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くまごろうのサイエンス教室『EV-電気自動車』

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2017年ニッサンリーフS E... 2017年ニッサンリーフS EV(ニッサンウェブサイトより借用) 2017年テスラモデル3 EV... 2017年テスラモデル3 EV(Wikimedia Commonsより借用) 2017年トヨタプリウス PH... 2017年トヨタプリウス PHV(トヨタウェブサイトより借用) トヨタミライ FCV(トヨタウ... トヨタミライ FCV(トヨタウェブサイトより借用)
中国政府は今年、2019年に国内で販売する販売台数の10%以上を新エネルギー車とすることを自動車メーカーに義務付けることとした。新エネルギー車にはバッテリー式電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)などを含むが、充電出来ないハイブリッド車(HV)やバイオエタノール・天然ガスなどを燃料とする低CO2車は含まれないという。

イギリスやフランスも2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を全面的に禁止する意向であり、オランダやノルウェーは2025年以降のガソリン車やディーゼル車の販売禁止を検討し、ドイツでも国会で2030年までにガソリン車などの販売を禁止する決議が採択された。更に今年、インドでも2030年までに販売する車をすべてEVとする目標を表明した。これに対し日本政府は2030年までに新車販売の20~30%をEV・PHV、30~40%をHV、3%をFCVとする目標を掲げている。

このようなEVへの転換は大気汚染や二酸化炭素の削減をうたい文句にしているが、いくらがんばっても欧米や日本にガソリンエンジン技術が追いつかないからEVで自動車の世界基準を奪いたい中国や、ディーゼルエンジン排気ガス不正問題でディーゼルエンジン市場に見切りをつけたドイツなど、政治的・戦略的な意図も見え隠れする。今騒がれているEVだが、本当に将来の自動車の本流としてやってゆけるのだろうか。技術的に検討してみよう。

EVではガソリン車やディーゼル車に必要なシリンダーブロック、シリンダーヘッド、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、吸排気バルブ、点火プラグなど部品点数が数千点に及ぶエンジンが不要である。またラジエター、オイルフィルター、複雑な変速機、排気ガス浄化装置・マフラーなどの装備もいらない。逆にEVで必要な部品は電池、モーター、電池に蓄電された直流電力を目的とする周波数の交流に変換しモーターの回転数を制御するインバーター、制御用CPUなどであり、部品点数は大幅に削減される。

EVのモーターとしては高性能なネオジム磁石をモーター回転子に埋め込んだ交流永久磁石型同期モーターが一般的だが、小型で高出力、低速域での短時間に最大トルクを発生させる性能、高速域での最大出力で広範囲な可変速運転性能、無負荷または軽負荷時の低損失性能に優れているためである。このタイプのモーターはHVであるトヨタプリウスでも採用されているが、1997年のモデルでは4枚のネオジム磁石を回転子に埋め込んだモーターであったが、最新モデルでは16枚埋め込まれており、燃費や出力は格段に向上している。テスラは発売当初高性能スポーツカーとして売り出したので、高回転領域での性能の優れた交流永久磁石型誘導モーターを採用している。モーターは自動車メーカーのコンセプトによりモーター1台で動力と発電機を兼用するモデル、モーターを2台設置して動力と発電を分離するモデルなどがある。将来は小型のモーターをそれぞれのホイール内に設置して各車輪が独立駆動するモデルも提案されている。

モーターの制御に必要なのがインバーターである。これは電池からの直流電流を交流に変換し、かつ周波数や電流を制御することにより動力である交流モーターの回転数を制御するものである。また減速時にモーターで発電した交流電流を直流電流に変換して電池に充電する機能もになう。インバーターの性能がEV、PHV、HV、FCVの燃費や熱効率を左右するため、自動車メーカーは高性能インバーターの開発に努力している。

