落ちた赤い秋を踏みしめて この手に包むiPad 刻まれた詩はみな消えてゆく 生きていることの自然 それでも、そんな言葉は要らない ただ歌えばいい、軽やかに しがみつく枝はなくなり ひらひらと落ちてゆくを受け入れ なかったことにではなく あったように消えればよい この手に包むiPad 刻まれた詩はみな消えてゆく
≡ 3 ≡ 下界の記者会見場に作業員はいた 床に置かれたカメラが一台 眠っている新聞記者がひとり ライトがあたらないところに本社の人間 作業員に質問するレポーターがひとりいた 「この度は百二十色の虹、おめでとうございます。 早速ですが、質問をさせていただきます。 百二十色の虹をつくる秘訣を教えてください」 レポーターが早口で言った 「……えぇ……、班長様の指示通りに、一生懸命に水蒸気を集めました」 緊張している作業員は唇を震わせながら言った 「一生懸命ですか。こちらでは三十年ぶりの百二十色の虹が 素晴らしいと大フィーバーしています。それをどう思いますか?」 「うれしいです。みなさんに喜んでもらえて」 「今後の作業員さんの夢はなんですか?」 「……まだ私は虹をつくり始めて一ヶ月なのでわからないことばかりです。 一生懸命に水蒸気を集めるだけです」 「そうですか。三十年前に百二十色の虹をつくられた 作業員さんのことはご存知ですか?」 「いえ、知りません」 「今の記録を更新することはお考えでしょうか?」 「いえ、私には……。記録のために虹づくりは……」 「では、作業員さんは何のために虹をつくっているのですか?」 「ひとりぼっちじゃないってことでしょうか……」 「もうすこし詳しく教えてください」 「私の作業場には班長様がいて、とても怖いですけど ふたりで作業するのが楽しいってことです」 「はぁー、そうですか。 しかし、噂によるとその班長は口しか動かないのですよね?」 「そうです」 「その班長がいてもいなくても何も変わらないのでは?」 「私も最初はそう思いましたが、そうではないのです」 「どういうことでしょうか?」 「よくわかりませんが、班長様は私のことをよくわかっていて、 班長様がいれば私はひとりぼっちではないということでしょうか」 「班長が心の支えになっている。と、いうことでしょうか。 本日は質問にお答えいただき、ありがとうございました。 今後の作業員さんのご活躍を期待してます」 「いえ、いえ、こちらこそありがとうございました」 記者会見が終わると、本社の人間が作業員に歩み寄ってきた 「んー、何とかこなしたって感じだね。 君のフレッシュさが我が社の宣伝になったようだ。 ただ、班長の話はいらなかったねえ。 今回はお疲れ様だった。もう、君と会うことはない、残念だがね。 君が帰る雲を屋上に用意しているから、それで帰りなさい」 作業員は不思議そうな顔で話を聞いていた そして、雲にのった作業員は下界の様子を見下ろした 高層ビルの明かり 連なる車からクラクション 屋形船の提灯 月の光が海にゆられ いつか見ていた夜に吸い込まれてゆく この下界には想い出がいっぱいあった それをすべて忘れていた 作業員は自分ののっている雲の水蒸気を集め 下界にすこしの雨を降らせた 続く。。。
風に吹かれ雨に打たれ 僕は此処で何を しがみつくこともなく ぷかぷかぷかぷかか 時に乗れずひとに慣れず ひらひらひらひらら それでも 誰か見てくれ僕のことを 寂しさには耐えられそうにない 僕のステップは何処かで狂って 足跡ばかり消し始めていた ひとりぼっちの僕が泣いている 自分の道が濡れている どれもこれも僕の仕業なのに
