見えないから見ようとしない 見えているものはすでに見えていない 君にそっと触れて通り過ぎてゆく 感じているけど見ようとしていない そこに理由(わけ)などないように 僕には声がないから 君が気付いてくれるのを待っている 伝えたいことがあるんだ だから僕は何度でも何度でも 君にそっと触れては通り過ぎてゆく 僕を感じてくれる優しい君だから 信じているよ 見えないから見ようとして 見えているものに感謝を忘れず 僕を見て 手を差し伸べる君を待っている
才能なんて要らない 表現をすることに 才能とか努力とか自分がどうだとか そんな詰まらない考えはいらない 強いて言えば必要なものはラヴだね ああ、臭いこと言っているけど そうなんじゃない 好きを越えて 自由になれなきゃダメだと思うんだ 時に変人のように思われても 描き続けるぐらいの 図々しさがないと不完全で終わるんだ だけど、自分から変人気取りして 私は芸術家だ、なんて言うのは最低だ たまにいるんだよな、勘違いなひと すべては集中に化学変化のできる ラヴをもっているか、ということ さり気ない労わりの気持ちをもち 表現の向こうの微笑みを想像できる そんなラヴを育まなくちゃね
みなさんはご存知でしょうか 12月25日はクリスマスですが アシスタント・サンタの調査日でもあります サンタクロースが訪れたあと 来年のクリスマスをもっと盛り上げるために どこにでもいる普段着のおじさん おばさんたちが メモ帳と鉛筆を持って朝方から情報収集 あなたの街へ調査に来ています さてさて 何を調査するのでしょう ちゃんたちゃんㅤちゃんたちゃんㅤきたよ うれちぃㅤうれちぃㅤちゃんたちゃんすきよ 3歳ㅤ女の子 とてもプレゼントに喜んでいます はいㅤメモメモ やっほーㅤへんしんㅤとうっー ぼくㅤめちゃつよいぞ 5歳ㅤ男の子 サンタクロースㅤナイスです 去年の業務報告を活かしましたね はいㅤメモメモ ああㅤこれ あの店で2980円で売っていたやつだ 友だちとこれであそぼっと 10歳ㅤ男の子 クリスマスプレゼントの値段がバレてしまったようです これは盛り上がりに欠けてしまう はいㅤメモメモ うわーㅤ欲しかったのㅤこれ ピンクのがもっと欲しかったけど でも嬉しい 11歳ㅤ女の子 惜しいです サンタクロースへㅤ色が違ったね はいㅤメモメモ 今年はセーターかよ なんだよイニシャルのKとか入っているし 母ちゃんㅤとりあえずㅤあいがとうな 15歳ㅤ男の子 どうやらサンタクロースを母親と勘違いしています 手縫いというのは手応えありました はいㅤメモメモ うわっーㅤ素敵 このペンダントㅤ一生大事にするは サンタさんにお礼の手紙書かなくちゃ 17歳ㅤ女の子 ハートのペンダントをありがとう 手紙を両親へ渡しています この子もサンタクロースを勘違いしてますね はいㅤメモメモ 報告書 今年の傾向としては サンタクロースの業務が多忙のため 時間が取れずに手づくりから 既製品のプレゼントが多い傾向が見られ その点は盛り上がりに欠ける要因と考察する プレゼントされる年齢が上がるに従って サンタクロースを親と勘違いしている傾向は 例年通り大きな課題のひとつである しかしながら プレゼントを貰った子どもたちは 最高の笑顔で喜び 感謝の気持ちもつことは今年も変わらず 準備段階からお届けまで サンタクロースの努力は評価されるものである お分りになりましたか これがアシスタント・サンタの業務です クリスマスを盛り上げるために地味ながら 子どもたちのために頑張っていますよ ではでは アシスタント・サンタのお話はこのへんで メリーㅤクリスマス! パパッンㅤパッンㅤパーンッ
