電車が発車する直前 非常停止ボタンが押され 車内にため息が充満し 早朝の象りを眺めいる ドアに荷物が挟まり 四分の遅れに苛ついては 妙に躓きを恐れている ふと想い出す子どもの頃 電車のドアに腕が挟まったまま 発車したことがあった 三人程のオジサン達が 私を引っ張り 助けてくれたことを あの頃は時間の感覚も 緩い感じだったから その当時のオジサン達なら 電車が四分遅れたとしても 何でもないことで 腕が挟まったままの発車に 苛ついていただろう 時代は変わり危険回避が ある程度出来るようになったが 数分にも急かされる現在 大事なことを忘れながら ため息をつき そして想い出した月曜の早朝
起き上がれない日曜日の朝 察するように猫が布団へ潜り込んで ゴロゴロと言っている 比喩した詩など書けそうもない ストレートな言葉しか 吐き出せないくらい滅入っている 昨日までの熱き日々が いとも容易く冷めていた 呼吸を感じても お前は終わっちゃいないだろう そんな私は微塵しかなくて このまま終わってしまうことも 受け入れてしまいそうだ 正しきは煩わしさなく強く 私の背を押し続けてきたけれど 今は堕落の速度に怯えながらも 覇気なきも正しきとなりつつ 猫が私に呆れ始めたようだ 振り向きもせず布団から出てゆく 今はただ耳をすませ 猫の足音を聴こうとしている
聞きたい音だったり 見たい景色だったり 感じたい匂いだったり 嫌いになった訳ではないよ ひとりになって ひとりの自分と話したくて そんな時間も必要でしょ あたりまえを忘れようと 解放された空気を吸い込むけど ふとあなたを想像する 自分の悪戯にため息をつきながら アイラブユーを遠ざけ そんな嘘のわたしも演じてみたくて わかるでしょう あなたならわかるでしょう この旅は最終確認なの わたしがあなたとでわたしでいられるの あなたがわたしとであなたでいられるの そんなことを考える旅なの きっとイエスの返事をするけれど わたしには必要な旅なのよ
車窓に雨が泳ぐスピード しわくちゃなセロハン 過去の自分と重ねる顔が写り 頚のセラミックを冷やされ 腕を摩り電車に揺られている 我慢を楽しむ余裕もなく それでも そんな言葉に無理やり励まされ 逃げる時間 ホームへ降りベンチに座る 杖をつき中年の男性 足を引きずるその一歩一歩で 地に神経を響かせながら カッタンカッタンと通り過ぎた 痛みを想像し比べてみても 進むという答えしか出てこない 今はただ腕を摩り 立ち上がれる期を待っている 雨が落ちる 私の右から斜め左に傾きながら
なんだか疲れちゃって ハワイの音楽なんか聴いて 鳥が鳴いて 波の音がして ギターがゆっくり弾いて なんだか癒やされて パインジュースがあって からだが波風にゆれて いいなって これはいいなって にこにこ顔になって 口もとがゆるくなって 光は海をグリーンにして その色は眠りに誘って わたしを永遠にして 溶かして いいのよって それでいいのよって ハワイがやさしくして おやすみして……
Dear さよならを言わなかった君 君は癌と闘っていた 誰にも知らせないでくれと 意思は強かったらしい 僕は君を親友だと思っていたから 訃報を聞いた時には 訳わからず泣き崩れて…… まだ僕の中で君が死ねない From さよならを言いたかった僕 #ディフロ詩
笑える、かなり笑える 人事課から通知が一枚 仕事を辞めて どう生きて行くんだよ それに学生の子どもがいて 貰えるかわからない年金は 十年以上先の話だ はい、五十歳になりました 当たり前のように 定期便が来るようだ 終身雇用、年功序列だろっ 長年働かないと生涯収入は 平均とならない 会社としては長年勤めた者に 辞めてもらえれば 人件費の削減ができる 退職金に少し色をつけて 促しているがそんな金は すぐに尽きてしまうのだから 死ぬまで働かないと 生きていけない時代になった 健康と働ける場所があって どうにかなる社会 退職をすすめるってなんだよ この通知を送る人事課の者にも やはりその歳になれば 退職をすすめられるのも笑える 笑ってられないだろっ って、言われてもすでに怒りの向こうに 行ってしまう通知なのさ なんだろう 三十年近く身を粉にして 会社にも尽くしてきた訳だが 組織というのは 冷たい思想の基に象る 社員の人間姑息の場に思えて 虚しくなるこの気持ちは 配慮のない会社にしがみつく 情けないがしがみつく 定期便の通知とはいえ 働き虫になることの馬鹿らしさに 笑える、かなり笑える