ついに松陰は野山獄での囚人生活を送ることになる。
同僚の金子が死に瀕していること以外、この若者を気落ちさせるものはなかった。
天性の楽天家か?
人の善性を疑わなかった分だけ、
他人の懐に飛び込んでは幽閉生活を快活なものに創り上げてしまう。
そんな稀に見る気質は母親譲りかも知れない。
ドラマでも、事あるごとに「世話ない」と決まり文句を放つ彼女の屈託なさが目立つ。
松陰の身を案じてオロオロする家族の中にあって
母親だけは笑顔を崩さず悲観しないのは、
痴呆かと思える程である。
司馬遼太郎は天真爛漫な松陰をこんな風に描いている。
「この若者のほとんど生まれつきといえる奇妙さは、事態が悪化し、豪雨の前の空のように陰々として暗くなればなるほど、その密雲の上の固有の蒼天をおもうらしい。
むろんたれの目にも見えないが、松陰の目には網膜が青く染まるほどのあざやかさでおもうようであった。」
〜「世に棲む日日」の「空の青」から〜
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