五風先生 天国でも柔らかな茶道の袱紗捌(ふくささば)きで 茶器を清めているのでしょうか 私が今まで盗めなかった技はその袱紗捌きだけです 正座で足の甲にある豆を潰し 袱紗を何度も何度も折りましたが 到達できないと知り諦めた悔しさは今でも忘れません 五風先生の御点前に憧れた二十代 私は詩を書くことも忘れ茶道のことばかりで頭がいっぱいでした いつの間にか私も平点前(ひらてまえ)を教えるようになり そよ風先生 なんて呼ばれては照れながらも幸せな時間でした 五風先生は御宗家にご意見を言える唯一の内弟子 陰に陽に御宗家を支えてきた器は柔らかく 大舞台を成功させてきた茶人 茶器を愛しㅤ茶道を愛していたのですね 五風先生はいつもおおらかでしたが 一度だけ難しい顔を見せたことがありました 御宗家が 齋藤さんㅤ家(うち)に来ませんか とㅤおっしゃった時に 齋藤さんはきちんとしたところで働いているのですから とㅤ五風先生はおっしゃって私と茶道との距離を置かせましたね その真意は今でもわかりませんが 私の茶道への思いは五風先生からすると そよ風程度ということを見抜いていたのでしょう たぶんあなたが目指す道はそこではないですよ そう言いたかったのかもしれません 私は結婚して子どもができ 共働きで育児に追われると茶道からは遠ざかり 少ない時間で前のように詩を書いては自分を表現し 充実と喜びを得るという今があります 詩の世界で精進してゆくことで五風先生に近づける と 五風先生からすれば私はいつまでもそよ風かもしれませんが 心地よい風を吹かせたいものです いつの日かまた御茶も点てます 私は病気などをしましたから正座も上手くできませんが 天国の五風先生に私なりの袱紗捌きで茶を点てたいと思っています お召しになられますよね しばらく先の話となってしまいますがお待ちください 若き日に御指導を頂いた茶道は忘れません 五風先生ㅤ心より有難うございました では好き勝手に語ってしまいましたがこの辺で失礼致します 平点前(ひらてまえ)…基本的な点前
赤ん坊は泣くのが仕事 蛇口から水が一滴 落ちてしまえば うぎゃ うぎゃ 眠いはずなのに とても感度のよいセンサー まだまだ遊びたいと働くのか 赤ん坊を布団へ静かにおろし 抜き足差し足忍び足 頼む 寝てくれ そう願いながら離れて行くわたし すべて思い通りにいかない子守り 親の成長を見ている赤ん坊 赤ん坊も十人十色 兄は敏感でも 弟のほうは鈍感というか動じない 食べるとすぐ寝る そして なかなか起きない 食う寝る遊ぶ そんな言葉があったけど 食う寝るㅤ食う寝るㅤクーねる おーい 起きないのか 遊んでくれよお父さんと ん〜ㅤ起きない でもㅤ寝顔を見ていると天使のよう なんて手のかからない子なんだ しばらく親を油断させていた子守 だけど歩き出すようになると 虎のように吠え出して 今朝のバス ぽよぽよと可愛い赤ん坊を抱っこして 若いお父さん 出勤前の保育園への送りなのか 懐かしさが入りまじり 赤ん坊に思わず微笑み返し 子育て 大変だけど 社会を成長させてくれる子どもは いつの時代も宝もの 頑張れ 子育てㅤ父ちゃん!ㅤ母ちゃん!
