はやぶさ2(JAXAデジタルアーカイブより借用)
下に長く伸びているのがサンプル採取用サンプラーホーン
2014年12月3日に小惑星探査機『はやぶさ2』が打上げられてから既に1年以上経つ。2015年12月3日には地球に最接近した機会をとらえ、地球の重力を利用したスウィングバイにより軌道を約80度変更、スピードも秒速1.6km上げて目標値の31.9kmとし、いよいよ目的地である小惑星『リュウグウ』を目指す軌道に入った。はやぶさ2のミッションはリュウグウからサンプルを地球に持ち帰ることであり、そのサンプルを分析することによって地球の生い立ちをより詳しく知ることが出来る。
2010年6月13日に苦難の末地球に帰還した初代はやぶさは小惑星探査実験機であり、はやぶさ2が実用機として計画されたものの、JAXAは太陽系探査より情報収集衛星や国際宇宙ステーションの実験棟きぼうを優先することではやぶさ計画は頓挫しかけたが、実験機のドラマチックな帰還により2011年にはやぶさ2の予算が承認され、計画が再スタートすることとなった。はやぶさ2は太陽光パネルを除いた大きさが幅1m、長さ1.6m、高さ1.25mで燃料込みの重量が600kgと初代はやぶさより重量が90kg増加した以外は大きさは大差ないが、初代はやぶさでのトラブルに鑑み信頼性を格段に向上させた。
そのひとつが機体の姿勢制御装置であるリアクションホイールの追加で、初代はやぶさでは3個取付けられていたがそのうちの2個が故障して危機に陥ったため、はやぶさ2では4個取付け、またリュウグウに到着するまでは1個だけを運用し、他の3個はリュウグウ近くでの詳細な姿勢制御が必要になるまで温存する予定である。
初代はやぶさに搭載された推進エンジンはイオンエンジンと呼ばれる電気推進エンジンで、キセノンガスをキセノンイオンと電子に分解し、キセノンイオンを強力な磁場で加速して高速で噴射することによって推進力を得るが、燃料と酸化剤を使用する化学推進エンジンと比較すると推進力は小さいが燃費が約10分の1であり、長時間の加速を行うことが出来る。イオンエンジンはマイクロ波放電加熱によるイオン生成部、生成したイオンを静電的に加速して推力を得る炭素繊維複合材グリッド加速部、それに放出されたイオンビームを電気的に中和する中和器からなるが、初代はやぶさの4基のイオンエンジンのうちの1基はキセノン分解用点火器が不調となり、また、帰還途中に宇宙で迷子になりかけたことが原因で設計寿命を大幅に越えたために他の3基も中和器が機能しなくなり、一時は帰還が絶望視された。しかし4基のイオンエンジンのうち、ひとつは中和器のプラスの出口、またもうひとつはマイナスの出口がまだ機能しており、これら2基のイオンエンジンの中和器を同期して噴射すれば推進力が得られることが判明し、このような変則的な運行で初代はやぶさはなんとか地球に帰還することが出来た。
はやぶさ2に搭載されるイオンエンジンは基本的には初代はやぶさと同じ設計であるが、イオン生成部の推力発生効率とマイクロ波放電加熱の確実性を向上させるために入念な調整が実施され、また中和器の長寿命化を目的として放電室内壁の保護および電子放出の必要電圧低減のために磁場が強化され、信頼性の向上が図られている。またキセノンガス噴射口配置やグリッド加速部の設計変更により、1基あたりの推力が8ミリニュートンから10ミリニュートンに25%増強されている。
はやぶさ2には初代はやぶさと同様に姿勢制御や軌道の微調整を行うヒドラジンと酸化剤を用いる化学推進システムを12基搭載しているが、初代はやぶさでは小惑星いとかわへの着陸の際に燃料漏れと配管凍結が起こって使用出来なくなった。この対策としてはやぶさ2では燃料漏れの原因となる溶接箇所を最少化するとともに溶接法も改善した。金星探査衛星あかつきは2011年に化学推進システム破損により金星周回軌道投入に失敗したものの、2015年12月に姿勢制御用エンジンにより金星周回軌道に乗せることが出来て話題となったが、あかつきでの経験により燃料と酸化剤の高圧ガス系統を完全に分離し、はやぶさ2ではあかつきのような問題を回避するよう改善された。更に高圧ガス系統バルブの異物閉塞を防止するために高圧ガスの清浄度管理を向上させてある。
はやぶさ2は2018年6月頃に約900mの大きさと推定されている小惑星リュウグウに到着する予定で、まず上空20km付近からリュウグウの観測を開始する。観測データをもとにはやぶさ2の着地点を選定し、本体下側に取付けられたサンプラーホーンと呼ばれるサンプル採取装置を使ってリュウグウ表面に着地した際に石や砂を採取する。一旦上空に戻ってから衝突装置を分離し、リュウグウに衝突・爆破させて小さなクレーターを作るが、その間本体は飛散物との衝突を避けるために上空に退避する。観測の結果安全が確認されたらはやぶさ2はクレーターに着地し、サンプラーホーンによりリュウグウの地下の石や砂を採取する。これら一連の作業は2019年11月頃まで実施される。リュウグウの地下の石や砂は太陽風に晒されていないため、小惑星誕生当時の状態を保っていると考えられるが、これらのサンプルを分析することにより、地球の水はどこから来たのか、生命はどのように生まれたのか、など地球の起源を知る手がかりとなる。
リュウグウを出発してから約1年後の2020年11月頃、はやぶさ2は地球に帰還し、リュウグウのサンプルを搭載したカプセルを切り離す。はやぶさ2は初代はやぶさとは異なり大気圏には突入せず、カプセル分離後、地球スウィングバイを行うことになっている。その後のはやぶさ2の運命は未定だ。切り離されたカプセルは大気圏に突入し、上空約10kmの高度でパラシュートを開いてオーストラリアの砂漠に着地する予定だ。
はやぶさ2は約4ヶ月前に地球のそばを通過したが、現在は地球から離れて目的地である地球近傍小惑星リュウグウを追いかけて太陽の周りを回っている。28ヶ月もある宇宙ひとりぼっちの長旅だが、JAXAで大勢の人たちが見守っているので寂しくはないはずだ。みんなではやぶさ2の成功を祈ろう。
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投稿日 2016-04-24 17:30
ワオ!と言っているユーザー
投稿日 2016-04-25 07:22
ワオ!と言っているユーザー