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くまごろうのサイエンス教室『人工光合成その2』

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冬の寒い朝に一所懸命光合成をお... 冬の寒い朝に一所懸命光合成をおこなっているクロッカス
2013年11月にくまごろうは人工光合成についてブログに掲載したが、その後この技術はどのくらい進歩したのだろうか。光合成は植物が光エネルギーを化学エネルギーに変換する光化学反応(明反応)と、化学エネルギーにより水素と二酸化炭素から糖を合成する一連の反応であるカルビン回路(暗反応)からなるが、前者は水を光のエネルギーで水素と酸素に分解する工程である。

明反応に関して新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2020年5月に、同機構と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)が信州大学、山口大学、東京大学、産業技術総合研究所と共同で紫外線領域において世界で初めて100%に近い量子収率で水を水素と酸素に分解する粉末状の半導体光触媒を開発した、と発表した。量子収率とは照射した光エネルギーの明反応での利用効率である。明反応においては分解された水素と酸素が反応して水に戻る逆反応が起こりやすいため、これまで多くの場合量子収率が10%以下で、50%を超える例はわずかである。この研究では数種類の粒子状高活性光触媒が比較検討され、チタン酸ストロンチウム系光触媒がもっとも高い量子収率を示した。今回発表された研究ではチタン酸ストロンチウム系光触媒の粒子形状を制御し、異なる場所に助触媒を析出・担持させることにより分解した水素と酸素が触媒の異なる表面で発生し、これらが水に戻る逆反応をほぼ抑えこめるようにしたことが大きな成果である。

明反応の実用化のためには、量子収率の向上とともに光触媒の水分解反応に対する光の波長範囲が重要である。前述の研究では波長が350~360ナノ(10-9)メートルの紫外線領域では高い量子収率を達成出来たが、この領域は太陽エネルギーのごく一部にすぎず、今回発表された光触媒の太陽エネルギー変換効率はせいぜい1%程度である。なお植物による明反応では平均的に0.2%程度でそれに較べれば現状でも高い効率と言える。もしも500ナノメートルまでの光をすべて明反応に利用出来た場合には太陽エネルギー変換効率は8%、600ナノメートルまでの場合では16%程度となる。因みに可視光線の波長は約400~800ナノメートルである。前述の研究グループは今後、より波長の高い光を利用出来る光触媒で粒子形状制御技術を応用して太陽エネルギーの変換効率10%を目指す計画で、このレベルの技術が完成すれば明反応による水素が二酸化炭素の発生を伴う化石燃料由来の水素に経済的に太刀打ち出来ると言われている。

これまでにも水素を発生するp型触媒と酸素を発生するn型触媒を異なる薄膜に成形し積層したタンデム構造の光触媒では、2016年に変換効率3%、2019年には7%を達成しているが、積層構造は複雑なため商業化に必要な大面積シートはコストに難があったが、今回の研究で使用された粒子状光触媒は1個の粒子にp型とn型が存在するため大型化が容易という利点があり、NEDOは2022年までに粒子状光触媒での変換効率10%を目指している。

太陽光による水素製造には人工光合成とは別に太陽光発電パネルと水電解設備の組合せという方法もある。現在広く使用されているシリコン製発電パネルの太陽エネルギー変換効率は14~20%が一般的であり、またシリコン系太陽電池では理論上29%が変換効率の限界と言われている。またより複雑で高価な化合物3接合太陽電池パネルでは3層のバンドギャップが異なる半導体を多層化することでより長波長の光も利用してエネルギー変換効率を36.8%まで高めることに成功し人工衛星のエネルギー源として使用されている。しかし太陽光発電設備と水電解設備の組合せによる水素製造では設備投資額が大きくなるため、太陽エネルギー変換効率が低くても人工光合成の方が低価格で水素製造を実現出来ると考えられている。

2013年のブログではトヨタグループの人工光合成研究でエネルギー変換効率が0.14%、パナソニックでは0.2%を達成したことを紹介したが、今回のNEDOの結果を見ると人工光合成研究は着実に進歩している。NEDOを中心とした人工光合成開発の更なる進展を期待する。
#科学

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