白壁(しらかべ)・望郷/島崎藤村
3月
4日
白壁
たれかしるらん花ちかき
高樓(たかどの)われはのぼりゆき
みだれて熱きくるしみを
うれしいでけり白壁に
唾にしるせし文字ならば
ひとしれずこそ乾きけれ
あゝあゝしろき白壁に
わがうれひありなみだあり
望郷
寺をのがれいでたる僧のうたひしそのうた
いざさらば
をこの世のわかれぞと
のがれいでゝは住みなれし
御寺の藏裏(くり)の白壁の
眼にもふたゝび見ゆるかな
いざさらば
住なば佛のやどりさへ
火炎の宅(いえ)となるのを
なぎさめのなき心より
流れて落つる涙かな
いざさらば
こころの油濁るにも
ともしびたかくかきおこし
なさけは熱くもゆる火の
こひしき塵にわれは焼けなむ
藤村は恋に生きるひとなのだろう。恋の遍歴も逸脱的だ。兄の娘とも関係をもってしまうほど。そのエネルギーを綺麗に詩にしてしまうのだか、なんて自己防衛と描写力を備えた才能の持ち主なんだ。好きな人間ではないが、才能は尊敬してしまう。うーん、してやられているのか。。。