≡ 2 ≡ 作業員が雲の上に来て一ヶ月 百三色の虹がひとつ 百十色の虹がひとつ 百十八色の虹がひとつ 百二十色の虹がひとつ つくることができた 百二十色の虹は三十年ぶりのことであった 下界からは拍手が竜巻にのって舞い上がって来た 作業員はその拍手を聞いて、雲の上を走り回り大喜び 「こんなにうれしいことは初めてだ! わたしはここへ来てよかった!」 作業員は叫びながら、雲でつくられた高台に立っている班長のもとへ走った 「班長様、下界の拍手を聞きまし……?」 「…………」 「どうして班長様は、涙を流しているのですか?」 「…………」 「今、本社の人間が来ている。お前を事務所で待っているから、行け!」 班長は涙さえ拭けずにいた 「はい」 作業員は「失礼します」と言って、班長の涙を拭き事務所へ向かった 事務所に入ると、背広を着た本社の人間がいた 「君がここの作業員だね?」 「はい、そうですが……」 「えー、先週我が社で発売した百二十色の虹が、 下界では評判となり誰が水蒸気を集めたのか、問い合わせが殺到した。 だから、君には下界で記者会見に応じてもらうことになった」 「えっ、私がですか? それなら班長様が記者会見に行くべきだと……」 「なにを何を言っているんだ、君は! あいつは口しか動かない三十年後の君だろ。 もう辞めてもらうことは本社で決まっている!」 「……えっ、それはどう言うことなのでしょう?」 「んー、聞かなかったことにしてくれ。 雲の上では未来のことを話してはいけないことになっている。 そんなことより、君を下界の記者会見会場に連れて行く。 はやく、あの雲に乗りなさい!」 本社の人間は小舟のような雲を指さした 「……私は班長様で……班長様が私……、どうなっているんだ……」 「いいから、早く乗りなさい!」 「は、はい」 作業員がその雲に乗ると、夜空には一番星が輝いた 続く。。。
人生の主役が自分であるかのように日々を過ごす。痛みも苦しみも喜びも自分が体験しているのだから、このドラマの主役が他人であるわけがはない、と。しかし、人生っていうのは脚本などないのだから、いつ何処かで心境の変化が起こってしまうのだから面白い。実際、私の場合も変わりつつある。ただ、歳をとったのだろう、そんな話なのかもしれないが気づきを綴って行こうじゃないか。 死ぬほど悩み苦しんだ者には、本人でしかわからない心根がある。痛みなら耐えられず、悩みなら耐えられず、愛足らずして自愛する心が深層へ向かう。どうしようもない孤独がそうさせてしまうのだから、浮上する発想すら消える厄介。しかし、其処から抜け出そうとする。耐えられないからだ。「誰か助けて」と、自分を生かすための自然な言葉を発する。また、このドラマさえ自ら終わらせてしまおうとする「死」の扉へ。 脱出の選択肢はふたつしかないと思っていたが、最近はもうひとつあることに気づいた。苦しみからの完全なる解決策ではないが、人生というドラマの脇役で生きるという発想だ。簡単にいえば「自分をそんなに愛さなくてもいいんじゃねえ」という感覚だろうか。自分はこうでなくてはならない、自分はこんなはずじゃないとか、その執着を全て捨てることはできないが、なるべく捨てられる執着は投げてみる。「そんなことをいってもやはり自分が可愛いから無理だよ」となるかもしれないが、「たいして自分は可愛くない」と諦めてしまえればかなり楽になる。たいして可愛くない自分が、救ってくれることもある。自分への視点をズラしてみると、それもけっこう面白い人生になるのではないだろうか。捨てることは、拾うことなのかもしれない。この気づきが最近の収穫だ。 ああ、秋だからなあ。
不安を補うように生きてきた マイナスをプラスへと プラスを更にプラスして そんな世界は描けなかった 冒険とか希望とか夢とか 今まで何かチャレンジをしただろうか 闘わないことを何が悪いと 開き直ったつもりでもビクビクして ふと虚しさを覚えたのは 季節が変わるような心の変化 人間として自然な流れなのかもしれない やり遂げて散りたくなった 無性に欲している 自分でもわからない ホンモノの自分になりたくて
寂しい身体より 君は冷たく触れるよ 僕の足元に背中に 感じ癒されてゆく 君を考えることにより たんㅤ とん ㅤたん 弾みだす傘の上でダンス いつもと違う香りの中 ぽん ㅤとん ㅤたん 落ちては集まってゆく安心 最近どう? と波紋が訊く たん ㅤたん ㅤたん 落ちる景色は愉しい世界 いつもと違う夢の中 感じ癒されてゆく 君を考えることにより ひとり歩く濡れた道は 君が沁みて
あれだけ暑さにうな垂れていた夏 枯れ葉がちらほら落ちる風は ぎとぎとした精神をからからと 何処かへ飛ばしてしまう ひと夏の想い出というほど 飛び跳ね喜んだこともなかったが 過ぎてしまった寂しさを感じるのは 今年の夏も幸せだったのだろう