駅前をふらつけば 夢みることを否定される どうせそんなもんだよ 俺なんてと ため息を逃がし 望んだ抜け殻が 吸い込んだ焦げた匂い 落ちた花びらが語り出す 咲くことも知らない 俺の踏まれて黒ずんだ夢 強くなければならない 俺らしくない俺を感じて 吹かれたひと葉の 行き先を追えば高い空 立ちくらみと涙 生きていく 難しさともどかしさ 項垂れた先の 踵を引きずり進めれば それでも を楽しむかのように 落ちてきた枯葉が カラカラと笑っている
偽物の僕なんていないのだから 僕は本物の僕なんだけれど 本物の僕ってどんな僕なんだろう 僕に僕がずっと重なって 自由に自由が重なって あんまり自由じゃなくなって 僕に僕の不自由が顔を出しながら 生きていることを味わう 怒らないといけない時に笑って 泣かないといけない時に笑って けっきょく 笑わないといけない時に笑えず そんな僕がいて 僕が僕に気を遣っている僕がいて そうしたい僕がいて 本当の僕がどんどん解らなくなるけど それでも僕が僕を許せている 僕はまだ僕を愛している
またね 二度と聞かぬまたねに 小石の耳栓はポトンと落ち 君のさよならは爽やかだった 僕の中にある時計は今 軒の下の雨宿りで止まって 君のいない僕の時計は 寂しさより静かで冷たくて 瞳に波うつ涙に滲んでは 君の姿を探し 君への愛を考えた時 君と違う時間を自ら流れること この救いを騙されたように 信じて生きて行くしか 僕の中にある時計は 想い出が邪魔するだろうけど 君から教えてもらった ほんとうの僕の姿に苦笑いして ハアーと息を吐き出して また回り出す秒針が聴こえる 僕が君への愛を知った音となって
倒れ込んだ夜に このまま 起きることがなくても良いか なんて思っちゃいけない気持ちより すべて真っ黒になって良いという気持ちが くるくると回り始める 気がなくなってしまうことの恐怖より 脳は甘いクリームを味わいながら 幸せだったかどうかも曖昧になって 目が覚めた先の面倒から 遠く遠く どこまでも遠く寂しさのない 孤独の果てに行きたくなっている わからないから怖いというが もうわからなくても怖くなくて やり切っただろう幻想を枕に もう良いんじゃないか もうこの辺で良いんじゃないかと 充実がこんなところで にょきにょきと芽を出すのだから 口は緩んでよだれが垂れているのだろう 喜びもなく苦痛もないこの状態から このまま行ってしまおう
固まった身体は痛みの中 もう限界だ、と手を雲へ伸ばし どうかこれ以上、苦しまずに連れて行ってくれ 張り付いた喉、膨らむ患部、激痛、縛られた意志 運命は残酷に自分を躊躇なく壊して行く 未練ばかりの人生でも早く早く、と 声に出来ない叫びが伝わったのか 医師の処方により萎えた藁を握りしめながら 流し込まれた麻薬に…… 姑息の間(ま)にひとつ願っている 朦朧とした記憶にある家族に会いたい、と ✳︎ お父さん 涙を流しているよ みんなのことが解っているみたい 覚えのある声、温もり 薄っすらと開けた目から 光と優しい感情 お父さん お父さん 口の動きで聴こえているだろうか 大丈夫だよ、が お父さん お父さん 口の動きで聴こえているだろうか ありがとう、が お父さん お父さん 口の動きで聴こえているだろうか 幸せだったよ、が お父さん お父さん 口の動きで聴こえているだろうか 嬉し涙だよ、が
あれっ ナナに水と餌を 最近やってないなあ やばいやばい 今まで一日たりとも 忘れたことがないのに それにしても どこにいるだ ナナ ナナ ナナ 名前を呼んでみても…… おいおいそこかっ クローゼットの中とは どうしてこんなところに それにしても 痩せこけてしまったな ごめんよ 俺は何をしていたんだ ごめんよナナ ほら食べてくれ 徐に伏せしたまま首を立て 水を飛ばし 餌をムシャムシャと 食べ始めた 良かった ほんとうに良かった お前の元気が何よりだ いつものように 寄り添ってこないけれど それでもいいよ さあ ナナの好きな散歩に行こう ほら行くぞ ナナ ナナ ナナ…… カーテンの隙間から 眩しい光とともに朝が来た ナナ 逢えて嬉しかったよ
僕らが平和な時 大地から雲へ 涙が上がっている 飛べないのに 空へ手をひろげ 微笑み 君らが苦しい時 雲から大地へ 涙があふれている 泳げるのに 手が頬で固まり 泣いて 僕らの手を 君らの手に 添える時なんだ
