「自惚れた衣を脱いで行きなさい あなたはタイシタコトノナイ 人間なのだから そのことを良く知ることです」 行き着くところは タイシタコトノナイ自分がいると 実感できる場所 其処から始める時 初めて風が囁くことを知る 自分のタイシタコトナイは 卑屈になることではなく 自分が純粋であることを知らない 純粋さをもつに等しい 自分のタイシタコトナイを知ると 進む先は無限にひろがり続け 驕ることない美しさの中にいて いつでも幸せが咲いている
それが何になる 君の小説は世間で多くのひとに読まれ 感動を与え名誉も手に入れたはず とても素晴らしいことなのに そんなことでは救われない と、私に怒って言った 小説が売れて何になると 君が言い切るのだから それ以上に重大なことがあり 困難な現実が押し寄せているのだろう 言葉を掛けることに躊躇した ひとりにさせてくれ ふたりを破ろうとする空間が囁く 君の小説は幻想な世界で神秘的だ 其処には現実から逃れるための 姑息の場所があったのかもしれない そしてひとを誘(いざな)う力が君にはあった しかし別に小説でなくとも良かったのだろう カタチに執着のない美しい姿だ もう君は小説という世界には行かない ひとくち飲んだコーヒーを置き 私が何処へ行くのかと訊くと 妹の見舞い、と言った
小雨に濡れた少女がしゃがみ 黄色の花に触れています 通りすぎるひと達は 声も掛けずに 頷いて行くのです ほんのり濡れた風景に包まれて かなしいだけではありません 詩を読むように 少女は裸になって心を解放し 花と踊っているのですから そっとしてあげましょう 受け入れているのです 雨も花もあなたもひとも 今がとてもだいじな時なので そっとしてあげましょう
詩人が駅前を文学館に 向かって歩いている ひとが誰もいない不思議な街 2017年4月8日 駅のロータリーを抜けると 曇り空に合わせた演出 靴音だけが異空間に響く 詩人が歩くと街中のひと達が 寂しさから遠ざかろうと 街の外れまで逃げてしまった 寂しさに寂しさを重ね 川の流れだけが肯定を見せる まだ可能性があるように 確かにあったのだ 詩人がひとを集め賑わった時代 文学館の受付には誰もいない 拝観者も誰もいない そこにはひとりの孤独がいるだけ 天才は孤独である 時代に合わない才能は悲劇を 演じては彷徨い歩く 詩人の孤独が月に吠えたら 涙くらいは流がせるのだろうか
未来、未来、未来に子どものピンクちゃんとイエローちゃんがいました。ふたりはとても仲が良くて、いつも一緒、宇宙船に乗って旅を続けています。ケンカなんてしたこともありませんでしたし、もともとケンカの意味も知りません。ピンクちゃんはとてもお喋りで、イエローちゃんはニコニコと話を聞いて微笑んでいました。ピンクちゃんはお父さんとお母さんの話をしていました。 「ねえ、わたしたちにはやっぱり、お父さんとお母さんはいないのかな」 と、ピンクちゃん。微笑むイエローちゃん。 「だって、だってさみしいもん。知っているもん。私たちが試験管から生まれたこと」 「うん」 「でもさ、ほんとうにいないのかな」 「う〜ん」 「できることなら、会いたいなあ」 「会えるよ」 「イエローちゃん、今なんていった?」 「会えるよ」 「そうなの、ほんとうにそうなの」 「うん」 「信じる、イエローちゃんのこと」 「うん」 宇宙船はどこへ向かっているのでしょう…… ピンクちゃんとイエローちゃんの先には希望と夢しかありません。それはさみしいけどさみしくない、孤独だけど孤独でないということなのでしょう。ひとりじゃない幸せがあれば、どこへ行こうがどうでも良いことなのかもしれません。 「イエローちゃん、なんだか眠くなっちゃった。おやすみ」 「おやすみ」
吐き気がしていますが すこし疲れてしまっただけで きっと大丈夫です ひと眠りすればいつもの自分に 戻れると思います 足がつったままですが きっと歩けるはずですから すべてが終わることはないでしょう まだ行きたいところがあります 明日が来ますように 頭が割れそうなくらいですが 頭に手をあてても割れていないので きっと大丈夫です 希望が萎みがちになっても 今まで乗り越えて来たのですから 明日に微笑む想像は枯渇しないでしょう 首がズキズキして腕が痛いのですが 寝返りができない程度のことで 駄目と大丈夫とで遊ぶように 心がけて寝ようとしています お願いです眠らせてください そんなことは言いません 今日のくたばった一日を殺して 明日だけを見ようと思います
久しぶりの寝坊 でも遅刻するほどではなく 身体の動きはなんだか調子が良い いつも一時間早く出勤しているが たしか今朝の仕事は立て込んでない なんてハッピーなんだろう 正の連鎖反応は大歓迎さ しかし台所の食器は 軍艦島のように狭く高く廃墟状態 これは見なかったことにして バナナを片手に玄関を開け 自転車に乗るゴリラになり 胸を叩きたくなるが 危ない危ない ねえ 赤信号を安全に渡っているひと うん 気持ちはよくわかるよ でもね 小学生も見ていることだし さすがにいつもより遅いせいか 電車は極うまに設定された 電子ジャーのように かなりの圧力になっている 負の連鎖反応は歓迎できないぞ ん〜 通勤電車の混み具合を考えると やはり早出勤の方が良さそうだ おしくらまんじゅう おされてなくな あんまりおすと あんこが出るぞ あんこが出たら つまんでなめろ 歌っている場合じゃないけど 今日も頑張って行こうじゃないか!