おばけみる貝(グイダック)
7月
3日
ひとつは大きなタコ(Giant Octopus)で足1本の長さが2メートルに達する。シアトルの水族館でこのタコを見ると、昔子供たちと一緒に見た『海底二万里』の映画を思い出す。
二つ目はナメクジでバナナスラッグと呼ばれ、大きいものは25センチにも達するそうだが、これまでに自分が見たことのある最も大きいナメクジは15センチ位だ。ナメクジは庭に植えた花を食べてしまうので、洋子さんはナメクジよけの薬を草花の周りに撒いている。近くの公園で10センチ位のナメクジが集団で遊歩道を横切っているところに出会うと、少し腰が引ける。
三つ目の大きないきものはおばけみる貝で地元ではグイダック(Geoduck)と呼び、魚屋で売っているグイダックは、貝殻から外に伸びた水管の長さが30センチ位はざらだ。水管は太いものでは直径が5センチ位あって色もテクスチャーも見るからにグロテスクだが、子どもたちが小さかった頃、魚売り場で恐る恐る指で突付いていたことが懐かしく思い出される。
シアトルに移住した1970年代頃は、グイダックは安くて美味しい食材で、さしみ、すし、バター焼などにしてよく食べたものだ。ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、ロスアンジェルスなどどこに行ってもすし屋で使っているみる貝はシアトルから来たグイダックで、ちょっぴり旅の寂しさを癒してくれた。グイダックは甘みがあって貝の風味も良く、またコリコリした歯ざわりが最高でシアトルのデリカシーのひとつだ。
その頃シアトルの本屋ではグイダックの唄のぬり絵を売っており、まだ小さかった子どもたちのために買ってあげた。メロディは忘れたが歌詞の一部はいまだに覚えている。
グーイダック グイダック 一匹1ドル大もうけ
グーイダック グイダック ドナルドダックは関係ない
グーイダック グイダック いでたちばかりがすごいのは新米またはおたんちん
最後の節はグイダック狩りの人々のことを唄っている。誰が作詞したか知らないがおもしろい唄だ。このぬり絵は今でもシアトルの紀伊国屋に行けば買えるのだろうか。
潮干狩りならぬグイダック狩りはマウントレニアに登ることと並んで、ワシントン州に住む子どもたちの通過儀礼みたいなものだ。水が引いた砂浜で水管の先端と思しきところをシャベルで50-60センチ掘って貝を取出すのだが、潮が引いたばかりの砂はスープ上のため穴を掘っても周辺が崩れて深い穴がうまく掘れない。そのためプラスチックや金属製の太いパイプをグイダックのいる周辺に埋め込み、その中の砂をかき出して穴を掘るのだが、実際には濡れた砂浜に腹ばいになって穴に手を突っ込むなど泥まみれの仕事だ。
当時でも唄のように一匹1ドルでは買えなかったが、1990年頃からグイダックが香港や中国にたくさん輸出されるようになって価格は高騰し、今ではやはりシアトルのデリカシーであるダンジネスクラブ(かに)よりも高級食材になってしまい、すし屋で気軽に食べられるネタではなくなった。