雨が降れば
5月
5日
本日、雨のため傘のお忘れ物がたいへん多くなっております
お降りの際は手元の傘をお忘れないよう願い致します
次は上山田、上山田
改札を出る
此処へ来る日は必ず雨が降っている
それは雨の日にわざわざ此処へ来るからだ
恋人に会うためである
ただ彼女はもうこの世のひとではない
この場所と雨は未練を緩和する
公園のベンチには雨の吹き込まないほどの屋根がある
銅板が重ねられた屋根には
雨粒の音がひと粒ひと粒しっかりと響いている
膝を寄せ合った想い出
今は雨が好きだった彼女の温もりはない
霞んで見える木々
肩を落としたような心情で共感を得る
潤った土からは想起の匂いがして
面影を追うことに癒されてゆく
心象に彼女を再生してゆく雨
想い出の中だけで時間を過ごし
日々の哀しさを忘却させ
頬が緩んだ顔が水たまりに映る
雨が降れば此処に来る
哀憐に触れようと面影を追いかけてしまう