🌹信念の彼。落胆と光。
7月
20日
線状降水帯の豪雨でも彼は動かず、そこにいた。
何人が彼を見つめて通り過ぎただろう。
見下ろす視線を気にすることもなく、
自分の居場所を決めこんだ彼は、蒸し暑い夜をこえても、微動だにしなかったのだ。
彼の信念は、自信からくるのか。あるいは、「無」からくるのだろうか。
彼の存在はオレも認識していた。
毎朝、バイクにまたがり、バックで道路まで出て、そこでエンジンをかける。
オレのいつもの通り道に彼はいた。
避けなければ、と思いながら、後ろ向きで、少し左右にハンドルを切る。
にもかかわらず。
彼を通り過ぎたころ、いたはずの場所に彼がいない。
生きる決意を固くしたオレに恐れをなしたのか。
いや。
前輪にまとわりつく彼。
少し前に進めると前輪と泥除けの間に挟まり、
ぐにっとなる彼。
少し前に進むと、ぐにょー、っとなる彼。
しまった。
彼の存在は知っていたのに。
避けるつもりで、まるで吸い寄せられるように彼を巻き込んでしまった。
落胆の中バイクを進めるオレ。
ラジオから流れるクラシックも、今やただの音に過ぎず、入ってこない。
ああ。
そういえば。
「喫茶んこ」
学生の頃に読んだサラリーマンのマンガに出てくる店の看板。
喫茶、なのに、んこ。
「ラッサイマセ、ラッサイマセ」というキャバレーの呼び込み。
「ま、一因ではあるんでしょうけどね」というセリフが口癖の同僚。
わずか見開き2ページのマンガに出てくる、その回だけの個性的な存在。
学生だったけど、面白かった。
その中に出てくる「喫茶んこ」。
店が話題になる話でもなく、ただ単に看板に書かれた名前。
何というセンス。
ずっとその単語が頭に残っている。
全然関係ないことをしていても、ふと浮かぶ魔力のことば。
もしかすると、「くうねるあそぶ」とか、
そういう言葉と同じ高次元のWord。
苦笑いをしながら、信号停止中に前輪の彼を見る。
信念が強い彼はまだそこに。
はあ。
と。
ラジオから、先週メールしたリクエストメールが読まれた!
かけクラで。
わーい。
苦笑いがはにかみ笑いにかわる。
わずか朝の30分ぐらいの間に
人生の陰と陽が。落胆と光が。
いい一日になる気がしてきた。
夜、会議だけど。
※ここでいう「彼」は羽生君ではありません。
※かけくらOnAir(R4.7.17)
https://drive.google.com/file/d/1ocHR0k2Cfhj-AbZxVezAowfnOmXKEDwK/view?usp=sharing