窓の話2『窓の役割』
6月
10日
人類は洞穴での生活をやめて家を建てるようになってから、採光、換気、自然を利用した空調などのために窓を発明し愛用してきた。初めは単なる穴だったが、雨やほこりなどを防ぐためにひさしや開閉式の木製の蓋が取付けられ、更に採光のために原始時代には動物の皮が、そしてローマ時代の頃にはアラバスター(雪花石膏)や雲母などが窓にはめられるようになったそうだ。
ガラスが最初に工業的に生産されたのは紀元前3世紀頃で、バビロニアで発明された吹きガラスの技術によりグラスなどの食器類がつくられた。紀元79年のベスビオス火山の噴火により埋没したローマ帝国のポンペイの大浴場には90 cm x 120 cmのガラスがはめられた窓が取付けられていたことがわかっている。中世以降は大寺院にはステンドグラスが取付けられているが、非常に高価なため一般の住宅の窓にガラスがはめられるようになるのは、シーメンス炉による板ガラスの大量生産が出来るようになった19世紀まで待たなければならなかった。
現代の住宅では集中冷暖房や計画換気などをおこない、人工的な照明もふんだんに取り入れることが出来る。もしもエネルギー効率の優れた住宅を建築したければ、窓は出来るだけ少なくするのが良い。ツーバイフォー住宅のごく普通の外壁の断熱性は、最も優れたペアガラスの窓の断熱性より4-5倍優れているからだ。それでも現代人は窓を愛用する。閉所恐怖症の人でなくても密閉された窓のない空間は息が詰る。人は野原をかけまわっていた大昔の先祖の追憶がDNAに残っており、如何に人工的な換気設備や照明があっても太陽を浴びている屋外の木々や草花を眺め、それらを通り抜けてきた外気を室内に取入れたい、という願望があるからではないだろうか。住宅は悪天候や外敵から身を守るためのシェルターではあるものの、寒さの厳しい北国と温暖な地域ではその大きさに差はあるが、人々は環境が許す範囲で出来るだけ大きな窓やガラス障子をつけた住宅を建ててきた。
採光や換気や天然の空調、それに美しい野外の景色をながめる眺望の他に窓の役割はあるだろうか。それは建物をより美しく見せるためのアクセサリーとしての役割である。ローマ帝国時代に書かれた建築の理論書である「建築論」によれば建築には用・強・美を兼ね備えることが必須であり、その中の美を究めるのに中世はもちろん近代建築でも窓は重要な要素として扱われている。
窓はエクステリアとしてだけでなく、インテリアとしても建築美学の上で重要な建具である。机やテーブルなど家具は気に入らなければ簡単に買い換えることも出来るが、窓を一度取付けると交換することは容易ではない。だから家を建てる時はその家に置く家具を選ぶのと同じか、それ以上の時間をかけて窓を選ぶ必要がある。それにもかかわらず残念ながら多くの人々は窓の選択にほとんど時間をかけていないのが実情である。
美しさとともに窓の大切な役割は屋外の自然環境からの保護である。窓は風雨や豪雪、厳寒や灼熱の太陽などの自然から室内に住む人間を守らなければならない。そのため窓は嵐にも耐える十分な構造的強度を持ち、冬の寒さをしのぐ断熱性があり、真夏の太陽を防ぐ遮熱性を兼ね備えていなければならない。その上屋外の大自然の景色を十分に楽しむことが出来る透視性も要求される。これらのすべてを満足する窓は最先端の技術を駆使して設計され、近代住宅に使われる建具の中ではハイテクな建具といえる。窓はまさにArt & Scienceと言われる所以である。
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投稿日 2010-06-15 16:21
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投稿日 2010-06-16 14:33
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投稿日 2010-06-26 04:45
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投稿日 2010-06-26 14:37
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