くまごろうのサイエンス教室『メタンガスによる地球温暖化』
7月
8日
上の図は国連の下部組織である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2014年に発表した温室効果ガス別の影響を示したもので、65%を占めるのは化石燃料や工業によって発生する二酸化炭素、11%は森林火災や伐採などによる二酸化炭素、16%はメタンガスによることを示している。この図では二酸化炭素以外のガスは、地球温暖化係数と呼ばれる二酸化炭素1トンに相当するトン数に換算して示されているが、IPCC Second Assessment Report (AR)(1995年)で示された100年間の地球温暖化係数を使用している。メタンに関するこの値は21で、メタン1トンは二酸化炭素21トンに相当することを意味している。
くまごろうは環境問題の専門家ではないため、IPCCが何故2014年の温室効果ガス別の寄与データに地球温暖化係数として最新のIPCC AR5(2014年)のデータを使用しなかったのか理解出来ないが、AR5では20年間のメタンの温暖化係数は84であり、この数値を使用すると化石燃料由来の二酸化炭素による温暖化の影響は44.2%、森林火災など由来の二酸化炭素の影響は7.5%であるのに対し、メタンによる影響は42.8%となり、化石燃料由来の二酸化炭素とほぼ同等の影響があることになる。二酸化炭素削減を各国政府に強く求めるため、意図的にメタンの影響を過少に示したのではないか、と素直でないくまごろうは勘ぐってしまう。
南極やグリーンランドなどの氷床に深い穴を開けて取り出した氷のサンプルを調べることにより、産業革命以前の1750年頃の大気中のメタン濃度は700 ppb (10億分の1)程度で安定していたことがわかっている。メタンは火山などの地質的原因や湿地帯での微生物の活動、家畜 農業 ゴミの埋め立てなどで発生するが、大気中のオキシダントや対流圏での光化学反応により消費されるため、大気中での平均寿命は約12年とされており、そのため産業革命以前は自然発生と人為的発生によるメタンが自然消滅とバランスしていた。産業革命後は化石燃料の採掘、輸送、利用などにより、また人口増加に伴う農業や牧畜が拡大したことにより人為的メタン発生量が増加し、現在の大気中のメタン濃度は約1800 ppbとなっている。
近年アメリカでは、従来の方法では採掘出来なかった地層にあるシェールガスやシェールオイルの採掘が盛んに行われているが、この時に使用される水圧破砕法(フラッキングとも呼ばれている)がメタンの発生源となっていることも指摘されており、また石油製品の輸送や精製の過程でのメタンの漏洩もかなりの量になっているとの指摘もある。2017年のアメリカ環境庁のデータではこれらのメタン漏洩の54%が天然ガス採掘、18%が石油精製、16%が輸送と貯蔵によるもの、となっている。2019年にトランプ大統領はオバマ政権によって規制されていたメタン排出規制を大幅に緩和すると発表したが、もともと地球温暖化はFake Newとしていたトランプ大統領にとって、メタンの影響など眼中にないのだろう。
アメリカではシェールガスの採掘により天然ガス(主成分はメタンガス)が安価になり、また石炭燃焼より二酸化炭素排出量が半減する理由により多くの石炭火力発電所を天然ガスに切替えており、現在火力発電所の40%は天然ガスだと言われている。一見温暖化対策としては好ましいように思えるが、天然ガスの採掘、輸送、貯蔵での漏洩が1%を超えると温暖化の観点からは石炭と変らないことになる。アメリカでの漏洩の現状は2%というデータもあり、石炭から天然ガスへの切換えは環境上はプラスにならないどころか、石炭火力の方がまし、という見方もある。
2014年のIPCC AR5のデータによれば自然的および人為的メタン漏出量は発生源で見ると平均的に下記の如くである。
自然的漏出
湿地帯 23,050万トン
湖沼など 4,050万トン
火山など 5,400万トン
小計 32,500万トン
人為的漏出
化石燃料 9,500万トン
牧畜 9,050万トン
農業 3,650万トン
埋立・廃棄物 7,850万トン
小計 30,050万トン
メタンハイドレートは近海の深海から採掘することにより日本の将来の重要なエネルギー源と考えられているが、近年温暖化による北極圏の氷山の融解に伴ってその下に眠っていたメタンハイドレートがメタンガスとして大気中に放出され、その量は激増しているという報告もある。温暖化防止のために二酸化炭素の排出規制にばかり目を奪われてはならず、メタン漏出対策も推進しなければ片手落ちではないか。
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投稿日 2020-07-12 17:03
ワオ!と言っているユーザー
投稿日 2020-07-15 03:42
ワオ!と言っているユーザー