飛び交う塊りの 悲痛の叫びに画面が暴れ出し まだ青空を見上げていた 君の微笑みが落とされてゆく さしのべる手を探している さしのべられる手を探している この黒い苦しみに光る矢は 救いに絶望を刺そうというのか 嘆きが喉元につまる時 そこにどんな声を当て叫べば 血の滲みた地に再び 黄色い花が咲くのだろう 君からもらった種は ポケットでこんこんと応える 祈らずにそれを掬えない 希望を撒かずにはいられない
ごきげんよう この度はメールでお申込みいただき 誠にありがとうございます コロナ禍ということもありまして 字念屋もリモートでの占いを開始しています 直接にご対面できないのは残念ですが 画面越しでもあなたの背後にある念字は 十分に見ることができますのでご安心ください はい、よろしくお願いします とても素敵なお嬢さまね えくぼがとても可愛らしくて みなさんから好かれるのが 表情からもすぐにわかります すでにあなたの中核文字が想像できますけれど しっかり見ていきますね では目を閉じてリラックスしてください ……はい、目を開けてください くっきりと見えました あなたの中核文字は「和」です 「禾」は稲穂で「ノ」のところを見ると 頭がずいぶん垂れていますね 実るほど頭を垂れる稲穂かな、という ことわざは聞いたことあるでしょ はい、その通りです 立派な人ほど謙虚な姿勢でいる そのようなことわざですね 相手を「和ませ」「和らげ」「和ませる」といった もうそこにいるだけで仏様のような ひとを穏やかな心にさせてしまうのですから 素敵な「和」の中核文字をお持ちです それはたいへん素晴らしいことですよ みなさんが癒されている証拠です そうでしたか 悩んでいらっしゃるようですね 世間の時間の流れについて行けず とても疲れてしまうのですね 将来に不安もある、と 「和」の中核文字をお持ちの方は おっとりされていますから みなさんの考えや行動について行こうとすると ストレスがかかってきます その焦りが悪循環になってしまい するとあなたの「和」もくすんでしまい あなたがあなたらしく笑顔でいれなくなります ひとは時計で計れない時間があり それぞれの時間の流れがあります 世間の時間にばかり合わせて行こうとしますと 心が疲れてしまいます 今まで懸命について行こうと走ってきたのですから 大学生なりに許す限りかもしれませんが 立ち止まったり ゆっくりと寄り道などされてもいいと思いますよ あなたがあなたに微笑むような 時間のお過ごし方をお勧めします みんなが先に進もうが あなたがあなたの道を進むことが大事です ひとの道を進むことはできません いろんな世界を見て感じ ご自身探しをされると良いと思いますよ そうでしたか 来週からお花屋さんでアルバイトをされるのですね それは素晴らしい経験になりそうですね 慣れぬことがあるかもしれませんが その中で楽しみを見つけながら 自分がどんなことに喜びを得るのだろう そんなところを探ってみてくださいね そうです、その微笑みを大事にしてください ひとを和ます幸せを感じながら 慌てず焦らず今はご自身を見つめることです 元気が出てきましたか それは良かったです ありがとうございます そうおっしゃっていただけると こちらとしてもたいへん励みとなります では本日のリモートでの占いは これくらいにしておきましょうかね まだまだ寒い日は続きますが 風邪など引かれぬよう温かくお過ごしください この度は字念屋へご来店いただき 誠にありがとうございました またのお越しを楽しみにお待ちしています ごきげんよう
君の上着から一本の白い糸 背中に垂れるそれを引っ張ってみた シュルルル 君は萎み始め 白い糸の先には何もなくなった 僕は白い糸を捨て駅へ向かう 電車の天井から一本の白い糸 まさかと思ったけど引っ張ってみた シュルルル 電車は夜空に吸い込まれて 白い糸は風に飛んだ 僕はレールを歩き自宅へ向かう 玄関のドアに一本の白い糸 家が消えそうだけど引っ張ってみた シュルルル 今度は土に吸い込まれてしまった 白い糸を僕の胸に当ててみたら くっ付いてしまったようだ 僕の胸から一本の白い糸 僕が消えそうだけど引っ張ってみた シュルルル 僕の身体は白く細長くなり 君の背中に垂れ下がっていたんだ 誰か僕を引っ張ってくれ