詩篇77篇10節 考 その2
3月
26日
コロナウィルスで私のいるワシントン州は、外出禁止令が発令されて家に閉じこもざるをえなくなりました。
そこで本業の聖書研究に勤しむ時が与えられたという次第です。
数日前も詩篇77篇にある日本語訳にかなり疑問を感じたことを紹介しましたが、さらにその話を進めて行きます。
先ず、その詩篇77篇です。
"私は神に声をあげて叫ぶ。私が神に声をあげると神は聞いてくださる。
苦難の日に私は主を求め夜もすがらたゆまず手を差し伸ばした。けれども私のたましいは慰めを拒んだ。
神を思い起こして私は嘆き悲しむ。思いを潜めて私の霊は衰え果てる。セラ
あなたは私のまぶたを閉じさせません。私の心は乱れてもの言うこともできません。
私は昔の日々遠い昔の年月について考えました。
夜には私の歌を思い起こし自分の心と語り合い私の霊は探り求めます。
「主はいつまでも拒まれるのか。もう決して受け入れてくださらないのか。
主の恵みはとこしえに尽き果てたのか。約束のことばは永久に絶えたのか。
神はいつくしみを忘れられたのか。怒ってあわれみを閉ざされたのか。」セラ
私はこう言った。「私が弱り果てたのはいと高き方の右の手が変わったからだ」と。
私は主のみわざを思い起こします。昔からのあなたの奇しいみわざを思い起こします。
私はあなたのなさったすべてのことを思い巡らしあなたのみわざを静かに考えます。
神よあなたの道は聖です。私たちの神のように大いなる神がいるでしょうか。
あなたは奇しいみわざを行われる神。国々の民の中で御力を現される方。
あなたは御腕をもって贖われました。ご自分の民ヤコブとヨセフの子らを。セラ
神よ水はあなたを見ました。水はあなたを見てわななきました。大いなる水も震え上がりました。
雨雲は水を注ぎ出し雷雲は雷をとどろかしあなたの矢もひらめき飛びました。
あなたの雷の声は戦車のように鳴り稲妻は世界を照らし地は震え揺れ動きました。
あなたの道は海の中。その通り道は大水の中。あなたの足跡を見た者はいませんでした。
あなたはモーセとアロンの手によってご自分の民を羊の群れのように導かれました。"
(詩篇 77篇1~20節)
聖書 新改訳2017©2017新日本聖書刊行会
ここで問題となっている箇所が10節で、
「変わったからだ」と訳していることに問題を感じるのです。
①神学的観点から疑問です。
先回紹介しましたように「神の右の手」とは、神の権威と力、またその栄光を象徴しています。そこに変化があると言うのは神学的に受け入れられません。
②本篇の文脈の中における位置づけからして疑問です。
詩聖は自らの苦境の中で神の恵みと約束を疑うようになります(1-9節)。
が、その中でこれまで神が人類全体にそして自分たちの民族にどのようなみわざをなされて来られたのかを静かに考えます(12-20)。
そこで至った結論が神の道が聖であり(13)、またその不思議な道に私どもが導かれてきた(20)、と告白して神の偉大さを仰ぐものとなったのです。
神への不信から晴れ晴れとした信仰に至った転換点が10節〜13節となります。
その信仰とは、逆境の時も順境の時も神は変わらずに「聖」であられたと言うことです。
③信仰体験に照らして疑問です。
私個人も詩聖と同様に苦難の中で神が見えなくなり、その恵みと約束を疑ったことがあります。しかし黙想と祈りの中で神のこれまでの確かな導きがあることを認め、その恵みが今も変わらず注がれていることを知るのです。苦難を経験するのは神の右の手が変わったことによるのではありません。不変のその右の手の中にあって、なお支えられていることを苦難の中で体験するのです。
その問題となっているヘブライ語本文と最も忠実に翻訳している英語訳を紹介します。
And I said, This is my infirmity: but I will remember the years of the right hand of the most High.
וָ֭אֹמַר חַלֹּ֣ותִי הִ֑יא נֹ֗ות יְמִ֣ין עֶלְיֹֽון׃
日本語訳では、
「いと高き方の右の手の年々を思い起こそう」
となるでしょう。
ヘブライ語本文を解説したアプリによれば、has changed (変わった)という語句はヘブライ語原文にはなく、人称代名詞と「年々」と訳されるべき語句が充てられているようです。
So I said,
וָ֭אֹמַר (wā·’ō·mar)
Conjunctive waw | Verb - Qal - Consecutive imperfect - first person common singular
Strong's Hebrew 559: 1) to say, speak, utter 1a) (Qal) to say, to answer, to say in one's heart, to think, to command, to promise, to intend 1b) (Niphal) to be told, to be said, to be called 1c) (Hithpael) to boast, to act proudly 1d) (Hiphil) to avow, to avouch
“I am grieved
חַלּ֣וֹתִי (ḥal·lō·w·ṯî)
Verb - Qal - Infinitive construct | first person common singular
Strong's Hebrew 2470: 1) to be or become weak, be or become sick, be or become diseased, be or become grieved, be or become sorry 1a) (Qal) to be weak, be sick 1b) (Piel) 1b1) to be or become weak, feel weak 1b2) to become sick, become ill 1b3) (CLBL) to entreat, pray, beg 1c) (Niphal) 1c1) to make oneself sick 1c2) to be made sick 1c3) to be tired 1d) (Pual) to be made weak, become weak 1e) (Hithpael) to make oneself sick 1f) (Hiphil) 1f1) to make sore 1f2) to make sick 1f3) to show signs of sickness, become sick 1f4) to grieve 1g) (Hophal) 1g1) to be made sick 1g2) to be wounded
that the right hand
יְמִ֣ין (yə·mîn)
Noun - feminine singular construct
Strong's Hebrew 3225: 1) right, right hand, right side 1a) right hand 1b) right (of direction) 1c) south (the direction of the right hand when facing East)
of the Most High
עֶלְיֽוֹן׃ (‘el·yō·wn)
Adjective - masculine singular
Strong's Hebrew 5945: adj 1) high, upper 1a) of Davidic king exalted above monarchs n m 2) Highest, Most High 2a) name of God 2b) of rulers, either monarchs or angel-princes
has changed
הִ֑יא (hî)
Pronoun - third person feminine singular
Strong's Hebrew 1931: pron 3p s 1) he, she, it 1a) himself (with emphasis) 1b) resuming subj with emphasis 1c) (with minimum emphasis following predicate) 1d) (anticipating subj) 1e) (emphasising predicate) 1f) that, it (neuter) demons pron 2) that (with article)
שְׁ֝נ֗וֹת (nō·wṯ)
Verb - Qal - Infinitive construct
Strong's Hebrew 8141: 1) year 1a) as division of time 1b) as measure of time 1c) as indication of age 1d) a lifetime (of years of life)
聖書翻訳作業には翻訳者の思想なり神学が反映されるのはやむを得ないことです。
そしてギリシャ語70人訳聖書においては、ヘブライ語聖書の意図が得心出来るように加筆したり修正している箇所がしばしば見受けられます。つまり翻訳者は神ご自身よりも賢くなってしまっているのです。それ以降の他言語翻訳者はこの紀元前3世紀に翻訳された70人訳聖書を参考として翻訳する場合もあります。