≡ 5 ≡ 「あなたは虹の作業員?」 どこからか作業員を呼ぶ声が聞こえた 「誰だい、こんな朝早く私を呼んでいるのは?」 作業員がパッと目を覚まし、辺りを見回すと流線型の雲にのる女性がいた 「おはよう、私はオーロラの作業員よ。今、北極から南極へ移動中なの、 そこで少し休ませてもらっていい?」 「私は虹の作業員。本社以外の訪問者は初めてです。 どうぞどうぞ、休んでいってください。 おいしい水蒸気を集めた水を飲んでいってください」 「ありがとう。お言葉に甘えて」 オーロラの作業員は自分の雲を静かに直陸させた 「初めまして、虹の作業員さん!」 オーロラの作業員は波状のカラフルなドレスをゆらし、雲から降りる姿は美しかった 「初めまして、オーロラの作業員さん!」 「そうね、作業員っていうのは省略して、虹さん、オーロラさんで呼ぶことにしない?」 「かまいませんよ」 「では虹さん、さっそくですが、お水をいただけない?」 「オーロラさんはとてもフレンドリーな方ですね。 ゆっくりしていってください。今、水蒸気を集めてきます」 そう言って作業員はバケツをもって、水蒸気を追いかける 美しい訪問者にワクワクしながら あっち行って、そっち行って、水蒸気を追いかける 三分ほどでコップ一杯の水が集まり、オーロラの作業員へ手渡した 「どうぞ、お飲みください」 「わぁー、おいしそう。水がキラキラ光っているわ。これが虹をつくる秘訣なのね」 オーロラの作業員は小さくのどを鳴らし、水を飲んだ 「どうですか?」 「こんなおいしい水を飲んだのは初めてよ。半年後に、またここへ寄らせてね」 「ぜひとも、お寄りください」 「ありがとう」 オーロラの作業員は微笑んだ 「オーロラさんに訊きたいことがあるのですが?」 「答えられるかわからないけど、言ってみて」 「オーロラさんの作業場に班長様っていますか?」 「そうね、かつてはいたけど。記者会見から帰ってきたら……」 「記者会見って、下界での?」 「そうよ。金色のオーロラをつくったときテレビ中継され、 下界で話題になって記者会見したの。だけど記者会見から帰ってきたら 班長はいなくなっていたのよ」 オーロラの作業員は悲しげに言った 「そうだったのですか。私も百二十色の虹をつくり昨日、 記者会見をして帰ってきたら班長様はいなかったのです」 「ふーんそうなの、同じね。だけど大丈夫よ、 虹さんはこんなにおいしい水をつくることができるのだから、 きっと班長も安心してどこかで笑っていることでしょう」 「ありがとう、オーロラさんはやさしいのですね。 でも、班長様の笑っている顔は見たことないですけど」 「それ、よくわかるわ。同じ、おかしいわね」 「わはははっ、はははは……」 「うふふふっ、ふふふふ……」 ふたりの笑い声は青い空に響いていた 「では、そろそろ南極へ向かわなくては。虹さん、おいしい水をありがとう。 また、会いましょうね」 「もちろんです。気をつけて南極へ行ってください。お元気で、オーロラさん」 「虹さんも」 オーロラの作業員はそう言って流線型の雲にのり、旅立った 虹の作業員はいつまでも大きく手を振っていた 続く。。。