日本外交を導いてきた】。
2013年も、その後も、アジア太平洋地域における将来の繁栄も
また、【●それらの価値の上にあるべき】だと私は確信している。 >
これはなんでしょうか?
総理ご本人がこう語ることで、中国のプロパガンダを明確に否定しているのです。
中国のプロパガンダってなんだ?
皆さんご存知ですね?
・「日本は右傾化している!」
・「日本は軍国主義化している!」
・「その証拠に、日本は韓国やロシアの領土を狙い、中国固有の領土である尖閣、沖縄を不法に支配しつづけている
・だから、世界は一つになって、(軍国主義国家)日本をこらしめなければならない
・中国は、【アメリカ】、ロシア、韓国に
【反日統一戦線】
の構築を提案する!
中国と韓国が、セッセと反日プロパガンダをしているので、世界のメ
ディアでも、
「安倍 = ナショナリスト」という類の記事が出てきている。
一方安倍さんは、日本の世界観は、
・成熟した海洋民主国家
・自由の守護者
・民主主義、法の支配、人権尊重など普遍的価値を重んじる国
であり、これからも、
・普遍的価値に基づいて行動していくと全世界に宣言したのです。
繰り返します。
中国は、「日本の世界観は、昔と変わらず『軍国主義』だ!」とプロパガンダする。
安倍さんは、「いや日本は、成熟した民主主義国です!」と反論した。
なによりも総理ご自身が宣言されたことが、大きいです。
▼中国は「世界の脅威である」ことを示す
次に、安倍さんは、「中国は日本だけの脅威ではない。
全世界の脅威なのだ!」
<ますます、南シナ海は「北京の湖」となっていくかのように見える。>
<南シナ海は、核弾頭搭載ミサイルを発射可能な中国海軍の原潜が基地とするに十分な深さがあり、間もなく中国海軍の新型空母がよく見かけられるようになるだろう。中国の隣国を恐れさせるに十分である。 >
<これこそ中国政府が東シナ海の尖閣諸島周辺で毎日繰り返す演習に、日本が屈してはならない理由である。>
<もし日本が屈すれば、南シナ海はさらに要塞化されるであろう。
日本や韓国のような貿易国家にとって必要不可欠な航行の自由は深刻な妨害を受けるであろう。
両シナ海は国際海域であるにもかかわらず日米両国の海軍力がこの地域に入ることは難しくなる。 >
<製造業に必要不可欠なレアアースの供給を中国が外交的な武器として使うことを選んで以後、インド政府は日本との間にレアアース供給の合意を結ぶ上で精通した手腕を示した。 >
これはいったいなんでしょうか?
はっきりいえば、「尖閣問題」なんて、日本人と中国人しか興味ありません。
このことは、日本も中国も知っている。
だから、中国は「日本が再び軍国主義化しているのは世界的問題だ!」とし、
二国間の領土問題を、「世界問題」「歴史問題」に転化しようと
しているのです。
一方の安倍さんもしたたかで、実例をあげながら、
「中国は、日本とは違い、非民主主義、人権無視の独裁国家であり、世界の問題なのだ!」
としている。
そして、安倍さんの主張は、まったく正当なのです。
▼そして、世界を味方につける
もし、日本が中国の主張するように、「軍国主義化している」としましょう。
そうなると、日本は、アメリカ、欧州、中国、ロシア、韓国などを敵にまわし、再び「敗戦」ということになるでしょう。
ところが、全世界が「日本は成熟した民主主義国家」
「中国は非民主主義の一党独裁国家」
と考えていればどうなります?
さっきと同じメンツの中で、アメリカ、欧州、韓国は日本の味方になります。
そう、安倍さんは
1、日本は「軍国主義国」ではなく「成熟した民主主義国である」と宣言
2、中国は、全世界の脅威である!と宣言
その上で、
3、「日本と同じ世界観、価値観を共有する皆さん、一つになって、中国の脅威にたちむかいましょう!」と呼びかけている。
安倍さんは、戦略を一文で、こう書かれています。
<私が描く戦略は、オーストラリア、インド、日本、米国ハワイによって、インド洋地域から西太平洋に広がる海洋権益を保護するダイアモンドを形成することにある。 >
ここでは、
アメリカ
オーストラリア
インド
に言及されています。
特に、アメリカ、インドについては個別に長く言及し、重要度をアピールしています。
これは、とても正しい。
日本最大のパートナーは現在アメリカ。
しかし、この国は長期衰退トレンド。
だから日本は将来、世界最大の民主主義国家インドとの連携をますます強めていく必要が出てくるでしょう。
民主主義の国 日本、アメリカ、インド、オーストラリアで独裁国家中国を封じ込める。
(そして、尖閣、沖縄を守る)
すばらしいビジョンです。
さらに、安倍さんは、イギリスとフランスが「中国包囲網」に加わるよう要請しています。
さらに、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール。
もう一度繰り返します。
安倍さんのこの論文は、
1、日本は、(中国の主張する軍国主義国ではなく)
成熟した民主主義国家である!
2、中国は、「世界の脅威」である!
3、だから、日本は、欧米印豪東南アジアと一つになり、この脅威に対抗していかなければならない!
ことを明確に示しました。
皆さんはどんな感想をもたれましたか?
私は、正直「とても誇らしい!」と思いました。
全世界に日本が大切にする「世界観」を提示し、「脅威」を明らかにし、
脅威に対抗するための「戦略」まで示した。
日本の総理大臣で、ここまで明確に進むべき道を示した人がいた
でしょうか?
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