電柱を抱きしめ
5月
5日
飼い猫が外を眺めている
何を見ているのかわからぬ瞳
少年が考え事をしているように
時間さえ止めてしまう魔法
忘れていた冒険という言葉を秘めて
あんたは変わった子だね
よく近所のおばちゃんにいわれた
少年時代はとても自由だった
電柱を抱きしめると落ち着いた
近所の電柱に耳をあて
グルグルと音が伝わるのを
何時までも聞いていた
電柱を抱きしめる旅へ行こう
自転車を漕いで漕いで雲を追いかけるように
まだ知らぬ電柱を求め
車の通りの多い所
怒っているかのように唸る電柱
田んぼの横にある電柱は
グーグと寝息をたてて眠っている
海岸沿いの風が強い所
シュウシュウと早く帰りなさいと叱る電柱
みんな違う電柱の言葉が聞けた
少年時代は電柱と会話することも出来た
今はどうだろう
ひとの言葉さえ怪しく思えて
恥も外聞もなく
大人になった私は電柱を抱きしめたくなった
そして抱きしめた
あんたは何も変わっていないよ
そんな言葉が聞こえ
僕らしさを思い出すように
グルグルと伝わる音を何時までも聞いていた