EVで大きなコスト要因となるのが電池だ。リチウムイオン電池が主流だが、新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)によれば2015年の電池容量1KWHあたりのコストが約40,000円であり、当時のニッサンリーフは24KWHの電池を搭載していたので電池だけで96万円もかかっていたことになる。空気抵抗、車両重量などのデザインによるがEVの1KWHあたりの走行距離は5~7Kmであり、自動車として通常必要な一回の走行距離である200Km走行を可能にするためには28~40KWHの電池を搭載する必要がある。2018年型ニッサンリーフSは40KWHの電池を搭載して241Kmの走行を可能にしているが、当時より価格が低減しているとはいえ電池は100万円を超えると思われる。NEDOの車載用電池開発ロードマップによれば2020年代末まではリチウムイオン電池の性能向上に努め、2030年代以降は1KWHあたりの原価が10,000円代の次世代電池の実用化を目指している。

EVで使用する電池のエネルギー密度(単位重量あたりの出力)がリチウムイオン電池では現在160~180WH/Kgだが技術革新が進んでも250WH/Kgが限界であり、推定でニッサンリーフSは車両重量1,490Kgに対し電池重量230Kg、テスラModel 3では1,611Kgに対し277Kgとなる。PHVであるトヨタプリウスPHVは電池は推定49Kgだが、モーターに加えエンジンも搭載しているので車両重量が1,530Kgとなり、EVとPHVでは車両重量については大差ないと言える。NEDOは全固体型電池、正極不溶型リチウム・硫黄電池など次世代電池により2030年に700WH/Kgのエネルギー密度を目標としている。

車載用電池の寿命については高温・低温での使用、急速充電の頻度、放電状況などにより変動するが、2017年型ニッサンリーフは8年間・160,000km走行、テスラSは8年間・走行距離無制限の電池保証がある。リチウムイオン電池は充放電を繰り返すと劣化し交換が必要となるが、その費用はニッサンリーフの場合600,000円と発表されている。

車載用電池の充電時間はニッサンリーフでは高速充電では80%まで40分、標準仕様の3KW普通充電では16時間かかる。高速充電は短時間で充電出来るが電池の温度が上昇して寿命を短縮する恐れがある。戸建て住宅の場合には自宅に充電器を設置して駐車中に時間をかけて充電することが可能だが、集合住宅で充電設備がないところではどのようにEVの充電を行うか考慮する必要がある。

EVは電動のため走行中に二酸化炭素を排出しないが、充電の元となる発電の際に二酸化炭素を排出している場合が少なくない。ある研究機関によればエネルギー資源の採掘から走行段階まで(Well to Wheel:油田から車輪まで)の総合的な二酸化炭素排出量はある同一重量区分ではEVが130g/Kmであるのに対し最新型のガソリン車では150g/Kmであるという。これは発電方法を世界平均値である原子力11%、火力67%、水力16%、その他6%に基づいて試算している。中国のように二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電が全発電量の75%の場合にはEVの方がガソリン車よりも環境に優しくないことになる。

最新の大型火力発電所ではLNGを使ったコンバインドサイクルでは熱効率52%を達成し、1,700℃級ガスタービン技術開発により57%の実用化を目指している。他方石炭火力発電では大型設備で45%を達成しているものの一般的には40%である。自動車用エンジンの熱効率は30%代の時代が続いていたが、最近のトヨタHVエンジンは41%を達成し、FIA(国際自動車連盟)が開催する世界耐久選手権に出走しているトヨタTSO50では50%近くまで向上している。マツダやニッサンでも高効率なガソリンエンジンを開発している。これらの事情を勘案すると、火力発電所、特に石炭火力発電所で発電した電力を配電して走るEVは必ずしも環境に優しいとは言えない。

EVの実用的自動車としての問題点は走行距離、充電時間、そして電池の寿命である。走行距離を伸ばすには搭載する電池の容量を大きくすれば可能だが、大型のトラックやバスでは十分な走行距離を確保する電池は大きくなりすぎて実用的ではない。今年11月に発表されたテスラの大型トレーラーは640Kmの走行が可能とのことだが、30分で充電するためには1,600KWの電力が必要で、これは欧米の平均的な住宅3,000~4,000戸が30分に消費する電力に相当するという。HV、PHVではEVの問題は回避出来るが、FCVの場合は燃料である水素を供給する設備が必要となる。これらを総合的に考慮すると、将来は近距離走行を目的とする場合はEV、充電設備が十分でない山間僻地などを走行する機会が少なくない一般的な自家用車にはHVやPHV、長距離トラック・バス、路線バスなどは水素ステーションを整備してFCVを採用するのが適切ではないだろうか。
#科学

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