ヘッドホンから流れる歌 どこまでも風景がイメージされ 僕はその世界にいて元気をもらっている 今日も頑張ろう、って 揺れる電車 空に現れる朝日 連なるビルディング つり革をぎゅっと握り 繋がる毎日を僕も詩で綴る 曲をつけずに委ねるリズム 言葉の武器だけではか弱くて でも、詩はそれがいいんだ 勝負するもんじゃないと思うけど 何だか曲に負けていられない 今日も誰かに元気をもらい 僕も読み手への元気を想像をして 詩を綴りながら微笑んでいる 幸せっていうんだよね これ、って
産声に魂をのせて 初めて死ぬひとの一員になる 未来に終わる約束 それでも孤独を背負いながら 心淵の旅を続ける 種の保存に感情が与えられ 悲しみに涙 怒りに食いしばり 不安にカラダを震わせて 時に何のためにと 手繰り寄せる温もりに優しさを求め 神様は青く語る ひとは白く浮かびながら訊く どうして私たちは こんなに苦しいのですか 上手に生きるには どうすればよいのでしょう 心は激しく動揺 白は青の道徳に救われて生きて行く 誕生の意味は最初から無かった 死滅の意味は最初から無かった 有ったのは迷い込んだ世界で白になる心象 ひとは白い真実にどこまでも手を広げ 透けて青になるように
ファミリーレストラン 飲み放題のコーヒーで粘る 隣のテーブルには ギャングを引き連れた賑やかな家族 私は懐かしく受け入れ 相変わらず詩を書こうとしている しかし一向に文字は 列車のように連なって走らない 暴れ騒ぐ兄弟 叱りつける父親 なだめる母親 お子様ランチと定食が運ばれる 子どものハンバーグを細かく切る母親 いただきますも言わず唐揚げを頬張る父親 静かだ、とても静かだ 食べている家族は静かだ 食べることは生きること 生きることに夢中になっている お腹が満たされてくると お兄ちゃんが口の中を指差し こっちはうごくけど こっちはうごかないの 咀嚼する時の上顎が 動かないことをどうしてと訊いている 確かにそうだな 父親はぼそぼそと呟く あらっ、ほんとうね 母親は子どもの感性に微笑む 家族はともに時間がながれている 一緒に暮らしていても 私のように離れて生きていても ああ、家族の詩を書こう
死ねない彼女が 余命三ヶ月の俺に言う あんたは死ねていいじゃないかと 俺の悔しさの向こうにある 青く尖った夜空 彼女の苦しさの向こうにある 赤く鈍い朝焼け 今、生きている互いの歩幅 途轍もないものに潰されながら ふたりはビニール傘の下 引き寄せる運命 歪な恋のキスは特別でもなく 俺の突起した恐怖と 彼女の窪んだ怒りが合わさるだけ 理由なんてないのさ 頬を叩いても罵声をあげても 俺たちは生きていて どうして生きているのか その答えはいつもわからなくて 俺は最期に言うだろう なんか生きているよ、って 彼女を感じて微笑むよ 彼女は目を閉じた俺に言うだろう 勝手に死ぬんじゃないよ、って そして、涙を流すだろう 俺はそんな彼女が好きなんだ なんか生きているよ、今 ああ、まだ生きている
図書館にてある月刊詩誌を読む 詩人と名乗る人物があーだの、こーだの 詩について批評をしている なんとか論まで出てきてしまい 正直さ かっこ悪いんじゃないか マジでさ、詩だけ書いてろっ、て 作品ありきだろ 詩っ、て 読者の想像をなくしてしまう話は 止めてくんないかな まあ、ようは詰まらない批評で そんなところで熱くなるんだったら 作品で表現してほしいねっ、てこと ああ、エネルギーがもったいない じゃあ、お前、読まなきゃいいだろ そうなるだろ でも、ほろっとくる批評もあるからさ 許して欲しいよ、そういうのは読みたいから 監督兼選手をやるには センスとサラリ感がないと駄目だね 自信なかったら止めることだよ まあ、それでも勘違い野郎は沢山いるからね まず、自分が詩人だと勘違いしている 詩集を出版して批評して 詩について語れば詩人なんて そんなもんか詩人っ、て 死ぬまでわからないだろ 自分が詩人かどうかなんて とりあえず詩を書いてりゃいいのさ まあ、誰しも詩人ともいえるんだけどな その感覚、わかるだろっ いちいち説明はしないよ、野暮になっちまうからさ さあ、どんどん詩を書いてくださいな、頼みまっせ