月・赤とんぼ/三木露風
3月
4日
雪ふりぬ絶え間もなく、
雪ふりぬいともわびしら。
夜の「時」はかくて近づき
そこはかと木により枝より
悲しげに粉雪に落つる。
凍えたる小鳥の翼を見よ
あふぎ見よ、大木の灰色の欺きを。
いつしか淋しげに月に輝やき
地平より色褪めてうかがひのぼる。
ちからなきためいき……
一物もなき冬の夜に
あはれにも、うかがひ寄る月のこころ。
赤とんぼ
夕焼け、小焼の、
赤とんぼ、
負われて見たのは、
いつの日か。
山の畑の、
桑の實を、
小籠に摘んだは、
まぼろしか。
十五で姐やは、
嫁に行き、
お里のたよりも、
絶えはてた。
夕焼け、小焼の、
赤とんぼ、
とまっているよ、
竿の先。
✳︎實(実・み)