いま、SAPの製品はものすごく増えました。
SuccessFactors
Ariba
Concur
BTP
Build
Datasphere…
人事、調達ネットワーク、経費精算、開発基盤、データ基盤。
機能は確実に広がっていますし、ビジネスの規模も大きくなっているのでしょう。
でも現場にいると、ふと疑問が浮かびます。
製品は増えたが、思想は統合されているのだろうか?
私は汎用機のCOBOLプログラマーからこの世界に入りました。
当時は、会社の中にどんなシステムがあり、
それぞれがどうつながっているのかを考えることはありませんでした。
人事は人事、会計は会計、在庫は在庫。
自分の担当プログラムが動けばそれでよかった。
森を見る必要もなければ、森の存在すら見えていなかったのです。
SAPに触れたとき、その景色が一変しました。
インターフェースプログラムがほとんど無い。
データは ONE FACT ONE PLACE。
処理はリアルタイムで完結する。
購買で発生した取引が、そのまま会計に意味を持って流れ込む。
在庫の動きが即座に財務へ反映される。
「ああ、会社とはこういう構造で動いているのか」
SAPは業務ソフトというより、
**企業活動の構造をそのまま表現した“思想”**でした。
だから当時は言えました。
SAPは何屋か?
企業の業務全体を一つの思想で統合する会社だ。
と。
いまはどうでしょう。
製品は増えました。
でもそれぞれが、別の思想、別の文化の上に立っています。
SuccessFactors はタレントマネジメントの思想。
Ariba は企業間取引ネットワークの思想。
Concur はモバイル中心の経費SaaSの思想。
BTP はクラウド開発基盤の思想。
どれも優れています。
でも、かつてのSAPのように
「企業活動を一つの構造で説明する思想」
とは少し違う世界に見えるのです。
ここで出てくるのが、最近よく聞く RPA(Robotic Process Automation) です。
RPAは「人の画面操作を自動化する技術」と説明されることが多いですが、
現場で見ていると、それは少し違う気がしています。
RPAは、統合された理想の世界で主役になる技術ではなく、
統合されていない現実の中で、業務の流れを止めないための知恵です。
APIが無い
設計思想が違う
システム同士がきれいにつながらない
そんな現実の隙間を、人間の代わりに埋める存在。
言い換えれば、**分断された世界の“つなぎ役”**です。
では、このRPAにAIの判断力を組み合わせたらどうなるのか。
単なる作業自動化ではなく、
業務の流れそのものを理解しながら動く存在 が作れないだろうか。
そう考えたときに浮かんだのが、
「仮想エンジニア」という発想でした。
この構想を、固定資産業務で考えてみました。
固定資産は派手な領域ではありません。
ですが実際には、
購買
会計
現場設備管理
税務
承認フロー
が交差する、企業活動の縮図のような業務です。
ここには SuccessFactors も Concur も直接は出てきません。
それでも固定資産業務は、十分に複雑で、十分に分断されています。
取得情報は購買にあり、
管理はExcelで、
償却はSAPで、
現物管理は別システム。
つまり問題は「製品が足りない」ことではなく、
業務が横断的なのに、システムの思想が分断されていることなのです。
ここに仮想エンジニアを置く。
固定資産担当者が
「この設備を資産計上したい」
と伝えると、
裏側でAIが
購買伝票を確認し
資産該当性を判断し
耐用年数候補を提示し
承認を回し
SAPへ登録し
仕訳まで起票する
それを一連の流れとして理解し、実行する存在です。
RPAはその一部で、
APIがないところだけを静かに埋める。
主役はあくまで、
業務の流れを理解して判断する知性の層です。
考えてみれば、昔のSAPがやっていたのも同じことでした。
システムを一つにしたのではなく、
業務の流れを一つの思想で貫いた。
いま必要なのは、
製品をさらに増やすことではなく、
分断された世界の上に、業務を理解する知性の層を一枚かぶせること
なのかもしれません。
製品は増えた。
では、思想は統合されているだろうか。
その問いに対する答えは、
新しい製品の中ではなく、
業務の流れそのものの中にある気がしています。