「e投票」は20年前の自分がマンション管理組合の理事長として必要だったシステムを、リーマンショック時の12年前に社員の雇用維持のために開発を決断したシステム。 いわゆるガラ携時代、i-Modeなどで投票する選挙や総会決議のシステムだ。 研究開発のようなプロジェクトで、当初は顧客に相手にもされなかったが、そのうちある学術学会で採用された。 熱い思いだけを伝えたのが幸いし、マンション業界大手でも採用され始めた。 スマホの台頭で世間の風向きが変わった。通信インフラも進化し始めた。 当初から各種団体の法規に準拠していたこともあり、実際の総会や選挙をたくさん経験し始めると、システムは実運用に則した形で格段に成長し、おおよそすべての団体に対応できるバリエーションが完成していった。 選挙や投票のシステムの機能は、設計者が事前にフローチャートで示せるようなものではなく、その80%が法規の順守やイレギュラーな操作、団体固有の文化を具現化することにある。現場でしか得られない仕様がどんどん盛り込まれた。 それでも、売り上げは思うようには伸びなかった。 僕たちは考えていた。 「ああ、いつか営業力のある大きな会社が、このシステムに気付いてたくさん売ってくれるに違いない」 2019年末、資金力のある会社にプレゼンをする資料を作成するために、僕たちは古い友人でもあるコンサル企業を訪問することになった。 ビジネスモデルの確認や市場規模調査が進むにつれ、話は妙な方向へと向かった。 ともかく、答えはシンプルだった。 ---【自分で売った方がいい】--- それが結論だった。 長年待ち続けた救世主はとうとう現れなかった。 やれやれ、結局僕たちが最後までやるしかないと理解した。 早速、コンサルの提案どおり、説明資料を一からから作り直した。 広告チューニングを素人レベルではなく、プロフェッショナルなレベルに引き上げた。 10年以上行ってきたWeb戦略もさらに強化した。 顧客が見るメディアを調査して、広告を集中させた。 するとどうだ。 毎日たくさんの問い合わせがあり、毎日たくさんの発注をいただけるようになった。 システム開発事業では下請けでお仕事を頂くような巨大企業や有名団体も、続々と採用名簿に名を連ねる。 さらに言えば、コンサルが行った市場規模予測が良い方向へ桁違いに間違っていた。 「e投票」を必要とする団体数は、コンサルの予想をもはるかに上回る市場規模があることを現場で知ることになる。 いま、話題になっているオンライン総会(総会外部出席)機能は、通信インフラが不十分であった2014年に既に開発済み。 コロナウイルスの影響で需要が高まり再テストした結果、現在のインフラでは快適に動作していた。 毎日深夜まで対応するチームに支えられながら、10年分の仕事をしている。 そういえば、救世主は12月25日生まれと昔から決まっている。 やっぱり僕がやるのね。