追いかけて 逃げて行く自分を 見ようとする 指摘され すぐに受け入れられる そんなことではない 時間が必要だ 空の青さの 青に気づく頃には 白や黒の色合いも知り 己色の存在を模索 追いかけて 逃げて行く自分を 見ようとする 肯定の中に否定を宿し 今までと変わらない道だが 見ようとすることで違ってくる 景色は広がり 自分が小さくなっても 居場所さえわかっていれば どうにかなるものだ
昨夜は鉛の鈴が鳴り 一日の重みに 鈍くギシギシと もしかしたら 初めての痛み 言葉では誤魔化せずに 朝だけはやってくる 軽く笑ってしまおう そう軽く 笑えるのだから びくびくしても いい方には 行かないだろうし 冷めて流そう 自分を守るように そんな朝に 娘が「おはよう」と 普段は素っ気ないのに 軽く笑ってしまおう そう軽く 笑ってしまおう
いつからだらう 太陽が足元にあって 僕の影は太陽系を彷徨い たまに 楽しんでいるよ そんな手紙が 届くようになったのは 最近は地球に 影たちが集まって 遊んでいるらしいよ 影たちが影踏み鬼して ケラケラ笑い 野を越え山を越え たまにイルカと泳いだり なんだか楽しそうだ 僕といえば 紫外線を浴びすぎて カラダがずいぶん 黒くなって でも それってもしかすると 影になれるのかな 自由に近づいているのかな それとも自分がなくなっているのかな
最近、鎖骨やら胸骨の変形が出てきた いったい俺は人間から どんな動物になろうとしているのか 朝、骨の変形に気がつく 日中は身体もカッカしているから 静かな光と共に 痛みから焦りとして目覚める ドクターは言う そういう人、いるんだよ まあ、頚椎もくの字への字に ガクガクになっているのだから 骨が少し出たくらい ネタにしてしまおう はてはて、まだ手の握力は 残されている あとこの手が活躍するのは 何年くらいなんだろう ここが一番、俺にとって重要だ 気軽に詩を書けるのも 手のおかげだから 使えるうち、ほんと感謝だな 先日「どんと構えていなさい」と ある人に言われたけれど 俺にはそんな時間がないんだ だって、人間から違う骨格動物に なってゆくのだから まあ、心だけは人間だったら この先、どうなろうと 詩を書き続けることだろう 信じる者が詩人だ
ナインテーン フォティファイブ(1945) と ヒロシマ、ナガサキ の言葉が車内で聞こえる そして笑い声 聞きとってしまった英語 この不快感は辛い この話はどこから来て 何処へ繋がり どう収まるのだろうか とても悲しい朝 現実が過去を笑っている 過去が現実に泣いている トエンティ セブンティーン(2017) 今日という日が曇っている
殻の中で 僕はずっと詩を綴っていた 外の世界は眩しそうで 四十年も躊躇していたのさ 自分だけの世界で 十分と思っていたけれど やっぱり僕の中にある 飛び出したい言葉が背中を押した 勇気を出して頭を出したら 雨が降っていて 誰かの言葉が響いていた でん でん むしむし かたつむり お前のことだよ 僕は初めて自分を知った なんでだろう 涙が雨に流れてゆくと ひとりでない言葉の角がでて でん でん むしむし かたつむり それは僕のことさ 歩き始めたばかりの 雨は優しくひとひと降って なんだかこの先 素晴らしい言葉に触れる気がして ズルズルと僕なりの足どりで さあ 進もうか
ごきげんよう ようこそいらっしゃいました 雨の中を大変でしたね どうぞこちらへ そうですか 上司の方がお休みを入れてくださったのですか 貴重なお休みの日に 字念屋へお越しいただき有難うございます 紫陽花も色づき始めましたね ゆったりとした気持ちで 占いを聴いてくださると宜しいかと思いますよ では あなたの背後文字を見ていきますね はい 見えてきましたよ…… そうですか分かりました あなたの中核文字は「傘」 雨傘や日傘を意味する傘で 象形文字で分かりやすい字ですね 部首は人屋根(人やね)となっていまして 「合」の部首である蓋の意味合いとは違います ですから傘のこま(小間・駒〈傘布の部分〉)が あなた自身となって その下には複数の人がいるという字です 包容力があり人を守ることができ 信頼されるので人が集まって来ます たいへん頼もしい中核文字をお持ちです あなたはお若いですが 子どもからお年寄りまで みんなに好かれる素晴らしい方 はい そうですか ご自分の特性をよくご存知ですね 確かに人を守ろうとして 自分が疲れてしまうのでしょう 責任感からすぐ どうにかしてあげないと そう思ってしまうのですね そこはひと呼吸おくことが大事です そうなんです 焦ってしまうと良い結果も出ないですから あなたに念じてもらいたい文字は「間」 すなわち呼吸です それは自分を大切にすることにも繋がり あなたにとって 人を幸せにすることのできる文字なのです ありがとうございます ご理解をいただけて光栄です ぜひ「間」の文字を念じてくださいね 自分を大切にすることは人を大切にすることで 人を大切にすることは自分を大切にすることです いえいえ そうおっしゃっていただくと 私としても張り合いが出てまいります お言葉をありがとうございました 私には傘という中核文字はありません あなたにのようにたくさんの人が 集まってくることはないですね いつもお客様は一日にひとりかふたり そんなところですかね 商売として考えましたら 傘の中核文字が欲しいですかね 冗談ですよ 今日はこれくらいにしましょうかね また何かございましたらお越しください なるべくあなたのお力になれるよう 努力いたします それでは 本日は字念屋へお越しくださり 誠にありがとうございます 雨は止みましたね そちらの傘をお忘れないように ごきげんよう
詩に染まる日々の中 そよそよと吹く風にうたた寝 小鳥がさえずり 僕はどこかの記憶にいて 言葉のない詩 理想の舟 雲の上で揺れている 夢は詩を模りながら 曖昧な正確さを持って 歌うのだから 敵うわけがない ああ、この感じを 言葉に出来たのなら 僕はきっと詩人になれる 完全に目が醒めると 言葉に縛られ 言葉に操られ 言葉に染まり 拘束から逃げるように 夢に近づこうとする力でしか 今は進めない 言葉が言葉を越えないように 僕が僕を越えないように 寄せた言葉で象ってゆく 今はそれしかない
この世界に腹を抱え笑ってしまう 詩があってもいいじゃないか そうだこの方向性でいこう しかし、笑わすというのは なかなか難しいかもしれない ひとによって笑いのツボは違うし こりゃ詩とは言えない 俺は認めない、と 真剣に怒るひとがいるかもしれない だが、やってみないと わからないってことは良くある話 まずは一冊の詩集を作ろう 私だけではキャラクター不足だ トリオで三方向から攻めよう ひとりは おとぼけ詩 もうひとりは ハードボイルドにスケベな詩 そのまたもうひとりは ズッコケ物語な詩 これですべてのお笑い詩が 網羅されるに違いない いけるぞ、これはかなりいけるぞ あとは狙いをつけている詩人に 依頼して、詩を書き、印刷、束ねホッチキス そしてウケる、読んで幸せをあなたに